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パラレル to LOVEる・第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜⑬

「わたしにしかできないこと? そうね……あなたには思うところも色々とあるんだけど……今回は、シュヴァルツたちの暴走と、彼がケガすることなく捜査官に身を委ねることが出来たお礼に、聞いてあげてもイイよ」

 クリーブラットは、視線をそらして答えながらも、こちらの要望に応じようという意志を示してくれた。
 彼女の対応に、ホッとしながら、オレは気になることをたずねる。

「ありがとう、助かる。頼みたいことというのは、シュヴァルツのことなんだ。捜査官に身柄を確保されたってことだけど、シュヴァルツは、このあとどうなるんだ?」

「わたしは、法律の専門家じゃないから、断言はできないけど……捜査官たちは、今回の件について、銀河系司法裁判所で『テロ等準備罪』と認定されて、首謀者のシュヴァルツには、20〜30年の懲役刑が課されるだろうと話していたわ」
 
 やはり、そうか……。ただ、極刑など命に関わるような刑罰を受けずに済むのは、本当になによりだ。
 そして、彼女の言葉を理解したことを示すようにうなずいてから、懇願するように、自らの願いを語った。
 
「身勝手な頼みになって申し訳ないが……クリーブラット、アンタには、シュヴァルツの刑期が終わるまで、あいつのことを見守ってほしいと思うんだ」

 オレの言葉を耳にしたクリーブラットは、ハッとした表情になったあと、

「そう……彼のことを心配してくれるヒトが居て良かった」

と、つぶやいてから、自分の考えを噛みしめるように、その想いを語る。

「この先、もう二度とろくでもないことを考えつかなように、わたしも、シュヴァルツのことは、なるべく、見守っていこうと考えていたんだけど……本人そっくりのあなたにお願いされたら、断るわけにもいかないか……?」

 いつもは、自信に満ちた表情である彼女にしては珍しく、はにかんだように答える彼女に、オレは、心の底からの感謝の気持ちを伝える。

「ありがとう! クリーブラットが寄り添ってくれるなら、シュヴァルツはきっと……」

 すると、クリーブラットは、さらに表情を赤くしながら、抗議する。

「そういうことを真顔で言わないでもらえる?」

 彼女を赤面させるつもりはなかったのだが……。
 三葉みつばより大人びた雰囲気を感じさせるクリーブラットが、コロコロと変わる表情を見せるようす微笑ましく感じて、こちらの表情もつい緩んでしまう。

「なに、笑ってるのよ! そういうところも、シュヴァルツと同じでムカつく!」

 今度は、憤慨するように顔を逸らす彼女のようすをながめながら、クリーブラットとシュヴァルツが仲睦まじく会話を交わしていたであろう過去のことを想像し、過激派集団のリーダーが刑期を終えたあとの未来も、そんな機会が増えることを願ってやまない。
 そんなことを考えていると、続いてクリーブラットが独り言のようにつぶやく。

「まあ、『紅の豚』のマダム・ジーナを演じたあの歌手も、刑務所に収監されていたテロリストと結婚したって言うし、彼が求めるなら、そういうのも悪くはないかもね……」

 彼女の住むセカイで、クリーブラットは、押しも押されぬ人気アーティストの地位を確立しているらしいが、エンタメ業界のニュースとしては、これは、大きな話題(=スキャンダルのネタ)になるのではないかと、少しだけ心配になる。

 ただ、それ並行世界の芸能ニュースになりそうな発言以上に驚いたのは、彼女たちが住むセカイでも、スタジオ・ジブリの作品が制作されているということである。スゴイな、宮崎アニメ。

 そんな風に、幼なじみそっくりの世界的アーティスト(オレの住むセカイの話ではないが……)の言葉を聞きながら、オレは、そろそろ、自分自身のこれからと向き合うべきときが来たと考える。

 それは、話しておくべきことを語り終えたようすで、サッパリとした表情を見せるクリーブラットの顔色からも感じられた。

「色々と話しを聞いてくれてありがとう。あなたから興味深い話しもたくさん聞けたし、とても楽しかった! でも、もう時間がないから、そろそろ帰らせてもらうわね」

 彼女は、そう言って別れのときが来たことを告げる。

「そっか……オレも、色んなことがわかって、スッキリした。あとは、リハビリをはじめ、自分のことをがんばってみるよ」

「そうね! わたしも、違うセカイから、あなたを応援してるから! にも、よろしく伝えておいて。ずい分、あなたのことを心配してるみたいだから」

 クリーブラットは、そう言ったあと、「って誰だ?」と、確認しようとするオレの言葉を待つことなく、

「ねぇ、最後に一緒に写真を取っておかない? 並行世界の知り合いは、わたし達にとっても貴重な存在だしね」

と、提案してきた。

 オレが、返答する前に、彼女はオレの首元に右腕を回しながら、胸元からスマホのような端末を取り出し、

「Say! Cheese!!」

と声を発して、勝手にシャッターを切る。
 そして、オレが、抗議の声を上げる間もなく、彼女のデバイスを操作すると、

「あなたのセカイではスマホって言うんだっけ? そのモバイル端末に画像データを送れるようになったら、送信してあげるから、『彼女とデートなう』の投稿に使ってもイイよ」

などと、オレたちのセカイでは、とっくに廃れたSNSのネタをドヤ顔で披露する。

 オレが、ため息をつきながら、
 
「やれやれ……技術力や知的な方面では進んでいるみたいだが……アンタのセカイは、このテの流行は遅れ気味のようだな」

そんなことをつぶやくと、最新のネタが通用しないのかと、クリーブラットは、不思議そうな表情をしていた。

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