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パラレル to LOVEる・エピローグ〜この世の果てで愛を唄う少女〜後編

 その日の放課後、生徒会メンバーとなっていた河野雅美こうのまさみ島内四片しまうちよひらの校内公式キャラクター化に関する交渉を終えたオレとももは、朝の約束どおり、人工島の最南端にあるマリンパークに向かった。

 海に面した公園の欄干の向こう側には、コンテナの積み下ろしを行う巨大な巨大なクレーンがいくつも立ち並び、まるで、オアシスに並んで水を飲むキリンの群れのようだ。

 かつては世界屈指の規模だった港町に隣接された人工島に暮らす自分たちにとって見慣れた風景ではあるが、春の柔らかな夕陽と、その光に照らされ輝く海面は、自分の中の想いを告げるのにピッタリなロケーションだと感じる。

玄野くろのくん、なに? わざわざ学校から離れた場所で伝えたいことって?」

 オレの気持ちをよそに、怪訝な表情でたずねてくる彼女に対して、

「忙しいのに付き合ってもらって悪いな」

と、一言お詫びをしつつ、ことわりを入れる。

「この場所で、どうしても、ももに伝えたいことがあるから……海に向かって叫ぶオレの想いをきいてくれないか?」

「ハッ!? えっ!? 急に海に向かって叫ぶとか、なに言ってるですか!?」

 困惑して、周囲にヒトが居ないか確認する彼女に構わず、オレは、海を臨む欄干に両手を掛け、大海原に向かって、思いの丈を絶叫する。

もも! オレが眠っている間、ずっと付き添ってくれてありがとう〜! お礼に、させてもらいたいことがあるんだ〜!」

 自らの想いを海に向かって吐き出すと、彼女は、動揺したのだろうか、真っ赤になりながら、オレの身体を揺すって抗議する。
 
「ちょっと、止めてください……離れた場所だけど、他にもヒトは居るんですよ!」

「いや、スマン……自分の気持ちを表現するには、こうしないと、収まりがつかなくて……」

 オレが、自身の言い分を伝えると、彼女は声のトーンを落としながらも、こう続けた。

「それは、わかりましたから……もう大声で叫ばないでください。――――――それで、センパイのお礼って、なんなんですか?」

 その返答に、少し冷静さを取り戻したオレは、彼女に向き直って両肩に手を置きながら、提案する。

「あぁ、これまでしてもらったことの埋め合わせになるかはわかないが……寝起きの良くないももに毎朝、モーニーング・コーヒーを淹れさせてくれないか?」

 オレが言葉を発した直後は、ほうけたような表情をしていたももは、しばらくしたあと、ほおだけでなく、耳まで赤くして声をあげた。

「な、なんで、センパイがワタシの寝起きが悪いことを知ってるんですか、イヤラシイ!」

 しまった……!

 ゲルブたち銀河連邦の捜査官が、No.20000000と呼んでいた、オレが元いたデフォルトのセカイでは、ももは、同居人ではなかったのだ!

 うかつな自分の性格を呪いつつ、なにか、申し開きになるようなことを伝えなければ……と、言葉を探していると、彼女の方が先に口を開いた。

「それは……毎朝、ワタシを起こしに来てくれると言うこと?」

 おずおずといった口調でたずねてくるももの言葉に、オレは、無言で何度も首をタテに振る。

「他の女子とかは気にならないの?」

「あぁ……オレはももだけを大事にしたいと思うから……」

「ホントに……? 死ぬまで、一生?」

「あぁ……ずっとだ……」

 ぎこちなく答えるこちらの言葉を受け入れてくれたのか、彼女の表情が少し柔らかくなる。
 そんなもものようすを確認して、オレも両手で掴んでいた手を彼女の肩から放し、息をつく。

 そうして、新しくクラスメートになった彼女の返答を待とうとした瞬間、オレの胸元で、スマホが

 ピコン!

と、反応した。

「緊急連絡ですか、確認します?」

 という彼女の言葉にうながされて、胸ポケットから取り出したスマホを確認すると、想定もしていない人物からのメッセージが入っていた。

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 お久しぶり、玄野雄司くろのゆうじ

 キミに会う許可が降りたので
 連絡させてもらったよ

 今度の大型連休のとき、
 ブルームたちと一緒にキミに
 会いに行こうと思うんだ!

 キミの都合はどうだい?

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 メッセージを確認したオレは、ももに対して、

に住んでる友達からだ」

と、説明する。

 ただ――――――。

「離れたところに住んでいるお友達が居るんだ! どんなヒトなの?」

と、彼女がスマホの画面を覗き込んでくると同時に、続けてメッセージと添付ファイルが着信し、悲劇は起きた。

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 今度の話のタネになったら…
 と思って画像を送っておくよ

 どちらも良く撮れているね。

 追伸:

 クリーブラットとは仲が良い
 みたいで安心した

 クリーブラットはキミに
 厳しいことも言ったけど…
 
 それは、シュヴァルツ達から
 キミを守るためだったんだ

 彼女を許してあげてほしい
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 そんな、メッセージとともに、二枚の画像が添付されて送られてきた。

 1枚目は、校舎の屋上にて、キルシュブリーテから救い出したあと、河野雅美こうのまさみの身体を支えて抱きかかえている場面。
 2枚目は、昏睡から目覚める直前に、クリーブラットとふたりで撮影した写真である。

「なんですか、これは……!?」

 オレの手からスマホを奪い取ったももが、時代劇で取り出される将軍家の家紋が入った印籠のように、端末のディスプレイを突きつける。
 
「そ、それは……ちょっと、離れたセカイというか場所で起きたことであって……」

 なんとか、並行世界のことを触れずに説明を試みようと脳をフル回転させるが……。
 
「他の女子とかは気にせず、『一生ワタシだけを大事にする』って言った……そう言ったよね?」

 ふたたび、オレより先に、ももが口を開き、自身の見解を述べる。

「でも、は、ずっと入院してたし、これって、半年以上も前のことだよね? もう、彼女たちのことは気にならない?」

 そう、では、オレは、ずっとベットで寝たきりの状態だったのだ。
 ももの最後の質問に対してのみ、オレは、全身全霊を持って、大きく何度もうなずく。

 オレの反応に、彼女は緊張を解いて、スマホを差し出しながら、こう告げた。
 
「まぁ……そう言うなら、今回は許してあげる。ただし――――――」

「ただし――――――?」
 
「朝のコーヒーは、ミルクたっぷりのカフェラテにしてよね」

「わかった! エスプレッソマシンと専用のミルクピッチャーを用意する」
 
 オレの返答に納得したのか、ももは、満足するような表情を見せたあと、最後にこう付け加えた。
 
「ワタシがもう良いって言うまで、毎朝ずっと続けること!」
 
 わずかに目線を海の方に向けながら語る彼女の顔が赤く見えるのは、夕陽のせいだけだろうか? と考えつつ、オレは、ももの言葉にうなずいた。

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