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パラレル to LOVEる・第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜⑫

 幼なじみにそっくりの少女からお墨付きをもらえたことで、前向きな気持ちが沸き上がってくる。

(ヨシッ! 早く普段の生活に戻るためにも……)

 と、リハビリテーションにチカラを注ぐ決意を固めるが、その前に確認しておきたいことがある。

「気になったんだが……クリーブラットは、どうやって、オレの意識とコンタクトを取っているんだ? 実際のオレは、まだ意識がないまま寝たきりなんだよな?」

「正確に言うと、いまのあなたの肉体は、もう目覚める直前だよ。わたし達のセカイの脳波測定機でも、通常の睡眠時の脳波データと変わらない数値に戻ってる。いま、わたしは、自分たちのセカイの睡眠学習にも使われるデバイスで、あなたの意識に話しかけてるんだ」

 睡眠学習装置ときたか……。
 寝ている間の時間を学習に割り当てることができるなら、さぞかし、学力の向上にも役立つだろうし、彼らの知識量が、同世代の自分たちを遥かに凌いでいることも納得できる。

 ただ、そんな昭和のSFアニメのような設定を説明されても疑問は残る。

「そうか……ただ、それなら、シュヴァルツたちは、どうして、真っ先にオレの肉体に直接コンタクトしてこなかったんだ? ユニバーサル・シリアル・ブレインサーキットU・S・Bとかいう端末で、眠ったままのオレの脳から、脳内データを吸い出しておけば良かったんじゃないのか? そうすれば、わざわざ、ゲルブたち捜査官と対峙しなくても良かっただろう?」

「いまのように、意識が戻り掛ける前のあなたの脳には、事故よりあとの記憶が欠落していたみたいね。あなたの意識は、色々なセカイに出張してたようだし……ハードウェアはあっても、その身体は、肝心のソフトウェアのアップデートが出来ていない旧バージョンのままだったってことみたいね」

 なるほど……。
 
「オレの意識が身体に戻ってきたことで、ようやくデータの同期ができるようになって、この身体の脳内記憶も最新版にアップデートされたってわけか……」

 クリーブラットの説明に納得し、独り言のようにそうつぶやくと、彼女は、

「そうそう、理解が早いじゃない? だから、シュヴァルツたちは、色んなセカイに出没するあなた自身に直接的な接触を図るしかなかった……もっとも、その間、誰かさんは他のセカイで、後輩の女子と同居して、『お兄ちゃん』なんて呼ばれる生活を楽しみながら、鼻の下を伸ばしてたみたいだけど?」

と、半開きの粘りつくような目で返答する。
 その冷ややかな視線で、背中に冷たいものが走ったオレは、慌てて自身の潔白さを主張する。

「それは、誤解だ! オレは、ただももを守ろうとして……」

「ふ〜ん、まぁ、別のセカイのあなたが、どうしようと勝手だけどね……でも、もし、シュヴァルツが同じようなことをしていたら、お尻にケリのひとつでも入れていたところだけど……」

 恐ろしいことを口にするクリーブラットの気の強さは、オレの良く知っている幼なじみとは比べ物にならないようだ。
 そんな彼女の機嫌を損ねないように、オレは、シュヴァルツにユニバーサル・シリアル・ブレインサーキットU・S・Bのデバイスを差し込まれたときに見た映像のことを懸命に思い出す。

「そ、そうか……クリーブラット、色んなことを教えてくれて、ありがとう。お礼と言ってはなんだが、オレも並行世界の自分たちの記憶を共有することで、気づいたことがあるんだ」

「あら、どんなことなの?」

 露骨に話題を変えたことを気にする風でもなく、彼女は、反応を示す。

「シュヴァルツの記憶が流れ込んでくることで、わかったことがあるんだ。あいつには、お気に入りの一曲があるらしくて、何度も何度もオレの脳内に歌と映像が流れてきたんだ……オレたちのセカイでは、斉藤和義って歌手が歌ってる『ずっと好きだった』ってタイトルなんだけど、アンタは聞いたことあるか?」

 シュヴァルツが何度も聞いている楽曲なので、同じセカイの住人であるクリーブラットも、この曲のことを知っているのではないかと、予想しながらたずねてみたのだが……。

 彼女は、曲のタイトルを聞いたとたん、うつむきながら、ポツリと答える。

「その曲なら知ってる……」

 クリーブラットは、なぜか、顔を赤くしながら、

「へ、へぇ〜……シュヴァルツって、そうだったんだ……」

と、無関心を装いつつも、嬉しさを隠しきれないといった表情で答えた。

(やっぱり、なにか感じるところはあったみたいだな……)

 自分の狙いがズバリと的中したことを確信し、「してやったり!」と内心でほくそ笑んでいると、彼女は、少しだけ不満気なようすで、

「う、歌のことで、わたしの心を揺さぶろうとするなんて、生意気じゃないの!?」

と、訴えてくる。

 そのようすを苦笑して眺めながら、オレは、幼なじみに良く似た女子に頼みごとをしようと考えた。

「すまない、クリーブラット……ただ、申し訳ないついでに、ひとつだけ、オレの願いを聞いてくれないか? これは、アンタにしか頼めないことなんだ」

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