パラレル to LOVEる・第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜①
午後の授業のあとの放課後のショート・ホーム・ルームが終わると同時に、オレは、冬馬と放送・新聞部の部室に向かった。
桃と同じくらい……とは言わないまでも、オレも島内四片のデモテストを楽しみにしていた。
だが――――――。
親友とともに、部室を訪れると、そこに、VTuber・島内四片を演じる下級生の姿はなかった。
(最近は、真っ先に部室に顔を出して、デモテストに熱中していたのに……今日は、どうしたんだろう?)
そう思って、すでに部室で新年度の部員勧誘資料を作成し始めていた桃と同学年の宮尾雪野にたずねてみた。
「宮尾、浅倉はまだ来てないのか?」
「浅倉さんなら、用事が終わってから、部室に来ると言ってたべ……」
下級生は、そう即答したあと、気になることをつぶやいた。
「あれ? でも、玄野センパイと一緒じゃなかったべか? あの表情は、てっきり玄野センパイと、ふたりで会うものだと思ってたべが……」
桃がオレと一緒に……?
たしかに、今日は彼女の誕生日で、ささやかながらプレゼントも用意しているが……何かを手渡したり伝えたりするなら、自宅に戻ってからにしようと考えていた。
あるいは、彼女の友人、もしくは、中学生時代の最初の頃のように彼女を想う男子生徒がプレゼントを手渡そうとしていることもあり得るがのだが……。
ただ、そう自分に言い聞かせても、この言い様のない胸騒ぎを抑えることができない――――――。
その不安が表情にあらわれたのか、そばにいた冬馬が不思議そうにたずねてくる。
「どうしたんだよ、雄司。そんな落ち着かない顔して……浅倉さんが部室に来てないことが、そんなに心配なの? 同居人だからって、ちょっと過保護すぎやしないか?」
その呑気な一言に、
「なに言ってるんだ、ゲルブ! 桃がシュヴァルツたちに狙われてるかも知れないんだぞ!?」
と、思わず声を荒げそうになってしまうが、おっとりとした親友の表情に、すんでのところで、
(そうだ……いまは、銀河連邦の捜査官じゃないんだ……)
と思い直して、歯がゆさに唇を噛む。
ゲルブたち銀河連邦の捜査官を呼び出すには、彼らから授かったトリッパー・ジャッジメント・マシンを使って、別セカイのトリッパーが、このセカイに紛れ込んでいることを知らせなければならない。
唇に歯を当てたまま、
(どうする……)
と、この状況を打開する策に頭を巡らせる。
そうして、数秒たらずの沈黙のあと、オレの頭には、あるアイデアが浮かんだ。
(このデバイスが、トリッパーに反応するなら……)
そう考えて、制服の内ポケットから、トリッパー・ジャッジメント・マシンを取り出して、自分の身体に向けて、レーザーを照射する。
「雄司、なにやってんの?」
オレの突然の行動に、親友は、いぶかしげに問いかけ、下級生の宮尾も、眉をひそめて怪訝な表情をつくる。
それでも、何度もセカイをトリップした経験のあるオレの脳波を読み取ったデバイスは、思ったとおり、赤い光線に切り替わり、トリッパーが、このセカイのこの場所にいることを示した。
あとは、ゲルブたちが、この信号を受け取って、このセカイに駆けつけてくれることを待つばかりだが……。
相変わらず、不思議そうな表情でオレのことをうかがっている冬馬のようすを観察していると、彼は、一瞬ビクリと身体を震わせて、わずかながら、その顔つきも変化した気がする。
そして、オレの観察眼は、間違っていなかったようで、親友の姿をしたままの彼は、
「玄野雄司! なにがあった!?」
と、食い気味にオレに問いかけてくる。
思惑どおりの展開に気持ちが高ぶるのをなんとか抑えつつ、ゲルブに現状を伝えようとすると、部室に居た、もうひとりの部員も声をあげる。
「いきなり、別のセカイに移動するのは、やっぱり慣れないべ……心の準備くらいさせてくれねぇだか?」
「シュノ―! キミもシグナルを受け取ってたのか!?」
驚いたように声をあげるゲルブに、シュノ―という名で呼ばれたのは、宮尾雪野の姿をした少女だ。
そう言えば、彼女は、あの統合されかけたセカイで、文芸部の部長を務める山竹とともに、三葉や桃を警護する任務についてくれていた。
そんなことを思い出しながら確認するオレに、落ち着きを取り戻しつある親友の姿をした捜査官が、たずねてくる。
「なんにしても、味方がいてくれるのは、心強い。ところで、玄野雄司。こうして、ボクらを呼び出したということは、なにか、手掛かりを掴んだのかい?」
「あぁ、確証はないがな……そのことを話す前に、ひとつ確認させてくれるか?」
ゲルブの問いかけに、オレは質問で返す。
そして、彼の答えを待たずに、続けてたずねた。
「ここまで来たからには、もう隠し事はなしにしてもらいたいんだが……アンタたちが追いかけているシュヴァルツは――――――オレと同じ姿をしているんじゃないのか?」
そう問いかけたオレの言葉に、ゲルブとシュノ―は、一瞬、驚いたように目を見開いたあと、静かに、その瞳を閉じた。
言葉はなくとも、オレにとっては、彼らのその表情こそが、何よりもその答えを雄弁に物語っていた。
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