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物価高のオーストラリアにおける2024年のファンドレイジング予測:Fundraising Institute Australia主催ウェビナーから

2024年2月13日に、オーストラリアのファンドレイジング協会Fundraising Institute Australia(FIA)主催のウェビナー「Cost of Living & Giving」が開催されました。登壇者は、FIAのリサーチパートナーで定期的なリサーチを主導するmore strategicのKaren Armstrong氏とMartin Paul氏。

本記事では、同ウェビナーで共有された内容の中で、日本のソーシャルセクターにとって参考になりそうなポイントに絞ってシェアをさせていただきます。物価高の昨今において、他国でのデータを参考に、難しい経済状況の日本においてファンドレイジングを進めていくヒントになると嬉しいです。


生活費の変化による人々の心配事

前回(2023年5月実施)と今回(2023年11月実施)のリサーチを比較すると、1番目の「生活費」は変わらず、2番目だった「メンタルヘルス」と3番目だった「ホームレス状態」は3番目に変わり、5番目だった「住宅の手頃さ(手頃な価格の住宅)」は2番目となっています。4番目だった「子どもの安全や健康」はランク外となり、新たに「気候変動」が最新のリサーチではランクインしてきています。

オーストラリア人の心配事トップ5(スライド資料より)

さらに詳しく知るために人々の生活状況を掘り下げる質問を行ったところ、生活費の危機のために、回答者の81%が今日のライフスタイルを何かしら変えていることが分かったそうです。ほぼ半数が外食を減らし、スーパーマーケットのプライベートブランドの商品の購入するようになり、衣類の購入も以前より少なくなったという回答を得ています。そして、約3分の1が、ガソリン代を節約するために車の運転を控え、facebookマーケットプレイス等で物を売っています。

そして、もう1つの重要な点は、サブスクリプションサービスをキャンセルしたという人々が24%いることです。NetflixやAmazon Primeのようなサブスクリプションサービスからキャンセルのし易さを取り入れるのも一つのやり方かもしれませんが、「キャンセルし易さ」に振り切ってしまうと寄付者とつながることが難しくなることが想像されますし、「キャンセルのしにくさ」は団体に対して寄付者がストレス感じて再びつながることすらできなくなる恐れもあります。

マンスリーサポーター等の継続寄付をどれだけキャンセルし易くするかについては様々な意見があるかと思いますが、一定期間を決めて継続寄付についてもテストしていく必要性がウェビナーで言及されていました。

また、人々の予算の中にどれだけ入っていられるかが、寄付を募る非営利団体にとって大事であるという指摘もされていました。

寄付者の動き

18歳以上で実際に寄付している人々に関する情報も共有されました。リサーチ結果から算出したところ、2023年5月に少し減少したものの、人口の約56%が寄付しているそうです。なお、2020年9月から数字の変遷を追ってみると、約1300万人前後の規模で横ばいとなっています。
ちなみに、黄色の数字は、オーストラリア全体で寄付している人々の割合に大きな変動が無い場合(安定している場合)を表しているとのことでした。

そのような状況で、寄付をよりしてくれるのはどういった層なのか?
下記の画像はその要素が掲載されているのですが、端的に言うと高所得者層が寄付をよりしてくれる層として期待できるということが言われていました。

より寄付をしてくれることが期待できる人達について(スライド資料より)

個人的に意外でしたが、寄付の手段でも最も多いのはオンライン寄付に次いで宝くじとラッフル。このオンライン寄付には、SNS全般からの寄付も含まれているとのことです。しかしながら、実はオンライン寄付は2019年11月をピークに横ばい・減少傾向にもあるため、2024年にさらに減少しないことを期待したいとも補足されていました。

方法別における寄付の割合(スライド資料より)

ラッフルについては、下記の記事でも紹介しているので、詳しく知りたい方は参考に見てみてください。

継続寄付(Regular Giving)

テレマーケティングやダイレクトメール等による継続寄付は、-8%と見込まれると共有されました。

継続寄付の純損失(スライド資料より)

その内訳の分析は、下記の画像の通りです。2022年比で、女性の継続寄付が23.2%から16.1%に減少、自営業者の継続寄付も23.6%から10.4%に減少。経済的な不安定さや現在の経済状況が理由として考えられるという見立てが言われていました。

また、改めて詳細なデータを集めて分析する必要があるが…と前置きをされたうえで、子どもがいない人の継続寄付は21.9%から15.4%の減少、孫がいる人の継続寄付は29.5%から12.3%への減少傾向が見受けられ、全体的にみると55歳以上の人々の継続寄付が減少傾向になっていることが共有されました。なお、オーストラリアの全ての州のうち、クイーンズランド州において継続寄付の減少傾向があったそうです。

継続寄付を止めている人達の属性(スライド資料より)

一方で、ポジティブな兆候として、継続寄付者の中で、寄付金を増額する可能性のある人々の割合が3%から8%に増加していることもシェアされました。寄付額のアップを狙う好機であるとウェビナーでは話されていました。ただし、経済的なリスクにさらされている寄付者は依然としているため、継続寄付者のドナージャーニーを確立し、寄付を増額する可能性の高い対象者をターゲットにして、適切に寄付額をアップさせていくことが勧められていました。

イベント

イベント開催も重要なファンドレイジングの一手法ですが、リサーチ結果からはイベント参加やイベントへのスポンサーも減少傾向にあることが分かりました。他方で、イベントの企画・主催する人々は増加傾向にあるため、団体のサポーターやファンが寄付集めにつながるイベントを行いやすいように、Peer to Peerファンドレイジングのような自団体のつながりを活用することが勧められていました。

「イベントの企画主催」「イベント参加」「イベントへのスポンサー」の状況(スライド資料より)

オーストラリアのPeer to Peerファンドレイジングについては、下記の記事で紹介しているので、興味のある方はあわせて読んでみてください。

リサーチ結果からの2024年の予測

リサーチ結果から、下記の2024年の予測がシェアされました。

継続寄付(テレマーケティングやダイレクトメール)の新規獲得は、2024年も非常に厳しい状況が続く。

現在つながっている寄付者・支援者(その非営利団体のファン)のリテンションや、その人達に感じてもらえる価値を高めることに注力する必要がある。

2024年に向けた予測(スライド資料より)

(先述の)イベントの減少傾向は続くと予測され、2024年はイベント開催を維持することが中長期的に良い結果となり得る。

特定の興味・関心やライフスタイルを持つ人達や自団体のつながりには、コミュニティをつくり広げるポテンシャルがある。こうした層が、非営利団体主導でなく、自発的にその団体の活動やメッセージを広め、より多くの人々に届けられる方法を検討する必要がある。

2024年に向けた予測(スライド資料より)

いかがだったでしょうか?

ウェビナーで共有された内容は情報量が多かったので、心苦しくはありましたが、個人的な観点から日本のソーシャルセクターに参考になりそうな部分を抜粋して、本記事でご紹介させていただきました。

少しでも参考になる部分があれば幸いです。


最後に

記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、オーストラリアを中心に海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。

現在は、コストがかかり過ぎないように意識しつつも、無料の機会だけで得られる情報や出会える人では情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめオーストラリアのソーシャルセクターの人達とつながるために有料のイベント(約2~8万円の参加費)やカンファレンス(約10~20万円の参加費)に直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら情報を集めています。

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記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!