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日本の非営利団体でも使える海外のファンドレイジング・プラットフォーム

海外からの寄付獲得およびファンドレイズを考える日本の非営利団体も少なくありません。私自身が海外のファンドレイジングに関する情報収集やネットワーキングを進めていると知り、個別に相談いただくケースも徐々に出てきています。

海外から寄付を獲得するための一つの方法として、ファンドレイジング・プラットフォームを活用することが挙げられます。
プラットフォームによっては、海外の寄付者とのマッチングや他国の税控除が適用されるものもあるので、海外からの寄付を得ていきたい日本の非営利団体のみなさんにとって、少しでも参考になれば幸いです。

ちなみに、日本の非営利団体でも使用できるファンドレイジング・プラットフォームが新たに見つかったら、その都度、本記事に追記していきます。


Global Giving

2002年に、Dennis Whittle氏とアメリカを拠点に活動する日本人起業家Mari Kuraishi氏が創設したクラウドファンディング・プラットフォームのGlobal Giving。本記事を執筆した2024年3月時点でも、いくつかの日本のNPOが利用しています。

特徴として、Global Givingを通じた寄付にはアメリカとイギリスの税控除証明書を発行できるため、その2か国以外の非営利団体であってもアメリカかイギリスの寄付者が税制優遇を受けることができます。

新規の寄付獲得という点では、ウクライナ支援の寄付がGlobal Givingに集まった際に、支援活動を行っていた各団体にまとまった金額が分配されたことがあるようです。一方で、日本における通常のクラウドファンディング同様に、個別のプロジェクトを立ち上げて寄付を募るのが基本的な使い方で、団体の既存のつながりを頼りにする点は、日本と大きな違いは無いようです。

費用

費用については、アメリカ・イギリス以外の非営利団体の場合、集まった寄付金の7〜12%がサポート手数料と、3%の決済処理手数料がかかります。

2024年3月時点のサポート費用(Global Givingのウェブサイトより)

申請方法

Global Givingがあなたの非営利団体に適しているかどうかをチェックする事前相談フォームがあるので、申請前にこのページの「START YOUR PATHWAY TO GLOBALGIVING」で確認しておくのも良いでしょう。

利用申請の際には、下記の書類の提出が求められますが、Google翻訳等を使って自分達で英訳した書類を出すのでも構わないそうです。(申請時に必要な書類一覧の原文は、こちらのページ

①集めた寄付で実施する活動の企画書(Program Materials) 
※自団体のアニュアルレポートやニュースレター等も含む。
※説明書きや引用元の記述の無い写真・画像は受け付けられないそうです。

②リファレンス(Letter of Refference)
※資金提供者や連携団体、活動の受益者からのものが望ましいそうです。
※団体に直接関わっているスタッフやボランティア、理事等のボードメンバーは不可

③所轄庁からの証明書(Certificate of government registeration)

④解散条項が含まれている設立文書(Founding documents with dissolution clause)

⑤過去2年の財務資料と今年度の予算書(Financial documents(2 years of financial documents and a current year budget) )

⑥支出等の情報(disbursement information)
※銀行口座の情報を提出するようです。

⑦理事のリスト(Name of senior staff and board members)

⑧Global Givingの利用規約(Terms and conditions)

米国外の非営利団体の申請書類(Global Givingのウェブサイトより)

活用事例①:認定NPO法人テラ・ルネッサンス

活用事例②:認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン

活用事例③:認定NPO法人虹色ダイバーシティ

Benevity

2008年にカナダでローンチした企業寄付を推進するプラットフォーム。本記事執筆時点では、世界中の200万以上の非営利団体が登録されているそうで、自身の勤め先の企業がBenevityに登録している企業の従業員は、プラットフォーム上の非営利団体から自由に選択をして、マッチング寄付による金銭的な寄付やボランティアの機会を得ることができます。
今まで私が関わってきた日本の非営利団体のうち、いくつかの団体が登録していて、不定期で海外からの寄付が入ってきていました。

費用

本記事の執筆時点で、手数料として寄付一件あたり2.9%が差し引かることになっています。また、クレジットカードやデビットカード決済による寄付にはインターチェンジフィーが差し引かれるとのことです。なお、利用登録料などはかからないそうです。

登録方法

下記のスクショ画像の通り、トップページの右上に「nonprofits」のボタンがあり、カーソルをあわせると表示されるメニューから「Register your nonprofit」を選択します。

その後は、登録するメールアドレスやパスワードを設定するアカウント作成を行い、自団体が法人登録されている国を選択をします。

次に、団体名と法人番号を入力して、自団体を登録してください。(日本の非営利組織のデータベースと連携しているようで、法人登録されている団体名と法人番号を入力すると自団体の情報が出てくるようになっています)

自団体の基本情報を入力して、下記のスクショ画像のステップに沿って、登録を進めることになります。
本記事執筆時点での数か月前までは、いくつか書類の提出を求められていましたが、2024年3月時点でリニューアルされており、書類提出について変わったようなのですが、今後登録される方々は本記事で紹介した内容と実際の登録プロセスに齟齬が無いかなどをお知らせいただけると幸いです。

活用事例①:一般社団法人ピースボート災害支援センター

活用事例②:認定NPO法人Dialogue for People

Give2Asia / Every.org

Give2Asia

世界中の寄付者がアジア全域のコミュニティを強化し、国境を越えた寄付をより簡単かつ効果的に行うことを目的としてアメリカで設立された非営利団体およびプラットフォームです。アメリカのオークランドやサンフランシスコ等の西海岸に拠点を置き、中国の北京にもオフィスがあります。

また、2つの関連団体として、香港の法人であるGive2Asia Foundation Limited、オーストラリア・メルボルンを拠点に国内のフィランソロピストや企業の寄付促進を行うMyriad Australia(旧称:Give2Asia Australia)があります。

ちなみに、Myriadというのは、このGive2Asiaとベルギー・ブリュッセルに本部を置きヨーロッパ各国での慈善活動への寄付を促進するキング・ボードウィン財団(the King Baudouin Foundation)とその関連会社によって創立されたアライアンスおよび関連団体の名称です。

2024年1月11日、キング・ボードウィン財団とGive2Asiaは、世界中の慈善活動により良いサービスを提供するために、その活動範囲の拡大とリブランディングすることを発表しました。

その発表の中で、Give2Asiaは、中国向けの慈善活動のサポートサービスに注力していくという今後の方針を明かしています。それに伴い、中国本土・台湾・香港以外に拠点を置くGive2Asiaに登録していた非営利団体は、下記のEvery.orgというプラットフォーム上にファンドレイジングページが移行されることとなりました。

Every.org

Every.orgは、スタンフォード大学の同級生でもあるMark Ulrich氏とTina Roh氏が立ち上げた、非営利団体への寄付をより容易にすることを目指したアメリカのプラットフォームです。上記のGive2Asiaともパートナーシップを結んでいます。

移行されたばかりのため、日本の非営利団体のファンドレイズに役立つ特徴などがまだ見えないので、活用している団体は情報共有いただけると大変有難いです~

登録方法

本記事の執筆時点では、Every.orgは、アメリカの非営利団体(501(c)(3))に登録されている団体かfiscal sponsorship(財務スポンサーシップ)を有する団体のみがファンドレイズに活用することができます。

Every.orgのウェブサイトによると、fiscal sponsorship(財務スポンサーシップ)とは、非営利団体がその法的および非課税の地位を貸与し、関連する慈善事業の構築を支援するケースであるとのことです。

アメリカの非営利団体に登録していない限り、日本の非営利団体はこのfiscal sponsorship(財務スポンサーシップ)が必要ということになります。fiscal sponsorship(財務スポンサーシップ)がいる場合は、直接問い合わせて登録手続きをしていくことになるそうです。

もしfiscal sponsorship(財務スポンサーシップ)がいない場合、下記のリソースから見つけることを提示されています:

また、fiscal sponsorship(財務スポンサーシップ)の代替手段として、費用と時間がかかるものの、登録希望の米国外の非営利団体をEvery.orgが審査してOKと判断するケースがあるそうです。この登録プロセスを希望する団体は、Every.orgに直接問い合わせるようにと記載されています。

活用事例①:認定NPO法人D×P

活用事例②:認定NPO法人ETIC.

活用事例③:NPO法人アクセプト・インターナショナル

Raisely

オーストラリアで2016年に設立されたファンドレイジング・プラットフォームのRaiselyもユーザー登録をすれば、日本の非営利団体でも使用可能です。

セールスフォース等の様々なアプリやソフトウェアとのAPI連携ができるようになっているため、既に支援者管理データベースとしてセールスフォースを活用されている非営利団体は、海外からのファンドレイズを見据えて活用しても良いでしょう。

良い感じのデザインテンプレートがあって、単発/継続寄付の決済ページだけでなくイベント申込ページ等も作成できるようになっています。

今までの導入事例(ウェブサイトより)

RaiselyではPeer to Peerファンドレイジングをはじめとした団体主導ではない個人が特定の非営利団体のためにファンドレイジングをするための機能も充実しているのが特徴的です。RaiselyでのPeer to Peerファンドレイジングについては以前に記事にしているので、あわせてご覧ください。

費用

Raiselyは、登録料無料のフリープランから始めることが可能です。その場合は、Platform fee(利用料)として3.5%が差し引かれ、使用している決済システムのStripeとPayPalのProcessing Fees(手数料)が引かれて、非営利団体側に入金されるようになります。

また、効果的なドナージャーニー等の更なるマーケティング機能を活用したい場合は、月額119アメリカドルまたは年間714アメリカドルで、Raisely Proというプランがあるようです。

留意点

2024年3月時点で、Raiselyでは先述のプラットフォーム(Global Giving、Benevity)のような新規層とのマッチング等は行っておらず、寄付募集の際は、非営利団体自身で既存のつながりにアプローチしたり、自団体での広報努力が必要なようです。

Peer to Peer ファンドレイジングの機能は充実しているように思うので、既に海外(特に英語圏)でのネットワークが多くある非営利団体は活用を検討されても良いように思います。

番外編:The Life You Can Save

ここまで紹介したプラットフォームのように団体側から登録申請できるものではありませんが、日本の非営利団体でも活用できる可能性のあるプラットフォームをご紹介します。

The Life You Can Saveは、哲学者のPeter Singer氏と心理学者で経営者でもあるCharlie Bresler氏によって2013年に設立されました。邦訳もされているPeter Singer氏の著書「The Life You Can Save(邦題:あなたが救える命: 世界の貧困を終わらせるために今すぐできること)」にインスパイアされたBresler氏は、Singer氏にメールを送り、書籍に書かれたアイディアを世界に広め、絶対的貧困を無くすために現在の組織とプラットフォームをつくっていったとのことです。(行動力が半端ない…)

その書籍のタイトルが、そのまま組織名・プラットフォームの名称になっていることからも、本に書いてある考え方が組織全体の行動理念・指針となっていることが伺え、名前やメールアドレスを登録すれば原著のPDFが無料で入手できるようになっています。(英語が読める方であれば、購入せずにここから入手するのも良いでしょう)

寄付先の非営利団体を自ら選出

このプラットフォームでは、独自にリサーチしたり、世界各国の専門家などのネットワークを通じてリストアップされた絶対的貧困の解決に向けて高いインパクトを生み出せるとみなした非営利団体を寄付先としています。

対象となる活動やインパクトを測定するフレームワークの概要を、The Life You Can Saveのウェブサイト上で公開していますので、こういう基準で非営利団体を見て選び出すアプローチを取っている組織があることを知り、そこにあわせて自団体の全体設計をしていくことも大切だと思います。

余談ですが、2023年6月に、このThe Life You Can Saveとイギリスで設立されたFunding Network Australiaが主催したオンラインピッチイベントに参加しました。

3つのNPOのピッチプレゼンを聞いて、その場で参加者から寄付を募っていく形式で、90分のピッチイベントで総額2000万円以上の寄付が世界中から集まっていました。

個人的には、3団体のピッチプレゼンを聞いていると、言語が英語であることを除いて、「これくらいのレベルのプレゼンをできるNPOは日本に沢山いるなぁ」という印象でした。このイベント参加は、日本のソーシャルセクターが、英語で発信して世界中から寄付を募る道を模索していった方が良いと、私がより感じたきっかけの一つでもあります。
ちなみに、参加者はオーストラリア、アメリカ、スイス、イタリア、ルクセンブルク、日本、香港、カンボジア、インド、パキスタン、ウガンダ、ケニア、南アフリカという世界各国から400人近くが集まっていたことも英語での発信だからこそ。

オンラインピッチイベントで最終的に集まった寄付(スクショ画像)

インパクト計算機(Impact Calculator)

個人的に興味深かったので、紹介しておきたいのが、寄付先の非営利団体ごとに自分の寄付でどのようなインパクトがあるのかが直ぐに示されるインパクト計算機(Impact Calculator)があること。

非常にシンプルなつくりで、自分の寄付金額を入力し、寄付先団体を選びます。本記事の執筆時点ではアメリカドルのみで計算される仕様となっています。

Impact Calculator(ウェブサイトより)

試しに、世界的な非営利団体のオックスファムに100アメリカドルを寄付すると入力すると、以下の画像のように「6家族に衛生キットを提供できる」「12人に清潔な水を提供できる」といったインパクトの例が示され、オックスファムに今直ぐ寄付ができるボタンもあわせて表示される仕様となっています。

オックスファムに100アメリカドルを寄付する入力をした場合(スクショ画像)

いかがだったでしょうか。

海外からの寄付獲得を考えている日本の非営利団体にとって、少しでも参考になったのであれば幸いです。

最後に、海外からの寄付獲得の注意点として、その時の為替レートに影響されたり、プラットフォームの手数料や国際送金の手数料などで結構な金額が差し引かれて入金されることになるので、100万円程度やそれ以上のまとまった金額の寄付の方が、ファンドレイザー的には望ましいと考えています。

一方で、たとえ少額の寄付で手元に微々たる金額しか入ってこなかったとしても、海外にネットワークを広げる足掛かりや新規の支援者層を増やしていくという中長期的な考え方で取り入れるのも良いようには思っています。


最後に

記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、オーストラリアを中心に海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。

現在は、コストがかかり過ぎないように意識しつつも、無料の機会だけで得られる情報や出会える人では情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめオーストラリアのソーシャルセクターの人達とつながるために有料のイベント(約2~8万円の参加費)やカンファレンス(約10~20万円の参加費)に直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら情報を集めています。

「海外(のソーシャルセクター)」という切り口から日本のソーシャルセクターに引き続き貢献できればと思っていますので、よろしければ、下記のサポートボタンでご支援いただけると幸いです。
一人ひとりからサポートいただけることで、様々な情報にアクセスして、様々な機会に参加して、有意義な発信を続けたいと思っています!

記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!