巴雪夜

ともえゆきやと申します。 デビュー作「レコード・トーカー 初心者カードゲーマと運命のカ…

巴雪夜

ともえゆきやと申します。 デビュー作「レコード・トーカー 初心者カードゲーマと運命のカード」がカドカワ読書タイム様より発売中!

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ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 十三話

十三.第八章③:魔界に堕ちた少女は恋を知った 「え、お前、口滑らしたの!」  ガルディアの魔物対策課の部署、デスクで書類整理をしていたバッカスは顔を上げる。隣ではアデルバートが両肘をつきながら俯いていた。頷く様子に彼が何をしたのか理解したバッカスは「アホか」と突っ込む。 「お前、あの場で告白してどーすんの」 「するつもりはなかった。あれはつい、口に出てしまったんだ」  ガロードを拘束し、少し油断していたのかもしれない。シオンが無事で安堵して、話の流れでつい口に出してい

    • ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 十二話

      十二.第八章②:愛しているから守りたかった  雲一つない晴天、穏やかな風が吹く。良い天気にこれは遠足日和だなとシオンは空を見上げて思った。シオンは孤児院の子供たちを引率して森林公園へとやってきている。  緑豊かな森林が遠くに見え、手入れのされた芝生の上では子供たちが駆けっこをして遊んでいた。今は皆で昼食を食べ終えて子供たちを遊ばせているところだ。シオンだけでなく、サンゴやカルビィン、他の孤児院のスタッフ、院長も一緒だ。  その中にガロードもいた。お弁当を用意してくれた民

      • ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 十一話

        十一.第八章①:連続女性吸血殺人事件 「連続女性吸血殺人事件、か」  アデルバートは渡された資料に目を通しながら呟く。フェリクスに呼び出されたアデルは彼の執務室を訪ね、この事件の話を聞かされた。二人しかいない室内は静かでフェリクスは「現在も逃走し、犯行を繰り返している」と渋い表情を向ける。  連続女性吸血殺人事件とは、五年前から起こっている事件だ。種族は問わず一定の期間で女性が吸血されて殺害されている。犯人は痕跡を僅かにしか残さず、捜査は難航しており最後に現れたのは半年

        • ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 十話

          十.第七章:それぞれの想いを感じて  中心街の一番地、商業店や飲食店が立ち並ぶ中の一点のカフェにシオンはいた。テラス席に座る彼女の前にはガロードがいる。にこにこと笑みを浮かべながらシオンを見つめる彼は楽しそうだ。  シオンはガロードに誘われてカフェを訪れていた。彼は二人きりで出かけるためにリベルトをなんとか説得したのだ。過保護な気があるリベルトだったが、遅くならないようにという約束で二人での外出に許可を出した。  ガロードはいろんな話をしてくれた。宿屋に泊まった客が話し

        ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 十三話

          ニャルさまは干物女子にお熱中―邪神に気に入られて歪んだ愛情を向けられる干物女子の非日常― 第三話

           いつものように事務業務を終えて桂華は会社を出た。今日は同僚に飲みに誘われて断ろうとしたけれどそれもできず、仕方なく、本当に仕方なくニャルラトホテプに連絡を入れた。  この男は人間に擬態しているので職にもついているし、文明の利器であるパソコンもスマートフォンも使いこなしている。なんだ、あの化け物と突っ込んだのは言うまでもない。  ニャルラトホテプは「気をつけて帰ってくるように」と返事を送ってきた。心配はしてくれている、そう心配はしているのだがその心配の仕方がおかしいのだ。

          ニャルさまは干物女子にお熱中―邪神に気に入られて歪んだ愛情を向けられる干物女子の非日常― 第三話

          ニャルさまは干物女子にお熱中―邪神に気に入られて歪んだ愛情を向けられる干物女子の非日常― 第二話

           二十一時過ぎ、なんとなしにテレビをつけてみる。それは夜の情報番組で当たり障りのないニュースが流れていた。今日も平和だなとかそんなことをぼんやりと考える。  風呂上がりで濡れた栗色の長い髪の毛がドライヤーで乾かされる。時折、タオルで拭かれて櫛で梳かれていく。何でもないように暫くそれを受け入れて、桂華はがんっとテーブルに額をぶつけた。 「どうして化け物に髪の毛を乾かしてもらってるの!」 「その化け物っていう言い方を止めてくれないかね」  抗議するも、ニャルラトホテプに「ほ

          ニャルさまは干物女子にお熱中―邪神に気に入られて歪んだ愛情を向けられる干物女子の非日常― 第二話

          ニャルさまは干物女子にお熱中―邪神に気に入られて歪んだ愛情を向けられる干物女子の非日常― 第一話

          捕捉:見どころなど ①主人公の桂華は干物女子属性であり、恋愛に疎いキャラクターです。そんな彼女が人ならざる者であるニャルラトホテプから一心に愛情を受けます。恋愛に疎い彼女はその愛の重さに動揺し、時に胸が揺さぶられていくシチュエーションというのはドキドキする展開になりえます。 ②クトゥルフ神話をモチーフにしていますので、怪異とは違う描写ができます。桂華の精神値がゆっくりと削れ、そして彼女の幸運値の高さによって堕ちずにいられる救済とも罰ともとれるもどかしさ等が表現できます。

          ニャルさまは干物女子にお熱中―邪神に気に入られて歪んだ愛情を向けられる干物女子の非日常― 第一話

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 九話

          九.第六章②:恋に嫉妬はつきもの 「昨日さ、アデルさんのところで……」  シオンはスノー・ホワイトのことをいつものように遊びにやってきたサンゴたちに話す。ドラゴンって可愛い所もあるのだなと感想を伝えると、「それは契約しているドラゴンだからだよ」とカルビィンが教えてくれた。  本来のドラゴンは大人しくもないし、人間や魔族が気軽に触れるものではない。気性は荒いし、狂暴なのが多い、それが本来のドラゴンだ。 「そんなふうにできるのは契約できているからだよ」 「そうよ。そうじゃ

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 九話

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 八話

          八.第六章①:恋の自覚は突然に  ガルディア内、魔物対策課は人が少ない、魔物に関する事故を解決しにいっているのだろう。残っている魔族は待機組としてデスクで書類整理をしていた。 「シオンちゃんと最近どう~」 「…………」  にやにやとするバッカスを無視してアデルバートは報告書の整理をする。アデルバートはバッカスに絡まれてた。シオンのことを知ってから「どうよ、進展した?」と聞いてくるので、正直にいって面倒だった。 「シオンとはそういう関係ではない」  アデルバートの言葉

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 八話

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 七話

          七.第五章:意識して、感じて、気づくこと 「やっぱり、恋っていいわよねぇ!」  中央街の二番地には劇場がある。毎日のようにさまざまな演目が公演されていて観客は多く、人気のスポットだ。レンガ調のシックで大きな建物が劇場で、演目を見終えた人々がぞろぞろと出てきているそんな中にシオンたちはいた。  今日の演目は人間界でいうところのロミオとジュリエットのような作品だ。結ばれることのない二人が恋に落ちていく姿を物語にして演じられていた。悲恋ものではあったものの、面白くてシオンでも

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 七話

          夜叉と相棒 三話

           山を下りていく中、夜叉は鵺に肩を叩かれた。振り返れば少し離れておぼつかない足で山道を歩く小夜に気づく。歩幅の差もあるが足場の悪さに苦戦しているようだ。  少女の姿をしているとはいえ、天女である彼女に体力がないとは思えず意外そうに観察していれば、小夜に「天ではあまり歩かないから」と言われる。  羽衣で空を飛べる天女はあまり歩くことがない。歩けなくはないけれど、ずっと歩き続けるという経験は少なかった。今は修行に出ているために羽衣は没収されているのだが、小夜は「歩く練習はちゃ

          夜叉と相棒 三話

          夜叉と相棒 二話

           もう数刻もすれば陽が昇る。夜叉は疲れたような表情を見せながら山の中を歩く。物の怪を退治し、死した娘を山村に持っていけば、彼女の両親は涙を流し、村人たちは悲しんだ。そこまではよかった。  物の怪は死んだのだからもういいだろうと夜叉がさっさと出ていこうとすれば、彼らは「どうかこの村に残ってくれ」とまた泣き落としにかかってきた。  物の怪が死のうとも山の怪異は恐ろしい、腕の立つ貴方様がいらっしゃれば安心して暮らしていけると。なんと自分勝手なのだろうかと夜叉は嫌気がさす。嫌悪ま

          夜叉と相棒 二話

          夜叉と相棒 一話

          捕捉:見どころなど ①夜叉は神に罰を与えられた罪人であり、彼はその償いの旅をしています。神々の頼みを解決していきながら、自身に罰を与えた神の許しを待っています。彼が罪を犯した理由は父として慕っていた存在を人間の勘違いによって殺されてしまったからです。たった一人、自分を愛して育ててくれた存在を失った悲しみと、復讐によって神に罰を与えられた愚かさなどを表現することができます。 ②夜叉の自称相棒として鵺という妖怪が旅に着いてきています。彼は夜叉の過去を全て知っている数少ない存在

          夜叉と相棒 一話

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 六話

          六.第四章:それでもやっぱり放ってはおけない 「シオンさん、今日もお美しいですね」 「えっと、ありがとうございます、ガロードさん」  金糸の短い髪を上げている端正な顔立ちの男はその青い双眸をシオンに向けていた。彼はエルフのガロード、教会で熱心に祈りを捧げている信者だ。シオンが人間界から堕ちてきた人間というのは教えていないが、シオンがリベルトの義娘であることを知っている。  ガロードはシオンを気に入っているようで、会うたびに彼女を褒めて話をするのだ。シオンは相手が悪い人で

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 六話

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 五話

          五.第三章②:助けられて、血を分けて  シオンを押さえつけていた茶髪の男の腕から血が噴出す、男は痛みと何が起こったのか分からず悲鳴を上げた。 「血を吸い尽くし殺す、とでもいうのか?」  男たちは同時に振り返って固まる、紅い紅い双眸が二人を捕らえていた。一歩、一歩と二人に近づく影は姿を現す。 (アデルさん!)  その姿にシオンは安堵した、アデルバートが来てくれたから。カルビィンが呼んでくれたのだと安心して、シオンは起き上がるとサンゴのほうを向く。彼女も助けが来たことで

          ヴァンパイアらばぁあ!―魔界に堕ちて恋を知る― 五話

          黒翼の魔導師は弟子(ヤンデレ)に愛されすぎて困っています! 三話

          「シセロ様、報告書になります」  シセロの執務室にやってきたのは討伐部隊の女性隊員だった。彼女はセルフィアといい、二十代と若いなりに活躍している優秀な騎士だ。  白と銀を基調とした鎧に身を包み、白く短い髪が特徴的で凛々しい容姿の持ち主の彼女は、男からよりも女に人気がある。よく同性に告白されているというのをシセロは聞いたことがあった。  セルフィアが書類を持ってやってくると執務机の前で背筋を伸ばす。シセロは彼女から書類を受け取って流し見ると「いつ見ても丁寧ですねぇ」と呟い

          黒翼の魔導師は弟子(ヤンデレ)に愛されすぎて困っています! 三話