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GK講座 技術が詰まった3秒間

はじめに

2024 J3第1節 鳥取vs今治で、GK櫻庭選手はJデビュー戦にも関わらず終始落ち着いたパフォーマンスを魅せた。

この日数々のビッグセーブ連発の中、目立たないが良いプレーなのでは!と筆者の目に留まったシーンを共有したい。



技術が詰まった3秒間

筆者が唸ったのは、試合時間89:40~89:43頃のシーン。相手フリーキックから混戦になったボールを拾われ、鳥取のDFライン裏へ通されてシュートを放たれた場面における櫻庭選手の振る舞いだ。

↑動画時間4:34からの櫻庭選手に注目

一見ただの正面キャッチに映る地味なプレーがなぜ目に留まるに至ったか、3つのポイントを挙げる。順番に紐解いていこう。

ポイント
① Cの対応
② 的確なポジショニング
③ 捕球ではなく受球
 

なお、今回の対応は完全な1対1ではなかったが、それに近い状況とみなして話を進めたい。


① Cの対応

ジョアン式の1対1では、GKと相手選手との距離に応じて基本対応がABCの3種類あり、今回のように相手との距離が5.5m以上離れているときはシュートストップが主役の“Cの対応”をとる。

5.5mの距離は、GKが1歩でボールにアタックできるかできないかを決める基準だ。ピッチ上では、ゴールライン ↔ ゴールエリア上辺 ↔ ペナルティーマーク ↔ ペナルティーエリア上辺 それぞれの距離に相当する。

この場面ではGKが先にボールへ到達できる確率が低いまたは無いため、アタックに行くことはせず、シュートが放たれる瞬間はその場で止まりシュートストップに神経をとがらせる。

よく、似た状況の1対1でGKがあわてて不用意に飛び出してしまい、ボールに届かずかわされ、無人のゴールへ流し込まれるシーンを目にしないだろうか。

GKが前に飛び出ることは勇敢さが必要で称賛されがちだが、実はすべてがそうとは言えない。失点の確率をより低くできるプレーは何か?を考えると、今回のように飛び出さずシュートストップに専念することもときには必要なのだ。

その判断基準となるのが基本対応のABCで、当局面での櫻庭選手は適切なCの対応を瞬時に選択できていた。


② 的確なポジショニング

DFライン裏にスルーパスが通された瞬間から飛び出しても間に合わないと判断し、Cの対応をとる準備に移る。ボールの位置を基準にステップを踏みながらポジションを調整していることが試合映像からわかる。

そして抜け出した相手選手がシュートを実際に放ったのは、おおよそ“2.5”の位置 (詳しくは参考文献)。

ボールの動きにつられて余分なシュートコースを与えるようなことはなく、最小のスペースとなるように“2.5”に対応した立ち位置でボールの正面へ構えることができていた。

また、シュートを打たれる瞬間は動きを止め、自分にボールが向かってくるのを待ち構える姿勢を作れていた。これが櫻庭選手の落ち着きの所以の一つだろう。


③ 捕球ではなく受球

最後のキャッチングの場面。

櫻庭選手はキャッチできるボールと判断し、捕球の体勢をつくる。

このとき手や腕でボールを“掴み”にいこうとすると、捕球の形が崩れて手を弾かれやすい。そうなるとこぼれ球を生み、相手の2次攻撃に遭って失点する確率が高まる。

よって、失点の確率を下げるためには弾かれない捕球の工夫が必要だ。ボールがちょうどハマる形に予め構え、そこにボールが“吸い寄せられる”、先に構え終えてボールを“待っている”イメージで捕球することがポイント。捕球よりも“受球”と表現するほうが適切かもしれない。

実際のシュートはフリーで打たれた強めのものだったが、ボールの軌道に合わせて捕球体勢をつくり、そこに吸い寄せられたボールは腕からこぼれ落ちることなく正面キャッチで攻守交代となった。


あとがき

いかがだったろうか。

最後尾での一瞬の何気ない振る舞いに、実は技術がふんだんに詰まっている。そんなGKの教えを説かれた気がしたシーンだった。

ガイナーレには櫻庭選手のほか、高麗選手、井岡選手も控えており、阿部GKコーチのもと日々切磋琢磨されている。

今回のようなぱっと見では目立たない影のプレーにもスポットライトが当たり、彼らぬりかべ達の活躍が今後正当に評価されていくことを切に願っている。


参考文献