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NHK 「OSO18 ”怪物ヒグマ”最期の謎 」を観た

先日放送された「OSO18 ”怪物ヒグマ”最期の謎 」を観ました。
牛を襲うという特殊性から”怪物”と恐れられていた一頭のヒグマの足取りを追いながら、その最後の謎を解き明かそうとした番組でした。

その生涯の最後にOSO18が衰弱していたのは、はたして飢餓によるものだったのか、あるいは他の原因があったのかはその個体、特に内臓や血液が失われてしまった今となっては推察の域を出ませんが、残された骨の情報や射殺時の写真などから推定できることもあろうかと思います。

射殺時の写真ではOSO18の脚が腫れているのが確認出ることから、内臓特に循環器系に疾患があったのかなとも思いますが、これももはや推察の域を出ません。

しかし仮にそうだったとしたら、その原因は従来の生態とやや異なったOSO18の食生活にその要因があった可能性もあり、その辺りがはっきりと解明されればよかったなと思います。

雑食性の熊は植物だけでなく肉(主に鹿など)も摂取しますが、その割合がOSO18の場合は極端に肉食に偏っていたことがその骨から解析されており、もしかするとそれによるリンの過剰摂取により腎臓が疾患を抱えていた可能性もあったのかなと思います。

番組内ではその熊による鹿食*1に関する環境の変化が問題の一つとしてクローズアップされていました。
本来熊にはそう簡単には捕食できなかった鹿肉がハンターの放置した駆除体から容易に摂食できるようになり、その結果熊の生態が変化した可能性を番組は指摘していました。

また増えすぎた鹿が熊よりも先に植物を摂食してしまうので、熊が食糧不足に陥っているという事情もあるようです。*2

何れにしても現況、熊の天敵が鹿になりつつあるならば、熊が鹿を駆除する傾向に傾きつつあることもまた自然な流れなのかなとも思いますが、OSO18の場合はその対象が鹿ではなく牧牛だったことが不幸であったのでしょう。

肉食に傾いた食性で小柄なOSO18にとっては狩るのに困難な野生の鹿よりは牧牛の方が効率がよかったでしょう。
ただ、牧牛は野生鹿より高カロリーの飼料を食している、熊にとっては不自然な生体のため、その肉を常食することが野生の熊の体にとって良いことだったのかどうかはわかりません。

番組内では正確に検証できないため、このことについては「人間が熊から野生を生き抜く力を奪った」と表現していましたが、そのような熊を「怪物」と称して恐れ、その肉を嬉々として食し、残滓の中からその骨を掬い上げ正体を探ろうとする様々な人間の在り様もまた興味深いものでありました。

また番組内では被害にあった牛や熊の解体作業、OSO18の肉やそれを食す人々が映し出されていましたが、これは英断であったと高く評価しています。
命を狩る、命を食すという行為は決して綺麗事ではなく、野生の流れを汲んだ自然そのものであり、それは害獣駆除に対しても同じことだと理解しています。

時に我々は自らを自然野生の輪から離れた存在だと認識しがちですが、実際はその輪の中に強固に組み込まれたものであり、その生活圏から離れ完全なる野に放たれれば簡単に捕食されてしまう脆弱な存在であります。

脆弱な種であるからこそ集団で生息し、強固な巣を作り食料を自給する生態に移行した結果が現在の姿であり、万一そこに捕食者が侵入してくればそれを排除しなければ自らの安全が保証できないのは自明であります。

OSO18が生きるために牧牛を襲ったのと同様、住民も住民の生活と命を守るために駆除に動きましたが、これに対する非難の存在にも番組は触れていました。

世界にはただ「娯楽」のためだけに殺生を行うトロフィーハンティングというものがありますが、対して害獣駆除は生物として脆弱な人間が安全に生きるための「防衛」であり、その必要とされる以上には駆除をしないというルールもあります。

この二つを混同してしまう危うさも我々人間がその存在を自然の環の外にあると誤解し、自らの脆弱さを認識せず徒らに自然を甘く見て、その一方で自らを過大評価する認識の誤謬から生ずるものではないかと推察します。

自然本来の行き方を逸脱し、結果その命を失ったOSO18は、自然への理解力を失い自らの本当の姿を見失った我々人間を映す鏡であったのではないでしょうか。
そして、OSO18の最大の不幸は著しくいびつな存在である我々人間に近づきすぎたことであったと思います。


*1 東京農工大学 シカの増減でクマの食生活はどう変わる?~個体で異なるツキノワグマのお食事変遷~

*2  OSO18の最期 “忍者”はなぜ駆除された?第2のOSOの可能性は?


OSO18 ”怪物ヒグマ”最期の謎

”途方に暮れていたのは、藤本もまた同じだった。捕獲の2日後、藤本を訪ねると、OSO18の死体の写真に、異様な点を発見していた。左前足の腫れだ。もしかしたら、何らかのケガを負っていたか、あるいは病気にかかっていたか。そこに老いが関係しているのではないか。推論はできるが、いかんせん物証が残っていなければ、何もわからない。OSO18とはどんなヒグマだったのか。藤本は、「謎は謎のまま終わる」とこぼした。”


牛を連続で襲う謎のヒグマ「OSO18」-その正体とは?

”「人が普段見ないようなところをきちんと通っている。人間の裏をかくことに長けているヒグマだとわかりました。何かのきっかけでOSO18は人間を徹底的に警戒するようになってしまった。その部分については人為的なのかもしれないです」”

”一頭数十万円もする牛の被害額は、少なくとも2300万円に上っている。ただ、被害は牛の損失だけにはとどまらない。”


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