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「写真の創作」って何?(10)・・写真をbuildする・・Sam Abellのワークショップを経験して・・「写真は引き算」を乗り越える

写真の創作への試み

 写真の創作とは何?という疑問を抱き、シリーズとして投稿している。それは、写真は被写体を単にコピーしているだけに過ぎないのではないか、という疑問が拭えないからである。判例等によれば、構図をどうするか等には創作性が認められるため、写真もまた著作権法上の「著作物」であることは間違いないことですが・・・。

とはいうものの、目の前にある被写体を写し撮るということが「写真の創作」なのか、自分はカメラを使ってそれをコピーしているだけに過ぎないのか。そんな感覚はどうしても拭えず、創作感をどこに求めてよいのかにつき悩ましく思っていたのです。
 そんな中、軽井沢フォトフェスト(Karuizawa Foto Fest :KFF)総監督の野辺地ジョージ氏がゲストとして招いたSam Abell氏のセミナー、ワークショップに参加し、Samの話を聞いて、その疑問をようやく払拭することができました。

 ここに野辺地氏による、Sam Abell氏の紹介文を引用します。紹介にあたって、野辺地氏は、こう言ってます。
『あなたは、今「写真」と、どう向き合っていますか?趣味で撮影されている方も多いと思いますが、毎週撮影しているのに、同じ様な写真しか撮っていませんか? 今回のKFFはそれを変える、写真の腕を大きく磨くための今までに、そしてこれからもないかもしれない機会です。』

日常写真の最高峰・「構図の神様」、サム・エイベル
もしかしたら、あなたは、構図のことについて少し勘違いしている部分はありませんか?今やデジタル写真の世界ではトリミング、露光の調整、そして色なども自由に、そしてフィルム時代よりも簡単に変えられます。そういう世界で、あえてトリミングなどを加えない写真家は、「古い考え方」のままだからと思いがちではありませんか?
実は違うんです。構図を本当に意識している写真家は、後から補正、トリミングなどをすることは一切考えていません。つまり構図の職人であり、こだわりを持って、自分でしか納得できない、より完璧な写真を目指しているのです。
その「構図徹底派」の代名詞でもある写真家、サム・エイベルが、軽井沢フォトフェストに来るんです。8年前の春、僕はサムとアメリカのサンタフェ市でのワークショップで出会い、人生はその出会いをきっかけに変わりました。金融の前職を辞め、写真の世界に没頭したのも、サムとの出会いが大きな足掛かりとなりました。
33年間ナショナルジオグラフィックで撮影していたサムは、今でも周囲からは当雑誌史上最高フォトグラファーとして絶賛されています。ナショジオ史上ベスト50枚の写真の中で唯一2枚選定された写真家です。そして、彼の「コンポーズ&ウェイト」(構図を決めて、待つ)というごくシンプルなコンセプトは、極めるための長年に渡る繰り返しの結果、一つの偉大なキャリアとなっているのです。つまり、サムの写真は、ありのままの日常の世界の写真をものの見事に写しているのです。
そして、彼のトークはアメリカのマサチューセッツ工科大学などでも超満員となるほど、感動と感銘を受けるトークなのです。
4月14日、アンカーを務めるサムのトークは必見です。そして、4月15日、サムとしなの鉄道を旅して撮影するワークショップは、残すところ数枠のみです。ご参加されたい方はお早めに!

https://www.facebook.com/KaruizawaFotoFest/posts/pfbid0rJNPAzUjiGbBAZdQ7iNaAiwwnpf215qMLjw1v5ZTRcCym6A8ocRHrGzFUrP9Jqa2l

写真は引き算?・・

 構図をいかにするかは、写真の創作手段であり、構図を決めるための一つの手法として、写真は引き算ということが言われています。
 この「写真は引き算」ということは、いつ、誰が言い出したのだろう、と思い調べてみると、この表現は、写真家のアンドレ・カルチャゴフ氏が提唱したそうです。簡単に言うと、写そうとする画角の領域の中から不要な要素を排除することで、必要な要素だけを残し、表現を研ぎ澄ますということでしょうか。

 デジタル時代、写してからレタッチソフトで不要な画像を消すことは出来ますが、カメラで写すときはそうはいかないので、寄ってみたり、ズームアップしたり、見る角度を変えたりする必要があります。
 写真は引き算と言うことは一理ありますが、必ずしも全ての写真に当てはまるわけではないようです。
 引き算と言うことは、まず最初に様々なものが写り込んだ被写体が目の前にあると言うことになります。ある意味で結論が先にあると言うことですね。

写真は足し算?

 これに対して、写真は足し算と言う発想もあります。
 まず、被写体に寄り、あるいはズームアップして、そこを原点として引いていく。画角が広がるにつれ、様々な要素が加わっていく。それを入れるか入れないか、どれを入れて撮影するか、と言う発想です。
 どちらが正しいのか、というと、いずれもありのように感じます。

写真の引き算・足し算に共通すること

 写真の引き算・足し算については、ヒーコの「風景写真の引き算と足し算とは?基本にして最も重要な3つのポイント」がわかりやすいでしょう。

  写真の引き算・足し算に共通していることは、いずれも写したい被写体は最初から決まっている、と言うことです。ですので、すでに決まっている目の前の被写体を写し撮る、ということが「写真の創作」なのだろうか? 引き算、足し算にあたって色々考えてはいることは確かだが、まだまだカメラでコピーしているだけに過ぎないのでは?、という疑問はどうしても拭えない。それが、Samの話を聞いて、ようやく払拭することができました。

Compose and wait・・写真をbuildする

 それが、Sam Abell 氏の方法論です。Sam Abell 氏は、33年間ナショナルジオグラフィック誌の写真家として活躍し、同誌の歴史上最も偉大な50枚の写真に二枚選出された唯一の写真家です。それだけ独創性が高いということなのでしょう。

   2023年4月14日に軽井沢フォトフェストで開催されたSam Abell 氏のセミナーで、『写真というものは「build」されるものだ』と、それを父親から教えられた、と彼は言っています。そこで、「build」の意味を調べてみると・・・

「積み重ねてある構造物を築く」ということですね。
 彼の手法は、イメージにイメージを積み上げていく手法です。でも、多重露光ではありません。compose and waitという手法です。まず、背景となるイメージを選び構図のベースを決めます。それをバックレイヤーとして、その上に異なるイメージのレイヤーを載せていきます。
 多重露光でもないのにどうやって? と思いますよね。composeしたイメージの上に何かが現れるのを、ある程度予測して、waitするのです。それを確かめるために、4月15日に開催された『SAM ABELL WORKSHOP: しなの鉄道撮影旅行 「PHOTO TRAIN」: A JOURNEY ON THE SHINANO RAILROAD』に参加してみました。
 まさしく、イメージをbuildしていくのです。その結果、最終的に、全体イメージが構築されます。buildですから、足し算でもあります。最初からそこにある被写体を写し撮ったものではなく、イメージを重ねて積み上げていくという創作行為がそこには見受けられます。実際の手法はもっと複雑で、buildするにあたっての細かい注意点がたくさんあり、そこには前提として引き算をしているときもあるようです。
 ここにその手法の概要を紹介した記事がありましたので紹介します。

 1. Compose a background.
 2. Establish your position, framing, and settings
 3. Wait for the moment
という手順。まさしく作り上げる・・buildするという感覚ですね。この「compose and wait」という手法こそ、写真を創作すると言うに相応しい手法ではないでしょうか。
 写真を撮る手法として、この手法が全てではないとは思いますが、初めて「写真を創作している」感をもたせてくれた手法です。

 この手法は、Samをして自身を超えたと言わしめた、写真家 George NOBECHI 野辺地 ジョージ氏に引き継がれています。



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