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[幻聴ラヂヲ]宇宙船 JICO[SFブラック短編]

 新年そうそう聞こえてきた幻聴は、例によってヨソの星の放送だったが、他人事とは思えぬところがあったのでメモしておく。

 その星でも宇宙船の事故が起きたらしい。
 番組では事故を受けて「宇宙船安全協議会」が出した「緊急声明」が紹介されていた。
「宇宙船安全協議会」とは、かつて大きな宇宙船事故が起きたときに各分野の専門家が集まって結成された民間組織で、事あるごとに原因解明の必要性を強く訴えてきたようだ。原因解明なくして再発防止はあり得ない!という主張は、しごくもっともである。
 ただ、番組ではそんな建前をなぞるだけでなく、その真意に迫っていた。

「そもそもの話ですが、どうしてその『協議会』が発足したと思います? 過去、公的機関による事故調査がきわめて不十分だったからです」

「具体的には、GovernmentとPoliceの問題です。GovernmentとPoliceが科学的な調査活動を制限したり、報告に口出しするということが何度もあったんです。だから、今回はそういうことがないようにと声明が出された」

「それは神経質過ぎるんじゃないですか? そりゃあ宇宙船の専門家の方たちとPoliceでは立場が違うでしょうが、Policeだって別に邪魔するつもりはないんだから、協力し合うことが大事でしょう。私はそう思いますがね」

「まず、Policeが出てくるのが当然だと思われてるようですが、Policeの出番は犯罪性があった場合に限られるべきなんです。というか、あなたはどうやら権威主義者のようだ。GovernmentやPoliceがおかしなことをするわけがない、専門家たちが被害妄想に陥っていると、そう決めつけている」

「失敬な!」

「先入観がなければ、怒りを露わにしている人たちの言葉に、まず耳を傾けるでしょう。どうしてそんなにムキになっているのかと」

「じゃあ教えてくださいよ。どうしてそんなにムキになってるんです?」

「さっきも云ったように、GovernmentやPoliceによる調査妨害が繰り返されてきたからですよ!」

「一体何のために妨害しなきゃいけないんですか?」

 その時、別の男が口を挟んだ。どうやら裏事情に詳しいジャーナリストらしい。彼は吐き捨てるようにこう云った。

「Policeの仕事の半分はモミ消しなんですよ。いい歳して、そんなことも知らないの?」

「善良な専門家がすべてを明るみにしてしまうとGovernmentやPoliceが困ると、そう云いたいのですか?」

「当然でしょ。上が関係していないか、それを確認するのが第一なの。上が関わってれば話し合う必要があるし、上の上が関わってるとなれば、それは虎の尾。そんなものにふれたら自分たちの身が危うい」

「まるでマンガだ。そりゃあ一部には腐敗もあるでしょうが、大半のPoliceは善意にあふれた立派な人たちです」

「泥棒を捕まえてもらった庶民が正義のPoliceにカネを払いますか? モミ消してもらった連中はちゃんと礼をする。どっちの仕事をした者がチカラを持つようになるかって話よ」

「じゃあ、相手によっては捜査をやめるとでも? そんなことが許されるわけがないでしょう」

「真相の解明じゃなく、世間を納得させるためのストーリーを作るの。御用学者を使ってね」

「それじゃあ、事故の再発防止につながらないじゃないですか!」

「そうっすよ。だから、協議会の連中はお願いしてるんだ。頼みますから、ちゃんと調査させて下さいってね。それがこの緊急声明の真意なの。
 ちなみに、法律的にも正義は協議会のほうにある。なぜなら銀河連邦の規約で、そのことが明記されているから。銀河条約は憲法の上だからね」

「…………」

「GovernmentやPoliceが公正・科学的な調査を邪魔するというのは、どこの星でもありがちなことだったんだ。だから銀河条約でそれを禁じた。宇宙船の事故となると一つの星の問題では済まないからな……」

 聞いてるだけで胸が詰まった。
 そんな非民主的な星に生まれなくてよかったと、つくづく思った。

 ただ、その星は相当ダークだが、問題を放送で取り上げている。言論の自由はあるらしい。そこはこの星のほうがひどい。この星にはそんな番組はもう存在しないし、仮に放送しても炎上間違いないなしだ。

 事故直後だぞ! そんなことを口にするのは不謹慎だ!
 被害者の気持ちを考えろ!
 今必要なのは、皆が一丸となって苦境を乗り切ることだ!
 同胞を疑うとは何事だっ!

 大衆が厳しく批判するのはもっぱら個人になってしまった。政治家に矛先が向くことがあってもそれは政策や信条に対してではなく、カネとオンナとか、そっちが発覚した時くらいだ。
 もっとも、真相解明についてはオレもあきらめていた。思考停止というやつだ。しかし、それでは世の中ひどくなるばかり。どこかの星の協議会のように微力でも正当な要望を出し続けることが必要だった……。

.

事故調査も急を要する
そして公明正大な調査による原因の究明こそが再発防止につながる
我々の手にかかっているのは今の被害者の救済だけではない
将来、同じような被害者を出さずに済むかどうか
その運命もまた今の我々にかかっている……



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