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[幻聴ラヂヲ]夢のピンコロ時代[SF短編]

 年末、テレビではトンデモ特集の番組が恒例になっていましたが、今でもやってるんでしょうか。今年はもう放映されたのかな。

 今日、聞こえてきたどこかの星の放送は、おそらくそんな番組だと思われますが、番組タイトルは「夢のピンコロ時代の到来!?」でした。

「ピンピンコロリ」が望まれるのはその星でも同じようです。

 ただ、計画的にそれをやれば「安楽死」ですから、実際に選択する宇宙人はごくごく一部だったそうです。それに、あらかじめ日取りを決めておくというのは「ピンピンコロリ」とはちょっと違いますね。期待されているのは「死を意識しないで死ねる」ということでしょうから。

 そんな都合の良いことを実現できるの?

 その「まさか」がその星では政策として開始されたそうです。ひそかに。つまり、一般大衆はそんな政策が実行されたことを知らない。

 いったいどういうことなんでしょう。

 一度うてば半永久的に効果が持続する、その星ではそんなクスリやククチンの開発が進められていました。

 夢のような話ですが、オトナならこう考えます。

「バカバカしい。そんなものが出来れば商売あがったりじゃないか。
 儲かる薬というのは、一時的に症状を緩和するが、病気そのものは治さないで温存するんだよ! そうすればずっと買ってもらえる。通院し続けてくれるからな!」

 ひどい暴言のようですが、この星でもそれに近いものはありそうです。咳止め、解熱剤、痛み止めから、血圧、血糖、コレステロールを下げる等々…… 対症療法の薬は実に多い。ずっと飲み続けてる人は相当いる。

 ただ、この星の薬は化学薬品のはずで、良くも悪くもその効果は一時的。それがイデンシの組み替えとながると…… たとえば、糖分をいくらとっても自覚症状が出にくい体質になる。糖尿病とはそもそもそういう病気ですが、もっと自覚症状が出にくくなれば、出たときには末期です。

 その星では、そんなクスリが開発され使われたようです。つまり観戦しにくくなったり重商化しにくくなるんじゃなく、自覚症状だけが出にくくなる。観戦して重商化しても自覚症状がないということは、ある時点で突然、行動不能になるということで、そのあとはもう……。

 そんなに都合よく自覚症状を抑える方法があるの? 詳しいことはわかりませんが、面益を働かなくさせればいいようです。発熱も痛みも倦怠感も面益が働いてくれるから出てくる症状なんですって。

 ほんとうにトンデモナイものを普及させてしまったわけですが、その仕組みは複雑で、単純な有害成分ではないそうです。いくつかの要素の組み合わせが揃ったときに決定的な作用が発動するんだとか。いくつかの要素とは、流行病、別のクスリ、あるいはナントカジー。

 そんな因果関係を個人の研究者が証明するのはほぼ無理。有志が集まって協力して解明にあたっても何年もかかるでしょう。また仮に解明に成功しても、それが偶然に起きた悲劇なのか、そうではなかったのか、その証明となると、さらにハードルが高くなります。
 もし偶然に起きたことだと発表すれば、ナーベル賞がもらえるかもしれません。しかし「闇」を指摘すれば、命を捧げることになりそう……。

 大きな話はともかくとして、一般人はどう考えれば良いのか?
 まず、そのクスリの品質には相当のバラツキがあるということを抑えておく必要があります。複雑な製品なので不良品が相当あるそうです。不良品は簡単に言えば二種類。効果が強いものとほとんどないもの。この場合の効果とは毒性ですから、強いとすぐにヤバイことになりますし、効果がなきに等しい不良品の場合は無害だったりします。同じクスリでも品質によって大違い。自分がどれに当たったのかで対応方法が大きく変わります。

 調べる方法? ありますよ。イデンシの組み換えはイデンシを調べればわかります。

 ところが、調べる人はごく一部。大多数の宇宙人はそんなのはデマだとかインボー論だと云って耳を貸さないんだとか。膨大な数のチョーカ死亡者やチョーカ重商者数が発表されても、どこ吹く風。

 その星の人は、どうかしてしまったのでしょうか?
 番組では、そこが議論されていましたが、結論は意外なものでした。

 面駅が無効化されて気がつけば臨終…… それって、老後の心配なんかしないで、若い肉体で人生をエンジョイして適当なところで時間切れ……  要するに「ピンコロ」じゃん!
 つまり、大衆は起きてることがわかってないんじゃくて、この事態を内心、歓迎しているのではないかと。

 何しろヨソの星のことなので、その推測が当たっているかどうかわかりませんが、話を聴いてるうちに他人事とは思えなくなってきました。この星でも圧倒的に多いのは楽天家ですから。

 何も楽天家をディスってるんじゃないですよ。逆です。うらやましいくらい。なにしろ疑うというのは不安にもなるし、人からも嫌われます。一度きりの人生、実にさみしい生き方。

 と話がそれました。原則に戻ります。
 いくら大衆の願望をかなえる政策でも黙ってやるのは横暴というものです。やっぱり良くないと思うんですよ。

 ただね、誰が悪いのか? 何が本質的な原因なのか? そこが問題です。インボー論者は悪徳シホンカやその手先のセイジカを糾弾しますが、諸悪の根源は本当に彼らなんでしょうか?

 長生きすることが目的化している人って多いじゃないですか。
 寝ている間にポックリ逝きたいと公言する人もぜんぜんめずらしくありません。でもそれって、ものすごく横着な考えですよね。
 もし今の世の中、そんな人たちが大多数なら、そういう人たちこそが、こんな世の中を引き寄せたんじゃないでしょうか。潜在的な願望の実現というやつです。民主主義では多数派の希望は制度的にも正当化されますし。

 ですから、この状況を変えるとすれば、そこをひっくり返すのが一番だと思うのです。つまり、大勢の人が心の底から生きたいと願えば、そんなへんなクスリは自然に淘汰される。本気で健康のことを考えれば、対症療法なんかの欺瞞に気づかないわけがないですから。

 じゃあ、どうすれば心の底から生きたいと願うようになるのか?

 本当にやりたいことがあるのか? 喜んでくれる人たちがいるのか? そこだと思います。それが意識できるようになれば「ピンコロ」を待ち望むなんてあり得ませんから。
 奇跡は起こりますよ。そんな人たちが増えればね。いや、それは奇跡じゃなくて、生きがいに目覚めた人たちにふさわしい世の中だ!

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