突然ショートショート「倒すもの」
大通りの歩道を歩いて帰っていると、目の前に怪人が現れた。
顔は仮面をつけていて、口元のあたりしか見えない。
「お前を倒して新たな世界を作る」とか訳のわからないことを言われて、黙っていられる訳がない。
私は魔法のリングを使って魔法少女に変身し、その怪人と戦うことにした。
激しい戦いが続く中で、私はあることに気づいた。
動きが次第に鈍くなってきているようだった。戦闘を始める前のことを少し思い出してみれば、動きの違いは容易にわかった。
きびきびと跳び跳ねるようだったキレの良さが失われている。
けれども油断はできない。こういう場合、向こうは巨大な一撃を繰り出すためのエネルギーを貯めていた…というケースがよくある。
だとすれば、こちらではその一撃が出る前にとどめを刺して終わらせる必要があるのだ。
こちらには武器として変身の時に使ったリングがある。それを弱点である喉のあたりにぶん投げた時のことだった。
相手が金色にまぶしく光り出したのだ。
そこから、不思議と世界がスーパースローに見えてきた。
リングは喉元まで届くか届かないかの位置を、喉元に向かって勢いよく進んでいるようだったが、魔物から勢いよく放たれる光に飲み込まれていく。
私の元にもその光が届くというのがわかった。なので避けようと体を動かす訳だが、不思議と、私の動きは周りよりもより遅く感じられてしまう。
光が私の目の前を覆いつくすと、次の瞬間、一瞬だけ体が浮いて、その後背中の辺りに激しい痛みが走った。
相手の一撃で吹き飛ばされたのだ。
ガラガラとドミノ倒しのように響く衝突音。
振り返ると、私の視線の先では、大量の放置自転車が倒れていた。私がぶつかって倒してしまったのだろう。
相手は一瞬笑みを浮かべた後、空高く飛び去っていった。
「お前を倒して新たな世界を作る」と言っていたのは何だったのだろう。
私を使って放置自転車を倒しただけで去っていったのだから。倒すものが違う。
そして、放置自転車の処理と行方不明のリングを探して変身を解除するのは私がしなければならない。
どっと疲れが出てきた。
(完)(854文字)
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