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アメリカに行きそびれた僕は、韓国でそうめんを食べた

アメリカへの出張旅行。

直前まで仕事に追われていたので、出発当日になって慌てて準備を始めた。

帝国ホテル発成田空港行きのバスを、壁面の綺麗なホテルのカフェで1杯のコーヒーを飲みながら待つ。

わずかばかりの優雅な一時を終え、会計を済ませようとしたら、まさかの2,000円を超える請求をされた。

思わず「欧米か?」とお笑い芸人のようにツッコミそうになった。もちろん欧米ではないし、円安の影響でもない。帝国ホテルにいたことを改めて実感し大人しく支払った。

リムジムバスに揺られていよいよ空港に到着。

いつ来ても国際線ターミナルはワクワクする。圧倒的なスケール感が旅の高揚感を押し上げる。

長いチェックインカウンターの行列も苦ではない。先日、うちの会社のライブ配信チームが手がけた、原田マハさんという小説家の対談アーカイブ動画を聴いていた。対談が面白すぎて、待ち時間が気にならない。

40分くらい待ってチェックインカウンターに行くと、「ESTAは申請済みですか?それがないとアメリカには入国できません。飛行機にも乗れません。認証が間に合うか分かりませんが今すぐ申請してください」

ハッとした。「欧米か?」なんてツッコミを入れてるヒマなどない。慌ててスマホで申請する。膨大な入力項目が待ち受ける。これまで打ち込んできたスマホの文字入力は「全てこの日のための準備運動だった」と言わんばかりの猛スピードで打ち込む。

「申請しました!飛行機乗れますか?」
「申請して認証されるまで30分から長くて1日くらいかかりますね」
「認証されないと乗れないですかね?」
「そうですね、そして、このチェックインカウンターもあと5分で閉まるので、それまでに降りなければ今日はごめんなさい」

愕然とした。スラムダンクの三井寿が安西先生に「バスケがしたいです」と名言を吐いたように、僕も「アメリカに行きたいです」と航空会社に懇願したかったが熱意で入れるほど入国は甘くない。

粛々と宿泊予定のポートランドのホテルにキャンセル連絡を行い、成田駅近くのビジネスホテルを探した。

心が折れそうな時、イヤホンから原田マハさんが「絶対に諦めないことが大事ですね」と囁いた。そうだ、対談をずっと聴いていたのだ。今一番必要な言葉だった。僕にとっての安西先生は、原田マハさんだった。希望を捨てちゃいけない。諦めたら、そこで試合終了だ。

タイミングよく聴こえてきたので、まるで何かの啓示を受けたかのような心持ちで(あるいは、そうでも思わなきゃ、やってられないくらいの心持ちで)空港を後にした。そして、その頃、ESTAから「認証されました」という連絡メールがきた。うん、ありがとう。誰も悪くないよ。自分の責任だ。みんなもアメリカいく時はESTA忘れないでね。

ホテルに着いてフライトスケジュールを見直し「オアフ経由のポートランド行き」から、「韓国経由でサンフランシスコ経由のポートランド行き」に変更した。

韓国で5時間待ちのトランジットがあったので、初めて韓国の地に足を踏み入れた。

まるで日本かと思うほど、見知らぬ町の桜並木は綺麗だった。

川沿いを散歩したあと、折角なので地元の人が行きそうなお店に入ってみた。

お店のおばちゃんが明るく「アンニョンハセヨ」と声をかけてくれた。僕も生まれて初めて「アンニョンハセヨ」と返した。おばちゃんが嬉しそうにニコッと笑った。

メニューも韓国語しか書かれていない。Googleレンズのアプリをかざしてみると一瞬で翻訳される。

まるで「ほんやくこんにゃく」みたいだ。僕にとってのドラえもんはGoogleだった。

「ビビン麺」も気になるが「ごちそう」が気になる。自ら「ごちそう」と言えるメンタリティ、嫌いじゃない。しかも「ごちそう」の方が安い。「乗算器」はよく分からないから一旦スルー。Google先生を責めてはいけない。

キッチンに目を向けると仰々しい横断幕が掲げてある。何事かと思って再びGoogleレンズを向ける。

なんだ、最高じゃないか。一気に親近感が生まれる。それにしてもGoogleレンズは素晴らしいな。眼内コンタクトレンズより、眼内Googleレンズを入れたくなる。

よし「ごちそう」を食べよう。注文すると、前菜としてキムチと沢庵が出てきた。

美味い。めちゃ美味いじゃないか。食べ終えるとおばちゃんは嬉しそうにまた追加してくれた。これでお腹がいっぱいになりそうだ。そして15分くらいかけて、ついに、「ごちそう」が出てきた。

あたたかいそうめんみたいなものだった。

でも美味い。めちゃ美味い。なんだか優しい味がする。健康を考えてつくってくれた感がすごくする。思ったよりシンプルだったが、おばちゃんとのコミュニケーションもあり、僕にとっては十分ごちそうだった。

(つづく)

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