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呪術廻戦アニメ2期「懐玉・玉折」感想 声優さんの名演が輝いた永遠の青い春

注意:ネタバレを含みます。


とにかくすべてが素晴らしかった!


 呪術廻戦アニメ2期「懐玉・玉折」編全5話を見終わった。
 毎回あまりにもすべてが素晴らしくて、深夜にテレビの前で打ちのめされていた。

 第5話「玉折」は、原作を読んでいるから悲しい展開になると知っていても、櫻井孝宏さんの名演により夏油の苦しみが痛いほど伝わって、見ているのがつらくなるほどだった。

 作画、演出の良さについては以前にも書いたが、私はとりわけ第4話「懐玉・肆」の作画が好きで五条悟の青い瞳は宝石のように神秘的に輝いていて吸い込まれそうだった。

 演出は第5話「玉折」が特に良かった。
 シャワーの音が拍手に聞こえ、拍手かと思いきや雨の音…夏油の不安と混乱が見る者に伝わってきた。

 美々子と菜々子が住む村の場面で、「非術師を見下す自分」と「それを否定する自分」が長い芯の蝋燭と短い蝋燭で表現され、二つの炎によって夏油の影が二重に映る。
 二つの影も揺れ動く夏油の心情を暗示している。

 村に災いをもたらした呪霊の罪を幼い美々子と菜々子になすりつけて虐待していた大人(非術師)たちを目にした夏油の中で、ギリギリ平衡を保っていた天秤が一気に傾く。

 夏油が「非術師を見下す自分」という本音を選んだ瞬間、「それを否定する自分」を表していた短い蝋燭の火は消える。
 炎に包まれた村に落ちた制服のボタンは、夏油が呪術高専と決別した証だった。

声によって与えられる命


 第4話で覚醒した五条悟を中村悠一さんが大迫力で神々しく演じたのを見て、「本当にすごい‼︎」と圧倒された。

「懐玉・玉折」全編を通して、中村さんが見せた悟の感情の振り幅と、成長による変化がすさまじかった。

 第4話までは若くてやんちゃな声だったのに(個人的にはこちらの方が好み)、覚醒後の第5話からは、軽妙で余裕が感じられる口調になっている。

 傑がいなくなり、伏黒恵に会いに行った時には一人称が「僕」に変わっていて、まだ高専の制服を着ているから学生なのだろうが、話し方はかなり今の五条先生に近くなっている。

 ラストで虎杖たちに起こされて、青春の夢から覚め、恵に「何笑ってんスか?」と聞かれて「別に♡」と答えた時は、完全に大人の五条先生の声だ。

 1話の中で、同じ人物の変化をこんなにも明確に表現できるなんて…中村悠一さんの演技力には心底感動した。


 夏油役の櫻井孝弘さんの演技も中村さんに負けず劣らず実に見事だった。

 第1話から第3話までは、「呪術廻戦0」の頃より若く爽やかな甘い声で素敵だった。

 わがままでやんちゃな悟を諭すような冷静で優しい口調だったのが、第4話で悟に抱えられた天内理子の遺体を見てからは明らかに声のトーンが変わる。

 最強の悟の隣に並べなくなった孤独感や、呪術師として生きる意味を見失いかけている動揺と不安がモノローグから滲み溢れていた。

 第5話冒頭からずっと悩み苦しみ続けて暗い声だったのに、離反後、新宿の喫煙所で硝子と再会し、笑顔で「や」と言った時には吹っ切れたように明るくなる。
 生き方を決め、悩みがなくなって表情にも元気が戻っている。

 傑がわざわざ硝子と悟の前に現れたのは、かつての友に別れを告げるためだろう。

 傑の考えを理解できず、声を荒げて詰問する悟に対して、夏油は終始淡々と答える。
 もはや悟と何かを分かち合うことを諦めたかのように落ち着いた口調だ。

殺したければ殺せ」と冷たく悟を追い詰めた後の「それには意味がある」にはなぜか優しさすら感じた。

 まるで悟が自分を殺すことを許し、受け入れているかのように…。

 中村さんと櫻井さんの名演によって、原作を読んだ時以上に悟と傑の感情が胸に迫り、心が張り裂けそうだった。

 私は、二次元の人物を立体化して三次元に連れてきてくれるのは3D映像の技術ではなく、声だと思っている。

 声によって二次元の人物は命を吹き込まれ、この世界に顕現する。

 悟と傑は私たちのいる現実世界に実体を持たないけれど、実体を持つ私たちと同じく、確かに存在しているのだと感じる。

永遠の青い春

 傑の目指す、非術師を皆殺しにして呪術師だけの世界を作るというのは、実際、非現実的な構想だ。
 呪術師の人口が少なすぎて今の社会を維持できない。
 人間社会の歯車を逆回しして、一旦自給自足の生活に戻るしかなくなる気がする。
 呪術師が非術師を支配して奴隷のように働かせる社会の方が現実的ではないだろうかと私は思う。
(九十九と違って、夏油が目指していたのは呪霊のいない世界ではない。もしもそうなると呪霊操術自体が…)

 どうすれば悟と傑は道を違えることなく一緒にいられただろうか、と何度も妄想する。

 夏油の離反を回避して、悟と一緒に高専で教師をしている二次創作を読むのは好きだけれど、やはり二人の関係は決別という結末を含めて価値があるのだと思う。

 原作では描かれていないが、悟は傑を失ってとても苦しんだはずだ。
 自分は親友だと思っていた相手のことを何も理解していなかったのだと。

 夏油は悟に弱音を吐けなかった。
「私たちは最強なんだ」と称して憚らなかったのに、悟だけが誰にも到達し得ない高みに昇ってしまった。

 傑は親友という対等な立場であると同時に、今まで呪術師のあるべき理想を悟に教え、自分勝手なお坊ちゃんである悟をおそらく生活面でも精神面でも世話し保護してきた。
 その自分が、非術師を見下しているなどと、初対面の九十九由基には打ち明けられても、悟にだけは言えない気持ちはよくわかる。

 傑は悟と自分の中の暗黒を分かち合えず、悟は盲目的に傑を信じていて彼の変化に気づけなかった。
 それが二人の破綻の原因だ。

 しかし、このどうしようもないつらい別れがあるからこそ二人の青春は美しく切なく、永遠に眩しく輝き続ける。

 悟は今も最強で孤高だが、高専で教師となり、夢を叶えるために仲間を育ててきた。

 希望はある。

 虎杖、伏黒、乙骨たち…。
 強くて聡い仲間が確実に成長している。

「俺だけ強くても駄目」「一人は寂しい」と悟に教えたのは傑だ。
 傑を失ったから、悟は変わることができた。

 たった一人の親友に悟自らの手でとどめを刺すという結末を知ってなお、悟と傑の青い春は清らかに澄んでいる。


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