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腐女子が見る呪術廻戦 アニメ感想その弐 一年ズとさしす

注意:筆者はボーイズラブ(BL)を愛好するいわゆる腐女子です。
   本誌のネタバレを含みます。


アニメ最高!!

 もしもアニメがこれほど素晴らしいものでなかったならば、こんなにも呪術廻戦に捉われることもなかっただろう。

 アニメ1期を見た時、私は虎杖と伏黒のお互いを大切に想い合う強い信頼関係に痺れたのだけれど、2期「懐玉・玉折」編ではすっかり、やんちゃ悟と夏油の最強コンビの虜になってしまった。

 五条先生と夏油は呪術廻戦の裏(?)主人公なのだと改めて認識した。

 「懐玉・玉折」編が終わった後にジャンプチャンネルで公開された「give it back」(アニメ1期ED曲)とのコラボ映像を見て、その悲しく切ない歌詞と曲調が傑を失った悟の心情にしか思えなくなったし、総集編だと思って油断して見始めた「閑話・前編」が、悟と傑を軸にストーリーをわかりやすく説明し、かつ名場面を余すところなく切り取った神編集だった上に、ラストで流れた「逆夢」(映画「呪術廻戦0」のED曲)を聞いて、この曲は悟と傑にこそふさわしいと感動した。

 乙骨は初め、里香に呪われた理由を理解できないでいたが、解呪前であっても里香を憎んではいなかった。
愛と憎を 繋ぎ合わせて」という「逆夢」の歌詞は、乙骨と里香よりも悟と傑の関係の方が合っている。

 「閑話・前編」のラストで五条悟が夏油傑のことを「僕の親友だよ。たった一人のね」と言った後に流れた回想シーンを見て、私の中で様々な感情が爆発して涙が溢れた。

 悟、傑、硝子が三人で仲良く机を並べていた教室の光景、天内理子たちと限られた時間を過ごした沖縄、そして悟と傑が並んで歩く後姿と屈託のない眩しいほどの笑顔…。

 悟と傑がどれほど強い絆で結ばれていたか、互いを唯一無二と感じていたか、硝子と三人で過ごした青い春がどんなに輝かしいものだったかが胸に沁みわたった。

 天内理子の事件後、最強になった悟と呪術師として生きる意味に疑問を感じ始め、孤独を深めていった傑との間には埋められない間隙が生じ、様々な出来事が積み重なって二人は決別し、最後は悟自らの手で傑にとどめを刺すことになる。

 このつらい結末を含めて私は悟と傑の関係性に強く惹きつけられた。

 アニメでは、中村悠一さんと櫻井孝宏さんが周知のイケボと圧倒的な演技力によって悟と傑に魂を吹き込んでくださったので、原作を読んだ時よりも遥かに生々しく二人の感情が直接心に浸透してきて、こちらの情緒がジェットコースターのように激しく乱高下して毎回大変だった。

一年ズとさしす


 虎杖、伏黒、釘崎の(高専)「一年ズ」と悟、硝子、傑(さしす)は、どちらも男2人、女1人の組み合わせの同級生で、男女の間に恋愛感情がなく対等な立場であることが特徴だ。

 従来のジャンプなどの少年向け漫画作品では、男女がこの組み合わせになると何らかの恋愛関係が生じる(例:NARUTO)ことが多かったので、「呪術廻戦」では全くその要素がないことが斬新だった。

 この同級生トリオはどちらも仲が良く、三人がワチャワチャ日常生活を送っていることを想像するだけで楽しい。
 
 個々の性格による差もあるが、一年ズとさしすの決定的な違いは、楽しいことだけでなく、「罪や苦しみを共有しているか」だと思う。

 虎杖と伏黒の関係は特別なもので(以前にも書いたし、後述もするが)、二人は互いの痛みや苦しみを敏感に察知し合っている

 京都姉妹校交流戦開始前に伏黒は虎杖を呼び止め、「何かあったろ」と尋ねる。

「あ? なんもねーよっ」と虎杖はいつもの笑顔で誤魔化そうとするが、伏黒に無言でじっと見つめられて、

「……あった。けど、大丈夫なのは本当だよ」と正直に答える。

 順平を助けられなかったこと、人を殺したこと、それによって自分が傷ついたこと、自分が求める≪正しい死≫が何かわからなくなったことを虎杖は言わないし、伏黒もそれ以上詮索しない。

 しかし、この時虎杖には、何も言わなくても伏黒は自分の変化に気づき、心配してくれているのだと伝わったはずだ。

 虎杖が順平の事件で負った痛みを話したければ、きっと伏黒は黙って聞いて、虎杖の想いを受け止めてくれる。

 釘崎は、原作中で悩みや苦しみを虎杖や伏黒に打ち明けてはいないけれど、もし釘崎が暗い顔をしていたら、優しい二人はすぐに気づいて一緒に美味しい物でも食べながら話を聞いて慰めてくれそうな気がする。

 八十八橋で壊相、血塗と戦った後、虎杖と釘崎が歩きながら話す場面で二人の関係性がわかる。

虎杖「釘崎、大丈夫か?」
  「初めてなんじゃねぇかと思って。祓ったんじゃなくて殺したの」
釘崎「私より、アンタの方、大丈夫じゃないでしょ」
虎杖「俺が殺した命の中に、涙はあったんだなって…それだけ」
釘崎「……そっか。じゃあ、共犯ね、私たち

 自分よりも相手の方が人を殺したことに傷ついているのではないかと心配し、労わり合う二人。

 この場面での釘崎のセリフ、「共犯ね」には感動した。


 アニメではこれから描かれる渋谷事変の後(ここは名場面中の名場面なのでアニメ化を楽しみにしている人は多いと思う)、虎杖・伏黒ファンの間では伝説となっている第143話では、自分の体を乗っ取った宿儺が大量殺人を犯したことを知った虎杖が、

「俺は人を殺した!! 俺のせいで大勢死んだんだぞ!!」

と自分を責めて苦しむ。
 ここで伏黒は

俺達のせいだ」

と罪すら虎杖と分かち合う。

「お前は悪くない」「お前のせいじゃない」と庇うこともできるけれど、罪を共有することが互いにとって最大の救いとなるのだと私はこの二つのシーンで感じた。

 虎杖、伏黒、釘崎は、喜びも悲しみも痛みも共有して支え合える関係なのだと思う。

 一方、さしすは、互いに信頼し合ってはいても、もっと個々が独立していて必要以上には干渉し合わないような気がする。

 一年ズよりも一学年上の高専二年生の時代が描かれていることを考えても、より大人びてみえる。

 三人とも仲がいいし、相手が頼ってきたら支えるけれど、自分からは相手の領域にズカズカ踏み込まず、むしろ過剰に干渉されることを嫌いそうな印象だ。

 私が一番違いを感じたのは、失敗や罪を共有しないところだ。

 天内理子が学校で呪詛師に襲撃され、黒井が誘拐された時、夏油は
「すまない。私のミスだ」と悟と理子に謝る。
 悟は、
「そうか? ミスってほどのミスでもねーだろ」と答え、傑を責めない。

 これは悟が傑を好きだから見せた優しさで、彼の性格を考えると傑以外の人間が同じことをしたら咎めるようも気がするが。

 何より決定的だったのは、伏黒甚爾に天内理子が殺されてしまい、盤星教の施設内で悟に抱えられた理子の遺体を見て落ち込む傑に、悟が

「俺がしくった。オマエは悪くない」

と言った場面だった。

 伏黒甚爾に天内理子を殺されてしまったのは、本来なら護衛を担当していた悟と傑二人の失敗だ。

 きっと、虎杖と伏黒ならば、罪を共に背負い、痛みを共有するだろう
 しかし、悟は傑に罪悪感を負わせまいとして、一人で罪を引き受ける

 悟にこう言われてしまうと、傑は素直に自分の罪悪感を吐き出せなくなる。

 理子の遺体を前に笑顔で拍手し続ける非術師たちへの憎しみや、非術師のために呪術師が命を懸けて戦うことの意味が揺らいでしまった不安や迷いを抑圧して胸の内にため込んでしまったが故に、この後、傑は苦しみ続けることになってしまう。
 
 最強になった悟や危険な任務で外に出ることのない硝子と別行動する時間が増え、孤独を深めていく傑の変化に、悟も硝子も少しは気づいていたのだろうが、それ以上傑の内面に踏み込まない。

 仲間があんなに痩せて暗い表情でいたら、虎杖、伏黒、釘崎なら、「お前一人で抱えるな」と問い詰め合いそうだなと思う。

 勿論、個別の性格の違いは大きくて、もともと呪術師とは何の関係もなく育った虎杖と禪院家の血筋とはいえ不憫な生い立ちの伏黒と、「俺たちは最強(の呪術師)なんだ」という自負がある悟と傑では、関係性や考え方が違って当然だと思う。

 悟は唯我独尊、我儘、やんちゃな五条家のお坊ちゃんで、傑は優等生でしっかりとした信念があって自分を曲げなさそう、硝子は根は暖かそうだけど、日ごろは少し離れたところから冷静に物事を眺めている。

 「さしす」には「一年ズ」と違った魅力があって、私はこの三人の個性も、少し距離を取り合う関係性も大好きだ。

 互いの痛みや弱みを露骨に晒し合わないことを悪いとは思わないが、「さしす」が傑の離反を止められなかった原因の一つではあるだろう。

 

虎杖×伏黒と夏油×五条


 虎杖は明るい人たらし、術式を持たず超人的な身体能力で戦う、伏黒は知的でクール、禪院家相伝の術式を持つ式神使い、陽と陰で対照的だが、二人とも根っこはとても優しい。

 お人好しの虎杖は言うに及ばず、「不平等に人を助ける」がモットーの伏黒も、出会ったばかりの虎杖や自分を騙した麗美でさえ身を挺して庇ってしまう。

 二人とも目の前で危機に陥っている人を放っておけない優しさと甘さがある。

 一方、五条と夏油はもっとシビアだろう。
 大切な人は何としても助けるけれど、目的のためなら犠牲を顧みないタイプだと思う。
 リーダーとしてはそういう厳しさは必要だし、決断にはある種の冷酷さが伴うものだ。

 虎杖と伏黒は、すごく純粋で優しい関係なのだと思う。
 私は腐女子なので、もちろん二次創作の同人誌をたくさん持っているのだけれど、どの虎伏を読んでも「可愛い!」と癒される。

 喜びも悲しみも痛みも、時に罪すら分かち合って、お互いを生きる意味、生きていく希望として大切に想い合う二人が大好きだ。

 現在、伏黒は宿儺に受肉され、浴と津美紀の死により深く沈んでしまったままな上、五条悟の無量空処を5回も肩代わりしているので、心身の無事が危ぶまれている。

 どんな形であれ、生き延びて、虎杖とともに明るい未来へ進んでほしい。


 少年院で虎杖の体が宿儺に乗っ取られた時、伏黒は責任を取って自らの手で宿儺ごと虎杖を殺す覚悟をしていたが、宿儺があまりにも強くてむしろ自分が死にかけた。

 最後は虎杖が自分の意志で肉体の主導権を取り戻し、そのまま命を落としたわけだが、この時伏黒はもしも宿儺より強かったならば虎杖を殺せたのだろうか。

 この先、(そんな展開は嫌だが)伏黒の体ごと宿儺を抹殺しなければならなくなったとしたら、虎杖は伏黒を殺せるだろうか。(今のところその役目は五条先生なのかもしれないが…)

 私は、きっとどちらもできないと思う。

 虎杖も伏黒も相手を殺すくらいなら自分が死んだ方がマシと考えそうだ。

 一方で、悟は傑を殺せた。

 高専時代、新宿で傑と決別する時にはできなかったことが、大人になった五条悟には成し得た。

 悟は傑を失った痛みも悲しみも、おそらく一人で抱え、乗り越えて、現代最強術師として孤高に生きている。

 生徒たちの前では、軽薄に見えるほど飄々とユーモラスたっぷりに振舞いながら、厳しい任務をこなし続けている。

 五条悟は本当に強い人間だと思う。

 
 出会った頃は、正論を説いて自分を諭す傑に反発していただろうが、この世で唯一対等に付き合い、共に戦うことができる相手だと認めてからは、きっと悟が傑に甘え、面倒なことは全部傑に投げて、わがままに過ごしていただろう。

 傑は「仕方がないな」と半ば呆れながらも、そんな悟を優しく世話していたに違いない。
 あの「五条悟」が自分だけに心を開いて懐いているという優越感と喜びもあったのではないだろうか。

 虎杖&伏黒と違って、悟と傑は殴り合いの喧嘩もしていただろうし、どちらもプライドが高くて意地っ張りだから、一旦拗れてしまうと、悟と傑の方が関係性の修復に時間がかかりそうだなと思う。
 そして、硝子は釘崎ほどには二人の仲に介入しない気がする。
 
 天内理子の事件後、悟は傑の抱える苦しみに気づくことなく術式を磨き続け、傑は非術師を見下す気持ちや術師として生きることへの迷いを悟に打ち明けられないまま、二人は決別してしまう。

 新宿の雑踏の中で別れてから十年後、夏油傑は百鬼夜行を計画し、乙骨に憑いた特級過呪怨霊・里香を手に入れるために戦い、敗れる。

 悟にとって傑は「たった一人の親友」であり続けたが、傑は最期に

「この世界では、私は心の底から笑えなかった」

と悟や硝子と過ごした青春時代の喜びまでも否定するような言葉を残す。
 
 そのまま受け取れば、傑は悟と一緒にいる時も心から楽しめていなかったように聞こえるが、私はそんなことはないと信じている。

 たとえこの世界のすべてを受け入れられなかったとしても、傑にとって悟と過ごした時間だけは特別だったはずだ。

「この世界では、私は心の底から笑えなかった」には≪きみと二人で最強だった頃を除いては≫という口には出せない本音が続いているのではないかと思った。
 
 傑は最期まで、悟に本当の気持ちを言えなかっただけで。
 
 悟の言葉を聞いて、「最期くらい呪いの言葉を吐けよ」と言った傑の笑顔を見た時に私はそう感じた。

 あの笑顔こそ、唯一無二の親友に向けられた傑の心そのものではないのかと。

 悟と傑のことを考えると、切なくてたまらない。
 どんな二次創作を読んでも、この胸の痛みは消えない。
 でも、このどうしようもないつらい別れがあるからこそ、悟と傑の青い春は永遠に眩しく輝くのだ。

やっぱり五条悟は最強の腐女子殺しだった


 本誌では五条悟VS宿儺の死闘が続いていて、毎週五条先生と恵の安否が気になって、ドキドキ、ハラハラしながら月曜日を迎えている。

 私は、もともと伏黒恵が最推しで人気投票も3票(紙2票、電子1票)を全て恵に捧げたが、アニメ「懐玉・玉折」を見て、かなり五条先生に心が傾いてしまった。

「呪術廻戦」を読み始める前は、カカシ先生ファンの私のことだから、きっと美貌で最強の五条先生を好きになるんだろうなと予想していたものの、五条先生があまりにも強すぎてハマれなかった。

 でも、アニメで高専時代のやんちゃ悟の魅力に完落ちし、自宅には日に日に五条先生グッズが増えていく。

 こんなにメジャーな作品をリアルタイムで追いかけるのは初めてなので、どんどん発売されるグッズや企画されるコラボの多さに驚いている。

 以前から五条先生を軸とした二次創作やグッズがとりわけ多いことは知っていて、「五条先生は人気なんだな~」とぼんやり眺めていたのだが、ついに私も悟ファンになってしまった。

 青い瞳をキュルキュルさせた悟のるかっぷを眺めながら、「やっぱり先生は、最強の腐女子殺しなんですね…」と納得した。

 アニメ「渋谷事変」も本誌も続きが楽しみで仕方ない。




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