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羽田空港の航空保安施設が支える快適な空の旅。安全運航の裏側にせまる

日本と世界を結ぶ玄関口である羽田空港。航空機を安全に飛ばすには様々な施設が存在します。今回はその中でも航空機の誘導に関わるアンテナを中心に、羽田空港の歴史と共に紹介します。国土交通省 東京航空局 東京空港事務所の次長を務める山根氏に、羽田空港の歴史や羽田空港の概要について、詳しくお話を伺いました。


羽田空港について知ろう

羽田空港は、東京空港事務所、行政機関、民間会社が連携をとりながら運営されています。

・東京空港事務所
東京空港事務所は国土交通省東京航空局の出先機関のひとつで、羽田空港の滑走路などの基盤施設の維持管理や、航空管制などを行っています。

・行政機関
羽田空港内には、関東地方整備局や東京税関、東京検疫所などの行政機関があります。

・民間会社
羽田空港の一部施設は、民間会社によって運営されています。たとえば、日本空港ビルデング株式会社は、羽田空港の旅客ターミナルビルや駐車場の管理運営業、物品販売業、飲食業を展開しています。

羽田空港の歴史(創業初期)

1931年
羽田空港の始まりは、1931年8月25日に逓信省航空局によって、初の国営民間航空専用飛行場として「東京飛行場」の名称で開港されました。

1945年
GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって強制的に接収されたあと、羽田一帯の土地はGHQの管理下に置かれ、周辺に住んでいた約1200世帯・3000人に対して、48時間以内の立ち退きが命じられました

1952年
サンフランシスコ講和条約が1951年に締結され、翌年の1952年7月に飛行場の大部分が日本に返還されると同時に、「東京国際空港」と改称し新たな歴史が始まりました。

1955年
羽田空港ターミナルは、1955年5月20日に開館しました。

詳細な歴史については、羽田空港の公式サイトをご覧ください。2031年にはJR羽田空港アクセス線が開通する予定で、さらなる利便性向上が期待されています。

羽田空港の利用者数や大きさなど

羽田空港では、2022年度の実績で1日あたり約1,132回の航空機が離着陸しています。羽田空港の運営には約10万人の職員が従事し、毎日約6万人が勤務しています。2022年度の総利用者数は5,987万人であり、1日あたり約16.4万人が羽田空港を利用しています。

羽田空港の敷地面積は1,515ヘクタールで、これは東京の渋谷区と同じくらいの大きさです。また、羽田空港がある大田区においては、この空港が区の総面積の約4分の1を占めているほど広大です。下記の図のように、東京都の地図に羽田空港を描き入れることで、そのスケールの大きさが実感できます。

羽田空港周辺の地図

安全に配慮した羽田空港の取り組み

2010年に整備された最新のD滑走路は、多摩川の河口に位置しています。多摩川の流れを阻害しないように、滑走路の半分は桟橋構造で、もう半分は埋立構造で構築されています。また、桟橋構造と埋立構造の接続部は地震の揺れを吸収する構造になっています。震度4以上の地震が発生すると、滑走路の確認を行いますが、これまでに地震で運用が停止したことはないそうです。

飛行経路の一部では、航空機による騒音問題を軽減するために、民家のない荒川上空を飛行しています。航空機の音は真下で強く感じられますが、荒川でその音が吸収されるため、荒川上空を経由する経路が採用されています。

羽田空港には東西南北に伸びる4本の滑走路があり、航空管制官は風向きに応じて臨機応変に離着陸する航空機を誘導しています。それにもかかわらず、離着陸の時間に大きな変動はほとんどなく、管制官の正確な指示と判断が確認されます。

航空機へ指示を届ける対空通信施設(A/G)

羽田空港の対空通信施設(Air to Ground Radio,略記:A/G)

対空通信施設(Air to Ground Radio、略記:A/G)は、地上と航空機間で通信を行うための施設です。主に空港に設置されるA/Gは、航空機の離発着時に、管制官が航空機に対して指示を与えるために使用するものです。

A/Gは、無線送信機(Radio Transmitter、略記:TX)と無線受信機(Radio Receiver、略記:RX)で構成されて電波の送受信を行います。航空機の飛行高度にもよりますが、約60NM(111.2km ※)の距離の送受信ができます。

※NM:Nautical Mile (ノーティカルマイル)。1NM=1,852m。

羽田空港の対空通信施設(Air to Ground Radio,略記:A/G)の全体像
A/G 全体像

近くに来ると見上げるほどで、およそビル6、7階ほどの高さがあることがわかります。アンテナから発する電波が障害物に当たらないように、高い位置にアンテナを設置します。頂上部分は見晴らしが良く、空港全体を見渡すことができます。

80NM以内の航空機を探知する空港監視レーダー(ASR)

羽田空港の80NM以内の航空機を探知する空港監視レーダー(Airport Surveillance Radar,略記:ASR)

空港監視レーダー(Airport Surveillance Radar、略記:ASR)は、空港から約80NM(148.2km)以内の航空機の位置などを探知する装置です。出発や進⼊する航空機の誘導や、航空機間の間隔設定などに使⽤されます。

大きなアンテナが一次レーダーで、上側にある長方形のアンテナが二次レーダーです。一次レーダーはアンテナから発信した電波が航空機に反射しアンテナに戻ってくるまでの時間から、航空機の位置を把握しています。二次レーダーは、航空機に質問信号を送り、航空機からの応答信号を受信することで、位置だけではなく航空機の飛行高度や便名の情報も取得しています。管制官はこれらの情報を用いて、航空機を監視し、航空機の誘導及び航空機相互間の間隔設定等を行っています。

羽田空港の80NM以内の航空機を探知する空港監視レーダー(Airport Surveillance Radar,略記:ASR)が設置されている建物

アンテナは通常、建物の上や屋根の上に設置されます。これは、高い位置に設置することで、周囲の障害物による影響を最小限に抑え、電波を効率的に送受信するためです。アンテナは4秒に1回転の速度で回っており、発信した電波が航空機に反射しアンテナに戻って来るまでの時間で航空機の位置を把握する仕組みになっています。

アンテナは基本的に24時間稼働しているため、定期点検の際には関係各所と調整を行い、アンテナの稼働を一時停止します。その後、モーターや歯車部分に油を差し、手動でアンテナを押して回転を確認するなど、力のいる作業が行われます。点検作業は主に夜間に行われるため、一般の方が目にする機会は滅多にありませんが、管理者によって安全が確保されています。

航空機が安全に着陸するための計器着陸装置(ILS)

羽田空港の航空機が安全に着陸するための計器着陸装置(Instrument Landing System,略記:ILS)

計器着陸装置(Instrument Landing System、略記:ILS)は、航空機が滑走路へ安全に着陸するための進入コースを電波で示す装置です。ILSを利⽤することで、⾬が降ったり霧が発⽣したりして視界が悪い状態でも安全に着陸することができます。

ILSには主にローカライザ(Localizer、略記:LOC)とグライドスロープ(Glide Slope、略記:GS)の2つの主要なアンテナがあります。

羽田空港にあるILSのローカライザ(Localizer、略記:LOC)部分
ローカライザ(LOC)を拡大した写真

ローカライザ(LOC)は、最終進⼊中の航空機に対して、電波により進入コース(水平方向)のガイダンスを行う装置です。羽田空港では、滑走路へ進入する航空機から見て滑走路の手前側に設置されているので、もしかしたら着陸する様子が機内の画面で映されていたら見えるかもしれませんね。

羽田空港のILSに電波を発生させるための装置
ILSに電波を発生させるための装置

この装置で発生させた電波を前述した赤いアンテナ部分までケーブルで伝達しています。電波を発生させるための装置と、赤いアンテナ部分までの距離は75mほどの距離です。

羽田空港のグライドスロープ(GS)
グライドスロープ(GS)

グライドスロープ(GS)は、最終進⼊中の航空機に対して、電波により進入コース(垂直方向)のガイダンスを行う装置です。滑走路の横に設置されており、離着陸する際に窓から見えるかもしれないので、次回航空機に乗ったら窓の外に注目して探してみてください。

羽田空港のグライドスロープ(GS)のアンテナ部分
グライドスロープ(GS)アンテナを拡大した写真

羽田空港のGSは、滑走路に対して3度の角度で航空機が進入できるように電波を発信しています。

航空機に方位と距離を伝える、超短波全方向式無線標識施設/距離情報提供装置(VOR/DME)

羽田空港の航空機に方位と距離を伝える超短波全方向式無線標識施設/距離情報提供装置(VOR/DME)

⾶⾏中の航空機に、⽅位情報と距離情報を電波で提供する装置です。航空機はVOR/DMEからの情報をもとに⾃⾝の⾶⾏位置を確認しながら正確なルートを⾶⾏できます。オレンジ色の部分がアンテナで、円形に48個並ぶように設置されています。直径30-40mほどある施設で、VOR/DMEは空港に1つのみ設置されています。

VOR(VHF Omnidirectional Radio Range:超短波全方向式無線標識施設)
DME(Distance Measuring Equipment:距離測定装置)
略記と正式名称は上記の通りで、VOR/DME(ボルデメ)と呼ばれています。

現役職員が語る航空保安施設の管理・運用の仕事

レーダーや無線施設、標識など航空保安施設の保守管理・運用を行い、航空機の安全運航を支えているのが、「航空管制技術官」です。今回は、現役で航空保安施設の管理・運用の仕事に従事している4名の方に話を伺いました。

航空管制技術官の仕事内容

航空管制技術官の仕事は多岐にわたり、お話を伺うなかでその重要さが伝わってきます。

「私たち航空管制技術官は、主に航空保安施設の管理、運用保守を担当しています。航空保安施設の整備や信頼性向上のための改修、離着陸を監視するレーダーや、管制官とパイロットのコミュニケーション用無線施設、滑走路の標識航空機のナビゲーション用の無線施設などを管理し、利用者の安全を最優先に考えています」

この仕事に就くためには、無線従事者の国家資格を取得したうえで国土交通省の研修と試験に合格する必要があります。合格して技能証明を取得すると、装置のメンテナンスが可能になります。装置はどこの空港でもほとんど同じなので、全国の空港どこでも働けるようになるそうです。

羽田空港には約70人の航空管制技術官が在籍し、うち約50人が24時間体制でシフト勤務に就いています。

昔は簡易的な電波誘導や目視による監視しかできなかったところから、現在では航空保安施設等の精度が上がり、信頼性が向上しているとのことです。

航空管制技術官のやりがい

航空管制技術官という仕事に就いたきっかけや、やりがいについてそれぞれ伺いました、

仕事に就いたきっかけ
・航空保安大学校に入り機器のメンテナンスをすることが好き
・資格(第一級陸上無線技術士)を活かす仕事に就きたい
・航空の安全に関わりたい

仕事のやりがい
・たくさんの利用者がいる大きな空港の下支えができていること
・綿密な計画を立てて定期メンテナンスをし、また何事もなく1日が始まることが喜び
・自分が航空機に乗るときに、航空機が安全に飛ぶためのサポートしていることを実感する

このように、貢献心の強い声ばかりで、羽田空港の安全を支える職員の一人として活躍されています。

一方で、「昼間は航空機が多く離発着するため、メンテナンスを実施するのは主に夜間になります。特に天候が悪いときや寒いときなどは大変ですね。また、高所での点検作業時は、常に安全管理を意識しながら緊張感をもって作業に従事しなければなりません」と辛い一面もあると話します。

航空管制技術官という仕事を初めて知った方もいるかもしれませんが、彼らが日々の安全を支えているおかげで、私たちは安全に航空機に乗ることができるのです。

安全な運航の支えが日本と海外を結ぶ

航空機が安全に運航される背景には、技術の進歩による航空保安施設の技術向上、
航空管制技術官による施設の緻密な管理・運用、羽田空港における利用者への細やかな配慮や工夫があります。これら複数の要素が組み合わさり、安全な飛行を実現しています。

羽田空港は海外からの訪日客を迎える玄関口であり、たくさんの人々が日本に来ることで羽田空港が活性化し、日本経済の活性にもつながります。

普段は見る機会の少ない航空機の運航の裏側に焦点を当てることで、新たな知識や視点を獲得することができたのではないでしょうか。空港を利用する際には、この新たな観点でご覧になってください。

羽田空港についてもっと知りたい方は下記のサイトもご覧ください。

羽田空港の歴史
https://tokyo-haneda.com/enjoy/history_of_haneda_airport/index.html

空の安全を守る ツバサノシゴト
https://www.mlit.go.jp/koku/jans/dogu/wireless.html

羽田のこれから
https://www.mlit.go.jp/koku/haneda/
飛行経路や騒音対策などが掲載されています。

はねだのハテナ?
https://hatena.tokyo-haneda.com/

航空保安大学校
https://www.cab.mlit.go.jp/asc/


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