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オリエンテーリングと視覚障害がある人のナビゲーションスキル

今年の夏、数年ぶりに友人と共にオリエンテーリングを楽しみました。私たちが歩いたのは、日本オリエンテーリング協会公認の6.5kmのパーマネントコースです。このコースは中世の山城跡とその周辺地域にわたり、10個の「コントロール」(通過すべき地点)が配置されています。使用した地図の縮尺は1:10000で、地図上の1cmが実際の100mを示しています。オリエンテーリングの地図は基本的には地形図であり、地名や道路名などの文字情報は含まず、主に地形や特徴物(例:道、川、建物)を表示しています。オリエンテーリングでは、地図とコンパスだけを頼りに、自分の位置を特定し、地図上に表示された「コントロール」を順に巡ります。道路沿いや交差点にあるコントロールは見つけやすいのですが、それ以外の場所、例えば開けた土地にあるコントロールを探索する際には、より精密なナビゲーションが必要となります。

オリエンテーリングの用語と、視覚障害がある人のオリエンテーションで使用される用語には、類似点がいくつかあります。例えば、「ハンドレール」(hand rail)は、進路維持のための線状の特徴物を指しますが、これは視覚障害がある人のオリエンテーションで使用されるガイドライン(guideline)やショアライン(shoreline)とほぼ同じ意味を持ちます。また、目的地に向かって直進する際に生じる進路のずれを見越して敢えて目的地をずらす「的外し」(aiming off)は、視覚障害がある人が道路を横断する際に、12時方向の目的地を目指す時に、意図的に11時の方向を目指す戦略と似ています。さらに、自身の位置を見失った際に現在地を再確認する「リロケーション」(relocation)は、視覚障害がある人が気づかないうちに道を外れたあとの「経路復帰」(recovery)と同じ考え方です。

近年、視覚障害者向けのナビアプリの開発が盛んに行われています。これらのアプリは多くがGPSを用いて位置情報を取得しますが、その精度は約5m以内です。目的地の大まかな方向や位置の確認は可能ですが、交差点などの狭い空間での詳細なナビゲーションには限界があります。視覚障害がある人の街歩きには、頭の中の内的な地図とナビゲーションスキルが重要です。

文:清水美知子

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