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ミネソタ 2016年 初夏 iPad MNREAD-J 始動

調べてみると、それは6月22日だった。この日も他の日と同じように、ボストンにいるプログラマのロンとメールで連絡をとりながら開発をしていた。夕方になったのでミネソタ大学のオフィスから学生アパートに戻ってきて、シャワーを浴び、ロンから送られてきた改良後のプログラムをテスト用iPadにインストールして動かしてみた。おお!ついに、日本語のテスト文がちゃんと表示されて、一通りの検査ができた!

当時お気に入りのシカゴの生ビールGoose IPAのボトルを開けて、自室の机で祝杯をあげているのがこの写真だ。

2016年は大学から研究休暇をもらえたので、ミネソタ大学のロービジョン研究室にやっかいになり、ゴードン・レッグ教授とMNREADという読書検査のiPadアプリの日本語版の共同開発をすることにした。5月にはフロリダで開かれたVSSという視覚研究の国際会議に出席して、4名の院生たちと発表して、ついでにユニバーサルスタジオでハリーポッターのアトラクションを堪能した。その後院生をつれてミネソタへ移動し、ミネソタ大学のロービジョン研究室のポスドクや院生たちと交流させてもらった。院生たちは日本に帰国し、僕は残ってiPadアプリの開発した。

当時、本家MNREADの英語版アプリはすでに完成間近な状況だった。日本語のアプリについてはどうやって開発するかを、レッグ教授と毎週相談した。日本語以外の言語のアプリについては英語のアプリがあれば、あとはテスト文を入れ替えて、表示メッセージを変更すればできてしまう。しかし、日本語はそうはいかなかった。文字がそもそも正しく表示できなかった。日本語版MNREADで使っている平成明朝体は、フォントを追加インストールすることなしにはiPadで表示できなかった。レッグ教授の開発ポリシーは、iPadアプリの最初のバージョンは現在印刷版で提供しているMNREADをできるだけ忠実に再現するというものだった。

日本語のアプリを英語版と全く別のアプリとして作るか、イタリア語やポルトガル語などと同じように英語版に言語オプションの1つとして組み込むか、しばらく議論を続けた。僕の主張は一貫して、他の言語と同じように言語オプションの1つに加えて欲しいというものだった。日本語だけ別アプリになると、バージョンアップを一緒にしてもらえなくて、どうしてもメンテナンスが後回しになる。英語と他のローマ字語圏のアプリはいつも最新なのに、日本語アプリはしばらく放置されて、最悪の場合はサービス打ち切りになることが危惧された。しかし、英語のアプリと一緒に使える1つの言語オプションとして提供するとなると、英語アプリの本体を日本語も表示できるように作り替える必要がある。これは完成間近な英語アプリの開発を複雑にするので、リリースが遅延する。レッグ教授が躊躇したのはこれが理由だったと思う。

日本語版を開発できれば、それを基盤にして中国語や韓国語などのアジア圏の言語にも対応できるようになるはずだということを売り込んで開発に前向きになってもらった。

結局、プロトタイプの開発は、日本語テキスト表示を可能にするような根本的な改訂はせず、日本語アプリはテスト文を画像として表示することで解決することにした。こうすると、平成明朝体という有償フォントをiPadにインストールしなくても良くなり、フォントのライセンスの問題も解決した。僕がミネソタ大学に滞在できるのはだいたい4ヶ月しかなかったので、この短い間に実用になるアプリを開発するという目的を達成するためにもこの方法が最善策だった。この方法でプロトタイプを開発し始めてだいたい1ヶ月。ともかく動くものができたのが6月22日の夕方だった。

文:小田浩一

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