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ブラオケ的ジャズ名曲名盤紹介 ~これを聴け~ #13 Pat Metheny Group “Still Life ~talking~” “First Circle”“Secret Story“

0.はじめに

前回も期間が空いてしまったが、またしても、ジャズ編がだいぶご無沙汰になってしまった。
皆さんは素敵な音楽やジャズに出会えているだろうか?

さて、筆者は久しぶりに東京・青山にあるBlue Note Tokyoに行く機会があった。
久しぶりにジャズにどっぷりと浸る場所を訪れた理由は、私の尊敬してやまないアーティスト、Pat Methenyの演奏を聴くためだ。

2024年1月〜2月に行われた公演。一つはベーシストロン・カーター、ドラマージョー・ダイソンとの共演。もう一つはソロであった。

クラリネットやサックスを演奏する私だが、好きなジャズ・ミュージシャンは誰ですか?」と聞かれたら、Pat Methenyと答えるだろう。

初めてPat Methenyの音楽に出会ったのは学生時代、ビッグバンドジャズサークルに所属していた頃の同期から教わった。
その頃はまだカウントベイシー(「これを聴け #1」を是非見ていただきたい)やサックスプレイヤーを聴きあさっていたので、正直他の楽器のプレイヤーまで聴いていなかった。
そんな時に彼はいつも全く違う楽器のプレイヤーや、スウィングやビバップとは異なるジャズを紹介してくれた。

ある日、狭い部室で彼がいきなり「この演奏、かっこいいよね」とあるYouTubeの映像を見せてくれた。

この映像を見た時、まさに「稲妻が走った」のである。

何に感動したか。フレージングのかっこよさ、グルーヴ感、そして何よりこの音楽の世界観である。
スウィングともフュージョンともラテンとも違う、彼独自の世界観の中で、まるで交響曲のように場面が移り変わっていく。ギターだけでなくピアノ、ベース、ドラム、パーカッション、ボーカル、全ての楽器が調和して生み出される音楽。
これを聴いた後からはずっと彼の音楽が大好きで仕方がない。まさに「世界が変わった瞬間」であった。

あまり長々と昔話をしても仕方がないので、Pat Methenyの紹介に移ろう。

1.Pat MethenyとPat Metheny Groupについて

Pat Metheny (パット・メセニー 1954-)は、アメリカ人ギタリスト。
1972年に、ヴィブラフォン奏者のGary Burton (ゲイリー・バートン 1943-)にその才能を認められ、18歳にしてジャズの名門バークリー音楽大学の講師を務めるなど、若いうちからその才能は凄まじいものであったようだ。
1974年に、若き日の天才ベーシストJaco Pastorius(ジャコ・パストリアス 1951-1987)と『Bright Size Life』をリリースしている。

その後1977年にピアニストのLyle Mays(ライル・メイズ 1953-2020)などとともにPat Metheny Groupを結成。色々なメンバーやゲストを迎えながら、様々な音楽を生み出している。

個人での活動も活発で、ピアニストのChick Corea,矢野顕子,Brad Mehldauなどともコラボレーションしている。

グラミー賞にも個人で8作品、グループでは10作品ノミネートされるなど、その実力は世界が認めている。

最近では若手とのコラボレーションにも力をいれており、「Side-Eye Project」と銘打って、様々なアーティストと演奏を行っている。2021年に『Side Eye NYC V1.IV』を発表した。

さらには、2023年に彼自身の過去の録音を元に改めてレコーディングをしなおした『Dream Box』をリリースしている。

2.名盤紹介①『Still Life (Talking)』

オススメの一枚をここまで悩むアーティストはそういないのだが、大好きすぎるがあまり、今回は正直かなり悩んだ。
メセニーの作品はどのアルバムも非常に高い完成度でそれぞれに特徴のある世界観があるからだ。
個人的なベストを挙げさせてもらうとするならば、この『Still Life (talking)』になる。

全曲好きなのだが、やはり個人的には紹介してもらった『Third Wind』が思い出に残る一曲である。

風の如く吹き抜けるかのようなイントロから始まり、疾走感のあるテーマが続く。ボーカルと重なっていることで、より原初的なものに仕上がっているのだろう。
ソロに入るためのブレイク(ベースやドラムの音を止めるところ)のフレーズは次に繋げる力がとても強い。
ソロもメセニーのテクニックが遺憾無く発揮された素晴らしいもの。
ソロが明けるとシロフォンのつなぎで雰囲気が変わり、特徴的なベースラインの上でボーカルとギターとキーボード、ティンバレスが呼応しあう。
ホイッスルの音と共にまた世界が変わる。次はピアノとドラムスが世界の軸を作る。その上でギターとボーカルがエンディングに向けて新しい主題を演奏する。途中からはメセニーのソロに変わる。フレーズと共に盛り上がりを見せ、大団円的なエンディングを
迎える。こんなシンフォニックな広がりを見せるのは、メセニーとライル・メイルズの成せる技なのだろう。

『Last Train Home』も面白い。

常に電車が走っているかのようなブラシのリズムの上を優雅なテーマが駆け抜けていく。この曲は『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディングにも採用された実績があり、もしかすると有名な曲かもしれない。

『Minuano』がアルバム1曲目というのも非常に痺れる。

冒頭から深遠な雰囲気で始まり、そこが明けると爽快感のある雰囲気が一気に広がる。
ソロ明けはパーカッシブなピアノとパーカッションの上でベースや低音シンセが広がりを見せていく。
これこそメセニーワールドだ!と言わんばかりの名曲である。

3.名盤紹介②『First Circle』

2枚目にご紹介するのは、1枚目とどちらをベストにしようか悩んだ『First Circle』。

アルバム内個人的ベストはアルバムタイトルにもなっている『The First Circle』。

この曲も交響曲のような場面展開が起こる。

一番始めの特徴的な手拍子とピアノ&ボーカルのリズム、何拍子かお分かりだろうか?音楽に自信がある人は是非確かめてみてほしい。ヒントは「細かく分けようとしない」ことである。
もう一つお題を。手拍子は表拍で取っているだろうか、それとも裏拍でとっているだろうか?
冒頭だけ聴いていても難しいかもしれない。ヒントはピアノのフレーズとの掛け合い。後に続く音楽として手拍子とピアノ、どちらが表拍になるだろうか?これはもしかすると吹奏楽畑の皆さんにもリズム感を養う良いトレーニングになるかもしれない。是非聴いて、グルーヴを感じて、答えが分かったらコメントしてほしい。

4.名盤紹介③『Secret Story』

このアルバムは非常に色々な世界観が織り混ざっている。一枚フルで聴き通すと、まるで一つの人生を歩んだかのような気持ちにさせてくれる。カンボジア音楽、東ヨーロッパ音楽などのワールドミュージックを要素を含んだ曲から、ストリングスの曲まで本当にメセニーの音楽の世界の広さを実感できる。
『As a Flower Blossoms』は、日本のレジェンドピアニストの一人である矢野顕子氏の共作クレジット。

個人的にかなり好きな曲は『Tell Her You Saw Me』。

ストリングスを背景にしっとりと弾くギターのメロディーは、「(別れた)彼女に、君が私と会ったことを伝えてくれ」と題されたように、切なさや儚さが存分に現れている。
終盤の音階のトレモロで上がるところはまさに切なさの高ぶりがそのまま表されたようで、聴いていて胸がキュッとなる。
ただ、悲しみだけで押し通すのではなく、どことなく希望というか、癒しのようなものも感じ取れるのが彼の世界の力なのだろう。
ここから次のトラック『Not Be Fogotten(Our Final Hour)』に繋がるところも素晴らしい。

4.Metropole Orkestとのコラボレーション

2.と3.でご紹介したオススメ曲『Third Wind』と『First Circle』には、面白いアレンジが存在する。
それが、オランダのポップス/ジャズオーケストラ、Metropole Orkestとコラボレーションした演奏である。
「オーケストラ+ビッグバンド」というユニークな編成のオーケストラである。
このオーケストラの紹介もしたいが、また今後の回で。

シンフォニックな雰囲気でもしっかり彼の音楽の世界観は現在である。
むしろ、ビッグバンドだけではなかなかこの深みは出せない。まさにこのオーケストラだから出来た技である。
個人的には、ボーカルをしっかり組み込んでくれたのが嬉しい。彼の世界観にボーカルは欠かせないと思っている。

吹奏楽団のメンバーとして、この曲は何とか吹奏楽アレンジをして取り組みたい、「人生で一度はやりたい曲」である。
どうやらブラオケには「人生で一度はやりたい曲」を叶えてくれる夢のような機会があるとか・・・?
気になる貴方は、是非ブラオケの紹介ページを見てみてほしい。

5.おわりに

最後に、最初に書いたPat Methenyを紹介してくれた同期は、決まって「ときめく音楽」を追求していた。
音楽を紹介してくれるときは「かっこいい」「上手い」だけでなく、「ときめくよね」という表現を使っていた。
私も今となっては「ときめくか」というのが音楽を評価する軸の一つになっている。

今もどこかで頑張っている同期へ。
あの時Pat Methenyの動画を教えてくれてありがとう。
Pat Methenyの音楽は間違いなく「ときめく」音楽です。

(文:もっちー)

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