「サラリーマンM&A」

しばらく前から「サラリーマンでもできるM&A」といったサービスが話題である。興味半分で筆者もM&Aプラットフォームに登録して会社を探してみたが色々と面白かったので備忘録的に所感を述べる。

ある主要プラットフォームの一つに登録してみたが募集件数は2,000件超であり、思ったよりも多い印象であった。登録されている案件の希望売却時期もそれなりに直近のものが多かったのでそれなりのペースで入れ替わっていると推測される。希望売却額も最小で300万円ほど、高いのだと数億円とそれなりの幅があったのも面白かった。

一方で登録されている事業の種類はやはりかなり偏っており、特に金額の小さいものだと飲食店、エステ・サロン、調剤薬局などの店舗型ビジネスが中心であり、変わり種だとYouTubeチャネルやインターネットサイトなどもあった。もともと店舗型ビジネスは事業単位が店舗であるために小型M&Aに向いていることに加えて、やはり昨今の事業環境で業績が低迷し売却をしたいオーナーが増えていることはあるのだろう。製造業や商社などもあったが、希望売却額は最低でも数千万円台が大半であり個人で買収するにはややハードルが高いものが多い印象である。

当たり前ではあるが数百万円の事業の大半は赤字であり黒字の事業はほとんどなかったがそれでもいくつかは存在はしていたので、試しに関東近郊の売上高3,000万円程度、営業黒字、希望売却額が300万円の会社の売主にプラットフォーム上で買収意向がある旨を伝えてみた。ボタンを押してみると直ぐに売主に付いている最近何かと話題の大手M&A仲介会社の担当者からメールで連絡があり、会社名(プラットフォーム上では固有名詞は出ていない)、事業概要・詳細、今後のプロセス、そして詳細を電話で話したい旨の返信があった。添付資料は15MB超で会社概要だけでなく、財務諸表、月次の損益やコストの内訳、DDのQAシートなどがあり、思ったよりもかなりまとまっている印象ではあった。筆者が関心を持った調剤薬局に関しては直近年度までは黒字てあったもののコロナ後は毎年60万円程度の赤字であり、また引き継ぐ借入金も1,000万円程度あり思ったほどは魅力的ではなかった。また調剤薬局を運営する上では必須の薬剤師は一人、その他にスタッフが二名、事業とともに買主に移管される予定とは書いてはあったものの、ここにはかなりのリスクがあるように思えた。この薬剤師もなんらかの事情で辞めるかもしれないし、また少し穿った見方をすれば地域で何店舗か調剤薬局を運営している売主が将来、引き抜く裏約束をしているかもしれず、この薬剤師を失ったら事業運営ができなくなるために人材面はかなりリスクがありそうな印象ではあった。

また仲介業者からの連絡の際に、売主の希望売却額は300万円程度ではあったものの、仲介手数料が500万円別途発生するとのことであった。この仲介業者は当然売主からも手数料を取るために、おそらくは本件が成立すれば1,000万円程の収入があるのではないかと推測される。(つまり売主からすると売却額から手数料を引けばほぼタダかお金を払って事業を売却していると見られる。)この仲介業者のメールの文面、スピード感、直ぐに電話をしたがる姿勢などは、印象としては以前に賃貸物件を探すときにお世話になった新興の不動産賃貸仲介会社とかなり似ているように思えた。ビジネスモデルや事業特性に鑑みても似るのは自然なことかもしれない。

本件に関しては買収価格は300万円であったとしても、手数料で500万円が掛かり、毎月60万円の赤字があり、借入金や不動産賃貸の契約も引き継ぎ、さらに人材リスクを考慮すると、とても「サラリーマンオーナー」には手を出せない(出すべきでない)案件であり、やはりそうそう美味しい案件はないということを改めて認識させられた。

正直なところ、おそらくはサイトの大半は手を出したら大火傷する案件であり、とても勤め人には向いていないものばかりであるようには思えた。また数千件に一件くらい存在するかもしれない案件に関しても、単なる株主ではなくオーナー兼経営者として参画しなければまずうまくいかないと考えられる点もサラリーマンにはとても向いていない印象である。

一方でもしもオーナー兼経営者として参画する意思があれば、もしかしたら筋がいい案件もある可能性はあると思っている。事業そのものは悪くはないものの事業継承で困っているオーナー兼経営者がいたとするならば、(人伝てでも買い手候補は探すにせよ)結局のところはこのような仲介業者とプラットフォームにも頼ることになるのではないかと推測される。というのも他に選択肢がないのではないかと思われる。もしそうであればオーナー兼経営者として参画する意思があるのであれば、数千件に一件くらいは面白い案件は見つかるかもしれない。逆を言えばそうでない限りは、勤め人は手を出すべきではないように印象ではある。

M&Aプラットフォームを実際に試してみて、そのようなことを思った。

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