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小津安二郎の『お早よう』を見た感想(2023/2/4の日記)

小津安二郎の『お早よう』を見た。

小津映画は『東京物語』と『秋刀魚の味』を見たことがあり、これで3本目。今回見た『お早よう』も今まで見た2作品と同じように独特の雰囲気がある作品だった。

小津映画らしくやたらと描写がリアル。近所づきあいの嫌さ見たいなものをじっとりと描いてくる。この生々しさがとても面白い。人間を過剰にキャラクターとして描いていないというかそういう生の感じをそのまま見せてくる感じがとても良い。

この「そのまま見せてくる」というのは単純に現実をそのまま映しているわけじゃなくてそれが感じられるように映画として演出しているという感じ。こういう素朴な感じは他の映画ではなかなか見られないと思う。

『お早よう』で一番リアルだと思ったのは近所の人が電気洗濯機を買ったという話をしている場面での「だってアレ月賦だって言ってたじゃない?」というセリフだ。地味な場面だけどこういうところは結構好き。勝手な結び付けだけど、このリアル感ってシャニマスにも似てる気がする。どちらも妙なところでリアルさがある。

あとこの映画見てて思ったけど思ったより見やすい。小津映画すべてにいえることだと思うけど激しく動くカットがそんなにない。これは自分の話なので他の人に共通しないと思うけど、最近は年を取ったせいか激しいカットがある作品だと非常に疲れる。なので小津映画みたいな感じだとゆったりと見れるなーと思った。

この映画で一番良いと思うキャラは杉村春子が演じる原口きく江という人物だ。良いといっても近所のうわさ話をしたりと嫌なキャラだけどその嫌さ加減が非常に良いと思う。

自分の母親を頼りにしている部分があるのにちょっとミスを犯すと相当辛辣になったり、被害妄想が強かったりと普通に最悪なキャラではある。ただそういう嫌さが「こういう人いる~」となるので面白い。いくら時代が変わってもこういう嫌なおばさんはあるあるなんだなーと思わされる。

こういうキャラって普通は最初は悪いけどあとでちょっとはいいことをするみたいな感じになることが多いけどこのおばさんに関してはそんなことはなく最後まで普通に嫌な感じで終わる。後味は悪いけどこういう感じもリアルで面白いなーと思う。

ここまで書いた感想を読むと「この映画は嫌な人間関係を描いただけの映画なの?」と思う人もいるかもしれないけど、そんなことはない。最後まで見ると普通に感動できる。

自分が感動したポイントは最後に近所の男女同士が天気の会話をする場面である。ここではインターネットでやたらと揶揄されている典型的な天気デッキで会話をしているんだけどこの場面が本当に微笑ましくて良い。

ほとんど内容のない無駄な会話だけどコミュニケーション的にはうまく作用していて2人の中が深まっていく感じが伝わってくる。この映画はこういった無駄なコミュニケーションが実は重要なんだということを描いている映画なんじゃないかと感じた。

両親に説教されて誰とも口をきかないという兄弟が出てくるけど、その兄弟が近所のおばさんに挨拶をしないことによって人間関係にほころびが見え始めたりする。この作品ではそういう風に挨拶というテンプレ的なコミュニケーションをしない場合には人間関係がうまく作用していかないということも描かれていてこのあたりの洞察が面白いと思う。

あまり考えたことがなかったけど挨拶って大事だなーと思わされた作品だった。普通に良い映画だったのでオススメ。

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