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サマーウォーズからみる匿名世界



サマーウォーズとは

「よろしくお願いしまぁす!!!」
テレビで流れればみんなが釘付けになり、一緒に叫びたくなるこのセリフ。
細田守監督の「サマーウォーズ」のセリフです。
サマーウォーズとは2009年に公開されたアニメ映画で、細田守監督作品の中でも、ひときわ人気の高い作品です。
主人公は高校生の男の子。
美人な先輩に誘われ、彼女の実家で婚約者のフリをしますが、待っていたのは大家族。
しゃきしゃきしたおばあちゃんが一家を取り仕切っています。
その夜、謎の暗号メールを受け取った主人公は、解読に成功。
しかし次の日、アバターたちを使った仮想世界が大混乱。
一家とともに、その危機に立ち向かう!というストーリーです。
まさに青春、といったストーリーで、ラブストーリーとして見られるだけでなく、スリルたっぷり、家族愛まで楽しめちゃう素敵な映画です。
沢山の登場人物、そして固有名詞が出てくるのがこの映画です。
(ここから先、ネタバレを含みます)

サマーウォーズの固有名詞

たくさんのキーワードが散りばめられたこの映画には、固有名詞がたくさん登場します。
例えば、高校生男子と美人な先輩。
そして大家族、おばあちゃん、後々明かされる自衛官であるおじさんや、警視総監とのつながり。
誰もが知っていて、かつ想像しやすいものをワードとして散りばめています。
彼らはキャラクターとして名前がついているものの、私たちはその固有名詞からキャラクターの内面を想像します。
例えば高校生男子といえば思春期真っ只中、恋に恋するお年頃なんだろうな、とか美人な先輩といえば少し勝ち気で年下を引っ張るようなぐいぐいくる部分があるのかな、など。
自衛官は精悍な男の人を想像するし、大家族のおばあちゃんといえばしっかりものの優しいひとを想像します。
彼らの固有名詞が、その人を表すネームになり、キャラクターとしての地位を確立しているのです。

彼らは普遍化された存在であり、古くからある「ボーイミーツガール」を中心とした物語の登場人物です。
キャラクターの名前よりも、その人を表す固有名詞で想像するひとが多いことで、ストーリーに色が生まれてくるのです。
サマーウォーズで重要な人物のひとり、侘助は名前が変わっていて確かに覚えやすいのですが、それよりもヒロインの初恋相手として、スーパーソフトの開発者として覚えている方も多いのではないでしょうか?
ヒロインの初恋相手といえば、幼なじみか年上の人が相場。
年上となってくると、ダンディで大人な魅力を感じる人物だろうな、と想像できます。
彼は実際、とても人気のあるキャラクターで、検索でも「カッコいい」と並列になっています。
そういった、想像しやすい固有名詞たちが物語を作ることによって、私たちはどんどんこの物語に引き込まれていきます。

普遍化されたストーリー


普遍化された存在、という点にもう少し焦点を当ててみましょう。
キャラクターにはお母さん、お父さん、姉、妹、弟、など固有名詞があります。
そういった肩書きからキャラクターを想像することは、容易いことです。
なぜなら私たちは現実世界の父や母を知っていて、それぞれの中にすでに人物像ができているからなのです。
固有名詞は既に私たちによってキャラづけされているといえ、そういった無意識のうちのイメージが物語より先に先行します。
だから、そのイメージと違う人物が出てきたときに「裏切られた!」「びっくりした!」といった感想が出てくるのです。
サマーウォーズには裏切りの登場人物はあまりでてきません。
どちらかというと、世界の危機に一致団結し、協力し合う、といった面が大きいです。
もちろん裏切りとして、おばあちゃんが実は思っていたよりもすごい人物だった、とかOZで大活躍するキャラクター「キングカズマ」を操作するのは実は13歳だった、など、肉付けの部分での裏切りは存在しますが、そもそものキャラクターの裏切りはほとんど存在しません。
彼らは私たちのイメージとともに行動し、イメージ通りの動きをしてくれることで、期待に応えてくれます。
古くからある普遍化された成功までのストーリーが、固有名詞として先行するイメージの中、活躍してくれる。
だからこそ私たちにはこの物語がなじみがよく、多くの人気を獲得したのだと言えると思います。

ここまでの話はすなわち、ハンドルネームと同じ意味を持つと言えます。
ハンドルネームでは、その名前からイメージが先行し、例えば女性のような名前であれば女性を、男性のような名前であれば男性を想像します。
サマーウォーズも同じく、彼らの固有名詞がキャラクターのハンドルネームになり、観客はその固有名詞から想像されるキャラクターを当てはめていくのです。
これはある意味、個人個人の名前ではなく固有名詞のみで判断する匿名世界とも言えます。
普遍化された物語であるからこそ、肩書きのみの登場だけで人々の想像を膨らませることができるのです。
物語の後半で登場する、アメリカ軍や警視総監などはその最たるもので、彼らに焦点を合わせずとも、その固有名詞だけでどんな人物たちか想像ができるのです。

昔話では、登場するのはおじいさんやおばあさん、お姫さまや王子さまなど、名前のない人々が登場します。
匿名の誰か、だからこそ感情移入がしやすく、自分自身の理想を投影したり、自分と物語を重ねたりすることができます。
グリム童話などもそうですし、古くからある変わらない物語では個人の名前の必要性がありません。
そういった部分をうまく活用したのが、サマーウォーズの物語と言えるでしょう。

「OZ」のアバター世界

もっと分かりやすい例がサマーウォーズにはあります。
それは「OZ」のアバター世界です。
この映画では「OZ」と呼ばれる仮想世界を中心にバトルが描かれており、そこに登場する人々はみな可愛らしいキャラクターで、匿名のアバターです。
自由なアバターを作り、そのキャラクターで世界を旅する。
ゲームに興じてみたり、職業についている人はその職業と同じ権限を持てるので、仕事をしてみたり。
みんなと気軽につながり、顔の見えない世界でも話ができる。
そういった分かりやすい匿名世界も描かれています。

物語のラストで、ヒロインがゲームを通じて闘うシーンがあるのですが、そのシーンでは賭けをしなければ戦えず、家族だけのアバターでは底がついてしまいます。
その時、ある少年が「僕のアバターを使って」と登場するのです。
それを皮切りに、世界中のアバターを持つ匿名の人々が、私のアバターも使って!世界を救って!と自分のアバターをヒロインに差し出します。
これは匿名世界のつながりを表す、感動的な例です。
彼らはもちろん言語も違い、現実世界では知り合いですらありません。
ただ、ネットの中では国籍も年齢も性別も関係なく、皆が対等であるからこそ、皆平等に価値が重い。
そのアバターを持ち寄ることで、大きな力となり、戦うことができる。
匿名の世界だからこそ、相手が誰か知らなくても、その人の頑張りや功績だけに目が向けられる。
ヒロインが頑張る姿に胸打たれた人々は、どんな人か知らなくても協力したいと思ったのです。

まとめ

こういった匿名世界を描いてきたサマーウォーズは、今も大人気で、金曜ロードショーなどで放映されるたびに話題になっています。
今現在、公開されている同じく細田守監督作品の「竜とそばかすの姫」もヒットしており、この作品にもサマーウォーズと同じアバター世界「OZ」が登場しています。
竜とそばかすの姫では、匿名で歌声を披露する女の子が主人公となっており、さらに匿名のネット世界に入り込んだ映画となっているようです。
細田守監督は、一貫して匿名のネット世界をポジティブに描いています。
もちろん絶えない誹謗中傷など、ネガティブな部分はありますが、それを踏まえてありあまるほど、匿名世界にはポジティブなところが溢れています。
現代社会にもつながる、匿名世界を知るのに細田守監督作品はかかせません。
今まで観たことがないという人はもちろん、観たことがある人もこれを機会に見直してみてください。
新たな発見があるかもしれません。

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