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きれいな花とトゲと小さな手

ばぁばの家の玄関の前に、ちいさな赤いバラが咲いた。
5歳の息子はお花をみつけて迷うことなく素手でブチッとちぎった。
その瞬間びっくりして手を開く。
ばぁばが「ダメー!」と言ったが間に合わなかった。
バラにトゲがあることを知らなかったのだ。


「手が痛いっちゃない?」と聞くと、「痛くない!」と言い張る。
少し強引に小さな右手をつかんで、手のひらを開いてみたが見た感じは大丈夫そう。
息子は機嫌をそこねて車の方へ走っていった。
そして、自分でスライドドアを開けチャイルドシートへ乗り込んだ。
早く帰ってしまいたいという感じだった。


夜寝る前に、ゴロゴロしながら息子が言った。
「今日ばぁばに怒られてイヤだった」
バラのことだ。
「あれはね、あぶないよ!ってことやったとよ」
さっきまで、危険生物の図鑑を一緒に読んでいた。
生き物が毒をもつのは身を守るため。
バラのトゲもそうかもね、と話した。

「もしかして、ママにお花をとってくれようとしたと?」
息子はあっちを向いたまま「うん」と言った。
「かわいいお花やったもんね」
「うん」
いつもかわいいお花をみつけるとわたしにくれるのだ。
「ありがとうね、ママにお花くれようとした気持ちだけでうれしい」と説明した。
「?」がうかんだ顔をする息子の頭をなでなでした。

ショックだったのかもしれない。
ママを喜ばせようとしたのに、怒られたみたいになったことが。
キレイなお花なのに、痛いトゲがあるということが。
ずっと胸にチクチクしていて、寝る前になってやっと話せたのだろう。

こうやって肌で感じて、心で感じて、いろんなことを知っていくのかな。

まだまだ小さくてふわふわな息子の手が、少しずつ大きくなっていくのをわたしは見守るしかない。

今日みたいに話してくれれば、ママはせめてチクチクしたことを知っていることができる。

見守るというのは知っているということなのだろうか。


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