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成仏と希望

2023年10月21日の、感動的、そして歴史的コント賞レース、「キングオブコント2023」が幕を閉じてしまった。

「おい!ラブレターズとゼンモンキーがこの点数なんておかしいやんけ!」
「おい!ジグザグジギーのあの最高ネタについての誉め言葉が少ないぞ!」

と、酒に溺れた嫌な野球観戦おじさんのヤジ(実際キングオブコント見ながら酒は入れてました。すいません)みたいな文句は飛ばしたりしましたが、全組面白いし、滑ったみたいな時間を一秒も感じなかったし、審査員の方々が口を揃えて言うくらい過去最高の審査の難しい大会だった、今回のキングオブコント。

今回もコント中のパンチラインや名台詞、浜田雅功の暴走とたくさんの名場面もありつつ、やはり語るのに外せないのが「ブッ飛んだ設定や内容のネタの躍進」という所感が残る。
これも伝説として名高い「キングオブコント2021」では、男性ブランコの「ボトルメール」やうるとらブギーズの「迷子センター」、ジェラードンの「角刈りの妹」ネタなど、誰かへの「愛」がテーマとなったすごく面白くも美しい感情が交錯する感動的な戦いだったのに対し、今回のキングオブコントでは暴力、うんち、臓器、スタンガンに手りゅう弾に地雷、全裸土下座、パワハラ、喧嘩、隣人との騒音トラブル暴行と、なかなかのパンチが効いた内容が闊歩し、今までとは訳が違うスケールとレベルの戦いになっていた。色んな審査員の方が言っていたように、これまでの戦いでなら優勝してても何にもおかしくないネタや点数が、1点の差で敗退していく戦い。手に汗握るとはこういうことだと、3時間ドキドキしっぱなしの戦いでした。

―――いかんいかん、言いたかったことはこんな評論家みたいな総括じゃなくて、今回のこの僅差僅差が続く感動的大会を、1stステージファイナルステージともにぶっちぎりの点数で駆け抜けた歴代大会最年長ファイナリストであり、最年長チャンプであるサルゴリラへの思いと、私がとりあえず見ていたいわゆる「AGE AGE世代」の思い出を残したい。
思い出だから、本来別にこんな誰にでも見られるような媒体に残す必要もないし、自分の胸に留めておけばいい話なんだけど、なんせ10年以上前の思い出だし。そんで、たまに一人じゃ受け止めきれなくなるから共有したい。


サルゴリラの思い出を引っ張って成仏

2007年頃から、渋谷の吉本無限大ホールで行われていたAGEAGE LIVE。あの時代を生き抜いていた芸人さんを「AGEAGE世代」と呼ぶことも、あの当時のお笑い界は異質かつ熱狂的な盛り上がりだったということも、お笑いライブに足を運ぶようなお笑いファンの方でしたら、推しや通っているライブは問わず周知の事実ではないだろうか。
※私は当時東京住みでもない、財力もない小学生だったため、当時の状況を直接足を運んで生身で感じていたわけではないので、AGEAGEを知ったような口きくなと思う方がいたら申し訳ないです。現場に通えなかった私が当時していたことといえば、見れる範囲でのお笑い番組の追っかけと「お笑い男子校」「お笑いポポロ」の定期購読くらいですが。

サルゴリラ……否、当時は松橋周太呂氏を含めたトリオ「ジューシーズ」で活躍していた二人も、この時代の、おそらく後期を人気と実力で支えた無限大ホールを代表する芸人さんだったことは間違いない。
今もなお、個々がそれぞれの分野(ラジオやMC、ネタ作りに趣味をつなげた活動、体張りロケにドッキリ)で活躍されているパンサーや、バラエティでもキングオブコントでも活躍して、抜群の知名度を誇るジャングルポケットと3組で番組をやっていたし、ネタも面白かったし、順調に見えたコンビだった。

だけど、料理の腕前や家電への知識などから「家事えもん」としてピンでの仕事が増えていった松橋さんと、トリオを解散し二人でのコンビとしてやっていくことを決めた児玉さん、赤羽さん。
別に不安なんかないけど、なんかやっぱりさみしくて、そこからコンビでネタを磨き続けて、44歳でチャンプになったサルゴリラが本当にかっこいいと。
しかも、お世辞にも吉本の大きな舞台(場所と仕事に優劣をつけるわけじゃないけど)に出る機会が少ないイメージのあった二人。こんなに面白いのに、ルミネの寄席の出番で名前を見た記憶がほとんどない。あんなに面白いネタが大量にあって、デカい箱での単独ライブの情報の記憶とかほとんどない。M-1グランプリでマヂカルラブリーが優勝するまで、吉本も一部の芸人すらも舐めていた大宮ラクーンよしもと劇場の出番を支える大事な存在として、時々ライブを見に行っていた。

でも、サルゴリラは諦めていなかったし、周りも誰も諦めちゃいなかった。
2016年のキングオブコント王者のライスは、度々サルゴリラをラジオのゲストに呼んでいたし、2023年はキングオブコント直前ゲストとしてオファーをしていた。毎年準決勝では「サルゴリラがヤバい」という下馬評が轟いていた。ピースの又吉さんも、かつて共にルームシェアをしていた児玉さんとサルゴリラを気にかけ、売れない期間を支え優しい言葉をかけてくれていた。
それが2023年についに報われた。たとえ優勝は出来なったとしても、あの大舞台で二人のコントが見れる、ということに価値があったと思う。それでも幸せだったのに、圧倒的な実力と点数で勝ってしまった。それも、あんなに味とインパクトの濃いネタが前半に畳みかけられていたというのに、コントらしいコント(松本さんが誰かへの審査で言ってたようなニュアンス)で、あの激戦の中をぶっちぎってしまった。その事実が、ジューシーズにもサルゴリラにも「ファン」と名乗るには恥ずかしいくらいの時間やライブの数しか捧げていない自分にも刺さりまくって、感動の中涙腺がブルンブルンで。


「あの頃」の皆の思いで成仏

そんな感じで、全組面白い今年のキングオブコントで、多分一番涙腺に来るだろうなと思っていた未来になって無事に感動で涙腺を震わせた後、私の涙腺が耐えられなくなって完全に決壊するのが、「あの頃」にAGEAGEでジューシーズだった児玉さん、赤羽さんと同じ時代を切磋琢磨していた仲間の芸人さんの言葉たち。

載せて数時間で万いいね 

泣き方が、人間として美しすぎる


前述した、「333」という番組でかつてのジューシーズと3組で番組をやっていたパンサーの向井さん、ジャングルポケットの太田さんの涙で、完全に私はもらい泣き。優勝した瞬間の本人たちよりも感極まらせて泣く姿が、同世代の芸人としてともに劇場に立ち、番組をやった仲間との時間や思い出を感じられて、本当に泣いてしまった。
色んな芸人さんが賞レースの結果発表を芸人同士で集まって見ている際の動画とかをあげてくれるけど、そういうのって割と「うぉー!!!!いけいけ、っしゃーーー!!!すげぇ!!!」みたいに、歓喜の声を上げる方が多いと思う。それだけでも、っていうかそれでも普通に感動するんだけども、喜び以上の深い感情があると、やっぱり思うところがたくさんあって、そこから涙になるのかな、とか思ったりして。

仲間の優勝で涙、といえば

同じ時代を戦い、辛い時期や売れない時期を共にして、一緒に同じ「優勝」という目標に向けて走ってたけれども、売れたり芸歴制限だったりでその戦いから退いたりまだ挑む途中の人たちが、そこに愚直に挑んで優勝した仲間の姿を見た上での、涙。
芸人さんの絆を感じてこっちも大泣きでした。そんなに絆厨ではないはずなのに。


「AGEAGEを好きでよかった」と思えた成仏

AGEAGEは、今でこそこうして王者を生んだし、かつては2016キングオブコント王者のライスに2020年M-1王者のマヂカルラブリーやTHE SECONDなどで話題の関東代表漫才師・囲碁将棋も若手時代にいたし、2010年あたりに爆発的人気だったはんにゃ、フルーツポンチ、しずるもいたし、現在はとにかく明るい安村として世界で活躍している安村さんの元コンビ「アームストロング」にピース、平成ノブシコブシなど、豪華な面々が揃っている。

だけど、どこかAGEAGEライブというのは、現在のお笑い界では黒歴史的な扱いで語られることも少なくはなかった。

AGEAGEライブの客層は女子高生を中心とした若い女性が多く、当時のお笑い雑誌や吉本が公式で出していた雑誌も、芸人さんをやたらとアイドル化していた時代だ。私が前述した、定期購読していた「お笑い男子校」も、現在お笑いライブに足繫く通うファンの方々が中身を見たらどんな顔をするのか分からないような企画やグラビア、特集がぎっしり詰まっている。

ゆにばーす川瀬名人大先生がニューヨークの闇(諸説あり)を暴く際に当時のAGEAGEライブの実情について触れている教養動画

当時の動画を見ても、雑誌を見ても、確かにやたらとツンツンした髪型が多かったし、ウォレットチェーンはあったし、私服でネタをやることは多かったし、出待ちが今じゃ信じられないスケールで2023年の出待ちキング・マシンガンズ(私調べ)の実際の出待ち風景も見たが、当時のAGEAGE時代はあの10倍のスケールはあったのではないか。

そういった環境で、賞レースに弱いと揶揄する人も多かった。
出てきただけで大歓声の時代だし、いわゆる「ワ―キャー」が慢性化していた時代だ。
芸人さんからしてもファンからしても、全員が全員当時のAGEAGEとしてのアイドル的扱いを快くは思っていなかっただろうし、ワ―キャーの裏で愚直にネタを作り磨き続けていた芸人さんも多くいただろう。
だが、M-1がいったん終了してTHE MANZAIになったタイミングとか、界隈自体も混沌としていた時代だし、賞レースのタイトル保持者は確かにほとんどいなかった。

そういうわけで、AGEAGE時代の思い出を黒歴史みたいに話す人も少なくないのだが、今夜に限っては、「あの頃」の芸人さんたちが、当時を思い出しながら、歓喜の声をあげてくれている。
あの時代は、決して無駄じゃなかった。ネタを作り磨き続ければ、日の目を浴びるのだと、証明してくれたかのようだった。


AGEAGEの全盛期を2010年とするなら、13年前の思い出。
当然だが、哀しい哉、当時活躍していたものの現在は解散してしまったコンビ、芸人の活動自体を辞めてしまった人も多くいる。だが現在もネタを作りコンビ活動を続けている人たちや、コンビは解散してしまったものの、新たなコンビを組んだりピンやユニットで活動している芸人さんもいる。
そういった仲間たちに、サルゴリラの優勝は間違いなく勇気と感動を与えたと思う。

特に2023年は芸歴15年以上かつ賞レースのタイトルを保持していない芸人のために新たに生まれた賞レース「THE  SECOND」が話題沸騰な上に、つい最近ピン芸人ナンバー1を決める「R-1ぐらんぷり」の出場資格から「芸歴10年未満」という項目が撤廃され、ベテランピン芸人も出場できることになった。キングオブコントも2021年からユニットによる参加を認めているため、13年前の劇場で活躍しているもちろん芸歴10年以上のベテラン戦士の賞レースのチャレンジ場が劇的に増えたのだ。
そこで、キングオブコントもそんなベテラン戦士が優勝した。こんなの、勇気でしかないし、ベテラン戦士たちの背中を押してくれるに決まってる。

R-1にピクニックや犬の心を解散したおしみんまる、THE SECONDに世代ドンピシャのLLRやチーモンチョーチュウが出れるわけだよそんなもん心躍っちゃうよな。

まだまだ希望に満ちている。AGEAGEを見ていたことって、黒歴史なんかじゃない。寧ろ、楽しみしかない。
私はおしみんまるがムゲンダイレギュラーになって、どんな顔でどんなポーズのアクスタになるのか見届けるまで死ぬわけにはいかねーんだ


そんな希望をくれた、サルゴリラの優勝。泣くしかねーんだわ。
ごめんなさいね、サルゴリラの現場通いでもなくAGEAGE現場に足運んでたわけでもない素人が偉そうにして。


でも、UNDER 5や神保町よしもと、K-PROの牧場メンバーやブレナイ、いぶきとかで、若手の大躍進がめざましい今、事務所関係なくベテラン戦士の躍進が見れたら激アツくないです!?同じフィールドで若手とベテラン戦士が戦ってたら、全員がバチバチして熱が上がって鎬削りあって、めっちゃ盛り上がりません!?今日がそんな日の、一つのターニングポイントになればいいなと思うだけだよ。



最後に!!2023年に見れた最高なジューシーズや!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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