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「まがり角のウェンディ」全18話

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【ヒューマンドラマ】 ※この小説は、五条紀夫と霜月透子の合作です。  高校三年生の亜美は、在宅ライターの父と、キャリアウーマンの母に愛され、絵に描いたような明るい家庭で育つ。亜… もっと読む
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記事一覧

「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

Ⅰ ー 1 ノートの上に、一本のペンがある。  手が伸びてきてペンを握る。開かれた白いページ…

霜月透子
3週間前
21

「まがり角のウェンディ」第2話(全18話)

Ⅰ ー 2 放課後、駅前まで遊びに行こうとの友達の誘いを断って、一人自転車を走らせる。橋の脇…

霜月透子
3週間前
8

「まがり角のウェンディ」第3話(全18話)

Ⅰ ー 3 両親は、「焦らせるつもりはないんだけど」と前置きをしては答辞の進み具合を尋ねてく…

霜月透子
3週間前
9

「まがり角のウェンディ」第4話(全18話)

Ⅰ ー 4 卒業式の日は朝からよく晴れていた。予行練習では足元が冷えた体育館も、人が多いせい…

霜月透子
3週間前
7

「まがり角のウェンディ」第5話(全18話)

Ⅰ ー 5「太一っ!」  次から次へと友達に声をかけられる太一がようやく一人になったのは、駐…

霜月透子
3週間前
8

「まがり角のウェンディ」第6話(全18話)

Ⅰ ー ⅰ 春先のこの時期、信也は日の出とともに床を出る。目覚まし時計をかけてはいるが、た…

霜月透子
2週間前
6

「まがり角のウェンディ」第7話(全18話)

Ⅱ ー 1 亜美は、カフェテリアに向かう廊下で予鈴を聞いた。カフェテリアが近づくと、席を立つ音が騒がしく響く。授業に向かう学生たちが絶え間なく出てくるため、亜美は出入口の壁際に背をつけて道をあけた。  人波が途切れたところで中に足を踏み入れる。ナチュラルメープル色を基調とした空間にガラス張りの壁面から光が差し込んでいた。カフェテリアは光が溢れすぎていて、目がくらむ。眩しさに目が慣れるまでしばし壁際にたたずむ。  明るさに馴染んで見渡せるようになってもまだ人の動きは続いていて、

「まがり角のウェンディ」第8話(全18話)

Ⅱ ー 2 手料理を披露する機会は意外と早くやってきた。春の陽気に誘われて海に行くことになっ…

霜月透子
2週間前
6

「まがり角のウェンディ」第9話(全18話)

Ⅱ ー 3 太一と別れて家の前まで帰ってくると、玄関から両親が出てくるところだった。 「ただ…

霜月透子
2週間前
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「まがり角のウェンディ」第10話(全18話)

Ⅱ ー ⅰ 日中は汗ばむほどの陽気でも、日が落ちれば途端に空気が冷たくなる。信也は、作業着…

霜月透子
2週間前
8

「まがり角のウェンディ」第11話(全18話)

Ⅲ ー 1 亜美の手に握られたペンが文字を連ねていく。数行、ときには一文の途中で、手を止めて…

霜月透子
2週間前
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「まがり角のウェンディ」第12話(全18話)

Ⅲ ー 2 きっかけさえあれば、と思っていたところに、太一からデートの誘いがあった。  予約…

霜月透子
2週間前
6

「まがり角のウェンディ」第13話(全18話)

Ⅲ ー ⅰ 眩しいほどに煌めく薫風の中、作業着姿の信也はうつむき加減に歩いている。  そうか…

霜月透子
13日前
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「まがり角のウェンディ」第14話(全18話)

Ⅳ ー ⅰ 二十年。この二十年の記憶はくすんでいても、二十年前の記憶は思い出と呼ぶには鮮やかすぎる。直視できないほどに眩しく、強い痛みを伴う。  あの頃よく見た光景が、線を結ぶ。  小さな背中が床に広げた手作りの本に覆いかぶさっていた。口を真一文字につぐみ、真剣な表情でページをめくる。十六時過ぎに保育園から帰ってきてからというもの、本にかじりついたままだ。  そんな娘の様子を、信也は、洗濯物を畳みながら眺めていた。小学校入学前で黙読ができるとはたいした子だと、静かに読みふけ