霜月透子

【note創作大賞2023 新潮文庫nex賞】『祈願成就』新潮文庫5/29 /第16・…

霜月透子

【note創作大賞2023 新潮文庫nex賞】『祈願成就』新潮文庫5/29 /第16・17・19回坊っちゃん文学賞 佳作/アンソロジー『夢三十夜』(学研プラス)、「5分後に意外な結末」シリーズ(学研プラス)他 詳細▶︎ https://toko-11.amebaownd.com/

マガジン

  • 「まがり角のウェンディ」全18話

    【ヒューマンドラマ】 ※この小説は、五条紀夫と霜月透子の合作です。  高校三年生の亜美は、在宅ライターの父と、キャリアウーマンの母に愛され、絵に描いたような明るい家庭で育つ。亜美は同級生の太一と両想いであったが、互いに想いを伝えられないまま高校卒業を迎え、二人は離れ離れになってしまう。そんなとき亜美は小説を書いて気持ちを落ち着かせているのだった。  一方、独り身の五十代男性・信也は、日雇い労働に従事しながら無気力にその日暮らしをしていた。 ふたつの物語の行き着く先は……  これは、光に満ちた日々と翳りに覆われた日々の物語。

  • その他

    近況報告やお知らせ、または雑記など。

  • 「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」

    【小説】 下町の小規模企業、磯貝プリント株式会社。従業員100人未満。内訳は社員20人、あとはバイトとパート。社長、専務など役員は主に身内という、アットホームな会社。基本平穏。たまに謎発生。そんなときはちょっとだけ困る。20代若手社員・石井祐介と60代パート従業員・大塚幸枝のコンビが困りごとを解決していく、ささやかな日常のほのぼのライトミステリー。

  • 「祈願成就」全10話

    【小説】 大幅に加筆改稿して新潮文庫より2024.5.29発売! 【note創作大賞2023 新潮文庫nex賞】 あの時なにが起こったのか。あるいは起こらなかったのか。 実希子、徹、健二、絵里、郁美の五人は、秘密基地を共有し、小学生時代を共に過ごした幼馴染みだった。郁美の死をきっかけに幼馴染みたちに事故が相次ぐ。 忘れかけていた出来事が終わっていなかったとしたら……?

  • 小さなお話

    掌編、ショートショート、童話など短い作品をまとめました。

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『祈願成就』書影公開されました!

創作大賞2023 新潮文庫nex賞 受賞『祈願成就』 5月29日に発売を控え、書影が公開されました。 すべての始まりの舞台となった秘密基地のある雑木林を思わせる風景。 ツギハギされ、微妙にズレたフォント。 一見してホラー小説とわかるデザインです。 (おや? 恋愛小説部門での受賞だったのでは……?) note版はこちら↓ 書籍化に伴い、分量的にも大幅に加筆しましたが、文字数以上に濃さを増しています。note版から削ったシーンはありませんが、印象はかなり変わっているはずで

    • 「まがり角のウェンディ」第4話(全18話)

      Ⅰ ー 4 卒業式の日は朝からよく晴れていた。予行練習では足元が冷えた体育館も、人が多いせいか、ほんのりあたたかい。  式も終盤に差し掛かり、卒業生の膝の上に置かれた卒業証書が窓からの光を受けて淡く光っている。 「答辞。卒業生代表――」  名前を呼ばれ、亜美は立ち上がった。 「はいっ」  頭の中で手足の動きを確認しながら歩く。意識していないと、同じほうの手足が同時に出てしまいそうだ。通路の端を曲がる際に上履きがキュッと鳴いた。ステージへの階段をのぼる。昨日のリハーサル

      • 文学フリマ東京38に出店します

        5月19日開催 文学フリマ東京38 に出店します! 文学フリマとは今回開催されるのはこちら 開催 2024年5月19日(日) 時間 12:00〜17:00(最終入場16:55) 入場料 1,000円 出店 1878出店・2096ブース 会場 東京流通センター第一展示場・第二展示場 今回より東京開催は有料となっております。チケット購入や会場へのアクセスについてはHPをご覧ください。 う-18 月夜の本棚霜月透子は月夜の本棚という出店名で出店します。 会場  第二展示場

        • 「まがり角のウェンディ」第3話(全18話)

          Ⅰ ー 3 両親は、「焦らせるつもりはないんだけど」と前置きをしては答辞の進み具合を尋ねてくる。そのたびに、「大丈夫」と答えるのだけど、信じているかどうか怪しいものだ。父はすぐに手伝いをしたがるし、母は二日と開けずにノートやペンを買ってくる。二人とも言葉とは裏腹に娘を焦らせる行動ばかりとる。  でも、大丈夫という言葉に偽りはなかった。たしかに順調に進んでいるとは言い難いけれど、書ける自信ならある。違う。自信が出てきた。太一が自信を持たせてくれた。  行事として記憶に残って

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        『祈願成就』書影公開されました!

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        • 「まがり角のウェンディ」全18話
          4本
        • その他
          11本
        • 「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」
          9本
        • 「祈願成就」全10話
          10本
        • 小さなお話
          9本
        • 「スポットライトに照らされて」全17話
          17本

        記事

          「まがり角のウェンディ」第2話(全18話)

          Ⅰ ー 2 放課後、駅前まで遊びに行こうとの友達の誘いを断って、一人自転車を走らせる。橋の脇の短い坂を立ちこぎでのぼり、土手に出ると、視界がひらけた。空が広い。河川敷のグラウンドでは、寒空の下だというのに小学生たちがサッカーをしている。ユニフォームではないし、人数も足りていないようだから、サッカーチームの練習ではなく友達同士の遊びなのだろう。向こう岸には釣り糸を垂れている男性もいる。  亜美は土手の遊歩道に自転車を止め、斜面の草地に腰を下ろした。  ここのところ晴れの日が続

          「まがり角のウェンディ」第2話(全18話)

          「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

          Ⅰ ー 1 ノートの上に、一本のペンがある。  手が伸びてきてペンを握る。開かれた白いページに影が落ちた。  手が、文章を書き始める。ペン先と紙が擦れ、乾いた音を立てる。文字を綴る音のほかは時折りページをめくる音がするだけだ。  手が、文章を書いている。音を立てながら文字が並んでいく。やがて手は止まり、乗り出していた上体が起こされたことで紙面の影は消えた。 「んんー」  伸びをして背中の強張りをほどき、出来上がったばかりの文章を見下ろす。  ……信也は深くため息をつき、目

          「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

          【文学フリマ東京38 出店!】 📍ブース:う-18 月夜の本棚(霜月透子、五条紀夫) https://c.bunfree.net/c/tokyo38/h2e/%E3%81%86/18 🗓5/19(日) 12:00〜開催 🏢東京流通センター第二展示場 Eホール 📕イベント詳細 https://bunfree.net/event/tokyo38/

          【文学フリマ東京38 出店!】 📍ブース:う-18 月夜の本棚(霜月透子、五条紀夫) https://c.bunfree.net/c/tokyo38/h2e/%E3%81%86/18 🗓5/19(日) 12:00〜開催 🏢東京流通センター第二展示場 Eホール 📕イベント詳細 https://bunfree.net/event/tokyo38/

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第9話

          5 今日も元気に鳴いています  チューイッ!  五十八分になるとネズミが鳴く。僕らはもう探そうとはしない。というか、ステープラ片手に鳴き真似をしながら呼びかけていたことなんて忘れてしまいたい。緩急つけてキュー、チューイッと鳴らしたら磯貝社長が褒めてくれて、実はちょっと得意になったなんて忘れてしまいたい。けどまあ、駆除業者に連絡する前だったのはよかったと言えるだろう。  ネズミを駆除する業者を探すように指示された大塚さんだが、翌日の昼になっても駆除の日程が知らされることは

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第9話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第8話

          4 またネズミがいます  結論から言うと、ハムスターのダイフクは見つかった。一時間に一回くらい聞こえる鳴き声をたよりに捜索したところ、配線の都合でわずかに空いたキャビネットとキャビネットの隙間に潜り込んでいたらしい。例の古めかしいフリップ時計が置いてあるキャビネットだ。真っ白い体は埃にまみれ、豆大福のようだったという。  そして、ダイフクは今度こそ無事に今村家へと連行された。一件落着である。  が。二件目が発生した。  いや、発生したのは一件目と同じか、それ以前だったの

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第8話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第7話

          3 もっと小さな訪問者 「説明は後だ!」  社長が叫んだ。 「石井ちゃん、ドアを閉めろ!」 「は、はい!」 「つかっちゃんは開いている窓がないか確認して!」 「え? あ、はい!」  僕と大塚さんは訳がわからないわかまま社長の指示に従う。密室の完成だ。 「よし、これで犯人は現場から逃走できないな」  満足げな社長を見上げ、こはるちゃんが「ダイフクは逃亡犯じゃないです」と抗議した。社長はすぐさま「そうか、ごめんな」と謝ったが、今村課長は「まあ脱走犯ですけど」と呟いた。

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第7話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第6話

          2 ネズミがいます  十七時半。事務所を見渡し、誰も残っていないことを確認して電気を消した。廊下に出ると、階段を下りてくる磯貝社長と行き合った。 「お。石井ちゃん、いま帰りか」 「はい。お疲れ様でした」 「おう。お疲れさん」  おのずと並んで階下に向かうこととなる。わずかに先を行く磯貝社長のごま塩頭を眺めながら声をかける。 「あのー、磯貝社長。今村課長って休暇じゃなくてよかったんですかね?」  今村課長もだけど、こはるちゃんも大塚さんも社長も子連れ出勤より休暇の方が

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第6話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第5話

          第二章 またネズミが鳴きました1 小さな訪問者  ハンドルを切り、大通りから逸れて歩道もない裏道に入ると、板金工場や寂れたスナックの先に三階建てのビルが見えてくる。二階の窓の横には『磯貝プリント株式会社』の看板。  営業車はすべて出払っていて、駐車スペースは広々としていた。僕は奥のブロック塀にできるだけ寄せて駐車した。詰めないとすべての車を停められないのだ。  運転席のドアが開く余裕すらないから、助手席側から降りる。二、三歩進んで足を止めた。 「あ。いけね」  閉めたば

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第5話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第4話

          4 蓋であって蓋じゃない  郵便物の仕分けをして、各担当者の机上に配っていると、バタバタと大きな足音が階段を上ってくるのが聞こえ、事務所の入り口で止まった。 「い、石井くんっ……!」  朝から銀行との往復で体力を使い切ったのか、ドア枠と膝に手をついた姿勢の大塚さんが立っていた。 「おはようございますー。振り込み、お疲れさまでしたー」  離れたまま挨拶をして郵便物の配布を続けようとしたが、大塚さんが事務所に入ってくる気配がない。改めて入り口を見ると、せわしなく手招きを

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第4話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第3話

          3 また蓋がなくなりました  翌朝、また蓋がなくなっていた。今度は僕が第一発見者だ。 「おはようさん」  磯貝社長が給湯室に入ってきて、食器棚に向かう。 「おはようございます。コーヒーですか? 淹れますよ」 「いいって、いいって。それくらい自分でやるよ……って、ありゃ。また蓋がなくなったの?」 「またって、社長も知ってたんですか?」 「昨日、つかっちゃんから聞いたよ。実際になくなってるのを見たのは初めてだけどな」  放置するようなこと言っていたのに、ちゃんと報告して

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第3話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第2話

          2 蓋の代わりは内密に  たまには蓋の一つや二つがなくなることもあるかもしれない。蓋を開けたところで誰かに呼ばれたりしたら、どこかその辺に置き忘れてもおかしくないし、その蓋を見つけた誰かがもとに戻すこともあるだろう。  だけど、一斉に蓋という蓋がなくなって、また一斉に戻されるというのはそう何度もあるとは思えない。何度もどころか、ただの一度あっただけでも不可解だ。 「それ、誰かが蓋を外しているってことですよね?」 「もちろんそうでしょうね」  大塚さんは、だからなに、と続

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第2話

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第1話

          第一章 また蓋がなくなりました1 返ってきた蓋  自転車のチェーンケースがカチャカチャ鳴る。家には母親が乗らなくなったママチャリしかないんだから仕方がない。自分の自転車は原付バイクを買った時に手放した。高校の時だから、かれこれ十年も前になる。それ以来自転車に乗る機会なんてなかったけれど、案外普通に乗れるものなんだなと妙に感動する。  大通りから逸れて、歩道もない裏道に入るとすぐに、板金工場や寂れたスナックの先に三階建てのビルが見えてきた。二階の窓の横には『磯貝プリント株式

          「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第1話