#1352 人の代理で及第するくらいなら自分でするのに……
それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。
第十回は、亢龍と唐狛が話しているところから始まります。唐「旦那さまは何を考えていらっしゃいます」。亢「貴様のような奴にも俺は俗物と違ってみえるか」。唐「ある老人が恬淡無欲の當世の太上老君、大聖人、大神仙だと評を致しました」。亢「してみれば天下皆めくらでもないが、それにしてもあの卜翁の言い草」。唐「無名翁が何か申しましたか」。亢「米国第一の美人に家事をやらせ、二億の財産を得て、天下の俗物にその高きを仰がせる……はは妙だな」。唐「新聞に出ていた求婚のことでござりましょう」。ここで唐狛は、亢龍が求婚するにあたって、ほかの男より不利な点を七つ挙げます。それを聞いて亢龍「だまれ、だまれ!」。唐「しかし不利ではござりませんか。ここにひとつ妙知恵があるので……」。そこで唐狛は、亢龍にささやきます。それを聞いて亢龍、「しからば奴を……」。亢龍の家には、食客として吟蜩子という日本人がいます。富貴も名誉もあえて求めず、ただ何となく世を送っています。ある日、興に乗じて故郷を出て、髪も衣も中国人風に変えて暮らしていたが、去年の暮、ある関帝廟で一夜の露霜を凌いでいたが、その暁に火事で焼けてしまいます。これは廟守の過失であるが、おのれの罪を逃れようと吟蜩子の仕業とし、牢獄に籠められますが、亢龍がこのことをどこかから聞き出し、人物風雅で談論軽妙な吟蜩子を面白がり、父に頼んで引き取ることにします。亢龍は吟蜩子に様々な事を聞き、その答えを自分の説として友人に説き誇ります。そんな吟蜩子のもとへ行き、亢龍は言います。「君にひとつ頼みたいことがある。君も知っているだろうが、ぶんせいむという男が婿を求める奇異の広告をしている。おれはるびなというのを得たい。その試験に僕の名をかぶって出てもらいたいのだ。君なら必ず及第する」。吟「いけませんよ。婿の代理人なんて、そんな馬鹿げた事があるものですか」。亢「ぶんせいむの広告を虚誕と思うか」。吟「虚誕とは思いませんが、衣食住や財産が十分になると、なお長生を願ったり、無常を悟ったとかいう向きも、欲の限りなき愚かな考えが起こしたもの。ぶんせいむもその通りで、これに応じて及第する人はありはしません」。亢「あってもなくてもよい。是非頼む」。「そんな馬鹿なことが」「馬鹿でもよい」「驚きますね」「驚いても構わぬ」「これは無法」「無法でもよい」。吟蜩子が承諾を拒んでいると、亢龍は「恩を忘れる犬め、畜生め!関帝廟に放火したお前だと公人に訴えるぞ。風俗を偽った日本人だと父に報告するぞ」と脅し罵ると、吟蜩子「まず待ち給え」
ということで、この続きは……
また明日、近代でお会いしましょう!
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