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【 参加差押え 】財務省前副大臣答弁の嘘

 財務省の前副大臣は、税理士資格を有しながら、主宰法人が所有する不動産について、滞納地方税徴収のため、国税徴収法に基づき、差押え及び参加差押えを6回も受けていたとの週刊誌報道があり、国会で野党議員から、追及を受けて、最終的には辞任しました。
 「参加差押え」という聞き慣れない文言について、答弁する本人だけでなく、質問する野党議員の全員(弁護士資格のある者を含む。)が理解していませんでしたので、解説します。

 まずは、一般的な差押え(民事執行法に基づく抵当権実行に伴う差押え)を考えてみましょう。
 Aさんは、住宅ローンを組んだが、返済が滞り、金融機関に差し押さえられて、裁判所を介して競売された。とします。
 これを法律用語で言い換えると、Aさんは、自宅不動産(土地及び建物)を取得するため、金融機関と金銭消費貸借契約を締結し、担保として、当該不動産に抵当権を設定した。収入が減少したAさんは、金融機関に対し、毎月返済すべきところ、数か月間、全く返済せず、催告を受けても返済ができなかったことから、期限の利益を喪失し、金融機関から借入金の一括弁済を求められ、当然、支払うことができず、金融機関は、執行裁判所に対して、抵当権に基づく競売事件の申立てを行い、執行裁判所は、競売開始決定を行うとともに、Aさんの自宅不動産について、差押登記を法務局に嘱託し、競売により、競落人に売却した。となります。

 上記事例に少し追加します。収入が減少したAさんは、担保余力(既返済分を考慮し、現在の不動産価額-借入金残額)があるので、サラ金から借入れを行い、サラ金のために2番抵当権を設定し、1番抵当権者である金融機関に対し、遅延していた借入金(延滞金を含む。)を弁済したので、直ちに、競売事件とはならなかった。

 しかし、Aさんは結局、金融機関とサラ金の双方への返済が滞り、競売を申し立てられることとなります。この時、競売申立てをできるのは、抵当権者である金融機関とサラ金であり、どちらでも構いません。抵当権設定順位というのは、不動産競売に係る売却代金の配当順位となります。すなわち、2番抵当権者のサラ金が競売申立てをしても、配当金を受領するのは、1番抵当権者の金融機関の次となります。

 次に、国税徴収法に基づく租税債権徴収過程は次のとおりです。上記民事執行法と比較して解説します。
 
 租税債権の発生 ⇒ 納期限を経過し滞納発生 ⇒ 督促状送付 ⇒
差押え ⇒ 公売 ⇒ 配当 

 民事執行法では、競売といい、国税徴収法では、公売といいます。そして、通常、租税債権では、抵当権等の担保権設定がないので、滞納発生になると、督促状送付後、差押えがされるところ、公売までに更に租税債権滞納が発生した場合、督促状送付後、滞納者所有不動産に対して、二重に差押えをすることはできず、「参加差押え」を行うこととなります。

 民事執行における配当順位は、抵当権設定順でしたが、国税徴収法における配当順位は、差押えに係る租税が1番であり、参加差押えに係る租税が2番となります。

 以上を踏まえて、財務省前副大臣の答弁は、差押え及び参加差押えを6回受けたことを認めた上で(不動産登記があるので、認めざるを得ない。)、「差押え又は参加差押えがされた後、すぐに(その都度)、滞納分を納税(完納)し、差押登記及び参加差押登記は、既に解除されており、現在、差押え等はない。」というものでした。

 間違いに気づかれましたでしょうか。「参加差押え」は、差押えが既にされている不動産に対して執行するものなので、差押えに係る租税を滞納したままであり(完納しておらず)、差押解除がされていなかったということです。ですから、前副大臣が虚偽答弁をした(嘘をついた)ことは間違いありません。

 この大臣や副大臣(国会議員)の答弁は、政府高級官僚(キャリア)が答弁書を作成して、事前に交付しており、読み上げているだけです。政府委員(官僚)も出席していましたが、そもそもの間違いに気づいていませんでした。なぜでしょうか。
 
 今回、滞納となった租税債権というのは、国税ではなく、地方税(筆者の推測では「固定資産税」)であったことから、国税庁政府委員は、国税徴収法の一般的な解釈や運用を答弁したものの、前副大臣の差押え等の原因となった租税債権は地方税であり、所管外と答弁しました。
 
 滞納地方税が固定資産税であれば、市役所が差し押さえますから、所管は総務省となります。よって、虚偽答弁書の作成は、総務省が行ったものと推察されます。

 そして、国会答弁を行う政府委員とは、各省庁の局長級(キャリア官僚)であり、答弁者(国会議員や政府委員)が読みあげる答弁書の実際の作成者は、ノンキャリア職員です。各答弁者は、ノンキャリア職員等からレクチャーを受け、答弁内容を理解している前提です。

 そうすると、問題となった答弁書は、総務省のノンキャリア職員が作成したもので、「参加差押え」が何たるかを知らなかったのではないかと考えられます。国税庁のノンキャリア職員が作成したのであれば、間違っていなかったはずです。国税庁政府委員は、所管外を決め込んで、虚偽答弁を訂正しなかったのか、「参加差押え」を理解していなかったのかは不明です。

 いずれにしても、財務省の副大臣たる地位にある国会議員が、税理士資格を有しながら、主宰法人所有不動産について、滞納地方税徴収のために、差押え及び参加差押えがされたという事実をもって、不適任であることは疑う余地はなく、「説明責任」など不要です。追及する野党議員も勉強不足であるし、追及すべき内容が的外れの感を否めませんでした。

 長年、国税徴収をしてきた筆者が言えることは、徴収職員や徴税吏員は、滞納租税債権徴収の場面では、国会議員だからといって、何ら忖度せず、滞納処分等を行うということです。
                             以 上

 

 

 

 

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