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視野の外を知る(「ハンチバック」感想)

先日、芥川賞を受賞した作品「ハンチバック」を読みました。

前評判で「衝撃作!」とか「過激」とか言うのを聞いていたので身構えて読んだのですが、個人的には「痛快」と言う方が近い印象でした。

もちろん、重度身体障がいの重みは私には解り得ませんが、一応自分も障がい者であり、障がいのあるの知人も少なくありません。
その実感と併せて読むと、お上品でもやたらポジティブでもない形で綴られた日常に「よくぞ描いてくれた」というようなリアリティと痛快さを感じました。

障がいを持って生きていく事は、そうでない人とは見えてくる社会への感情が全然違うと思います。
「普通になりたい」という感覚、「言っても仕方ないな」という諦め、自嘲しないとやってらんないなと思う事。日常的に哀れみの目で見られる事。逆に、そういった世間を少し離れて観察するような目になること。単純な嫉妬などではなく、愛憎が激しく入り乱れた状態なんですよね。しかも主人公の場合、出来る対処は現状維持であり改善はない。

そういった複雑な心境を、時に軽妙に、時に鋭利な力強さを以て書かれた文章は、日常生活の話でありながら目が離せなくなる緩急があり、つい一気に読み切ってしまいました。

著者の市川さんが会見で話されていた「読書のバリアフリー」。
私は、作品中に描かれているような「紙の匂いが好き、とか、ページをめくる感触が好き、などとのたまう」側の人間なので、それが人によっては不便どころか苦しみになっているという事実にはハッとさせられました。

大なり小なり社会設計というのは、多数派が使いやすいように設計されたものが圧倒的です。
目立つ声があがらなければ、多数派側は「少数派にも配慮できている」と錯覚してしまいがちですが、一見問題なく思える場面も、もしかしたら、少数派の人が“配慮して”合わせているだけかもしれないのです。(というか、大体そうなんだろうと思います)

自分目線を最優先に社会を見るのは当然なんですが、それゆえに見落としてしまうものが多いこと、そこに気が付けない我が身の弱さにはなるべく自覚的でありたいです。


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