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イヴ・サンローラン美術館 パリ

いつの頃からだろう。記憶を辿っても思い出せないのだが、私はいつからかイヴ・サンローランというブランドが好きだ。もしくはサンローラン本人が創り出す雰囲気 - 世界観たるもの含め - とも言えるのだけれど、とにかくお気に入りのメゾンであることは間違いない。

そんなイヴ・サンローランのミュゼ(美術館)がパリに開館したのは2017年だった。私がパリに滞在していた頃にはなかったこのミュゼ、2019年にパリを訪れた際、念願叶ってようやくおもむくことができた。

今秋には東京で初のイヴ・サンローランの回顧展が開かれることになっている。そんなタイミングもあり、私は今から待ちきれない気持ちを持て余している。そこで、パリのミュゼの様子もここに残しておきたいと思う。

ミュゼがあるのはパリでも有数の閑静な高級住宅街。最寄駅はメトロ9番の “Alma-Marceau” (アルマ・マルソー)
訪れたのは10月初旬。暑くもなく寒くもなく、パリでもひと時とても快適な時節
16区は場所柄瀟酒しょうしゃなアパルトマンが多く、街並みも一際美しい

16区の瀟洒な高級住宅街にあるサンローランのミュゼは、日本で言えば佇まいの美しいマンションの一室にひっそりとある。

住所とミュゼのサイン
元々はメゾンのオフィスだったという場所

パリらしい美的感覚に溢れた16区は、サンローランの雰囲気とも調和していて、まるで彼本人の自宅を訪ねるような気分にさせられる。

チケットの裏面にはサンローランのデッサン画が
プリントされていた

受付を済ませると、もうそこにはモンドリアン・ルックのフィギュアやデッサン画が飾られていた。念願叶ってようやく辿り着いたこの美術館に、私は感無量だった。そして胸躍らせながら、中へと進んだ。

イヴ・サンローランが1965年に発表したミニドレス。オランダの抽象画家ピエト・モンドリアンの作品に着想を得てデザインされたこの服は、白地のシンプルなワンピースが黒の水平線と垂直線で分割され、そこに三原色が大胆に配されていた。

モンドリアン・ルック - 出典: アートスケープ
レセプションのエリアにはモンドリアン・ドレスのイラストやバービー人形も

人目を引く鮮やかなモンドリアンの “コンポジション” と呼ばれる柄は、ドレスにすると一際モダンに感じられる。花柄や、“てい” のプリント柄ではないこの格子柄は、ドレスにはめ込まれるとひと時その枠を飛び越えて “幾何学的なアート” とモード(ファッション)を結びつけ、驚きとともに、しかしそれは確実にファッションとして、シックで都会的な雰囲気を持ち合わせたインパクトを、見るものに与える。

独自に持っているボリュームや色を調整しながら各部分の形態と組み合わせ、全体として一つのまとまった作品を作りあげること。絵画に限定して使われる言葉ではなく、音楽や文学、建築の世界でもよく用いられる。
(中略)
その後、ワシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky)やピエト・モンドリアン(Piet Mondrian)といった抽象画家らにより、新しい意味を持つようなった。特にモンドリアンは、黒い直線と青・赤・黄の三原色で構成された「コンポジション」の作風を確立した。

コンポジションとは? - 出典: MUUSEO SQUARE

ネオンで彩られたモンドリアン・ドレス、ショウのビデオ、鮮やかな何種ものルック、そしてサンローラン本人による下絵やデッサン画。

今も色褪せないモンドリアンコレクションの数々に、私は圧倒され、そして改めて魅了されてしまった。

モンドリアンの “コンポジション” の一つ
私の永遠にアイコニックなドレス
デザイナーのデッサン画や素材からは、その時代や製作過程の息づかいが感じられる

私が訪れた2019年には、想像以上にモンドリアンコレクションの占める場が多かったけれど、もちろんそれ以外のルックも展示されていた。

イヴはディオールのアシスタントを務め、その後(ディオールの)2代目のデザイナーに就任したが、イヴのスタイルはディオールと比べるとよりモダンで、細身のスタイルが特徴だ

イヴ・サンローランのスタイルといえば、色味はバラエティに富むというよりは、どちらかと言えば、落ち着いたトーンが多い。そして黒は彼にとってとりわけキーとなるカラーで、スタイルはシックで現代的。彼はモロッコ出身なので、色味もスタイルもその影響を受けているのかもしれない。


ちなみにモロッコにもイヴ・サンローランの美術館がある。

musée YVES SAINT LAURENT marrakech

私の “バケットリスト” の一つ。



スタイルも色味もイヴ・サンローランらしい黒のルック

そして、イヴ・サンローランの引退と共に終了してしまった、貴重なオートクチュールラインもいくつか見ることができた。

赤のウェディングドレス。膨らみすぎず全体のバランス感よく、そしてリボンもありながら都会的で、サンローランらしいコレクション
今もサンローランのオートクチュールが存続していたら、どんなクリエイションが作り出されていただろう

イヴ・サンローランと、彼と公私を共にしたパートナーで、財団にも名前をのこしているピエール・ベルジェとの写真やビデオも多く展示されており、それらも非常に印象深いものだった。

イヴとピエール・ベルジェのポートレート。

若き日のイヴ・サンローラン

最後はイヴの書斎。アトリエと言ってもいいかもしれない。精巧に再現されたそこで、彼は何を思いながらクリエイションを生み出していたのかと、来場者が思いを馳せてしまう、美しい空間だった。

帰り際、出入り口から見えるモンドリアン・ルック
レセプションにある美術館のサイン。イヴ・サンローラン美術館は、ピエール・ベルジェ = イヴ・サンローラン財団の代表ピエール・ベルジェによって設立されたもの、と記載されている

イヴ・サンローラン美術館パリは、16区の、元はサンローランのオフィスだったという場所にある。こぢんまりして小さな美術館だが、中に入ると想像以上に多くのアーカイブを見ることができ、私はひと時サンローランの活躍した時代に思いを馳せながら、彼のクリエイションを楽しむことができた。

そして、現在は展示内容が変わっているようなので、またパリを訪れた際には再訪したいと思っている。

蛇足だが、私はこのモンドリアン・ルックが好きで、このnoteの “スキ” リアクションにも設定しているくらいである。

この記事が、今秋のイヴ・サンローランの回顧展に行かれる方の何かしらの予備知識に、また、たまたま訪れて下さった方にも、サンローランの魅力が伝わる一助になればとてもうれしい。

そして私自身、今秋の東京での回顧展が今から楽しみでならないこの頃である。

今秋のイヴ・サンローラン回顧展
イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル
2023年9月20日(水)− 12月11日(月)
国立新美術館
https://ysl2023.jp/

イヴ・サンローラン美術館パリ
Musée Yves Saint Laurent Paris
5, avenue Marceau
75116 Paris - France
https://museeyslparis.com

※ 挿入されている写真及び画像、動画コンテンツはすべて筆者によるものです。また、施設・イベント等の情報は、当記事執筆時点(2023年6月)のものとなります。

(Paris, 2 October 2019)

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