真井 とうか

俳句/小説/ショートショート/ポメラDM200を愛用中。

真井 とうか

俳句/小説/ショートショート/ポメラDM200を愛用中。

マガジン

  • ショートショート(オリジナル)

    自作のショートショート作品です。~2000字くらいのものを載せていくつもり。

  • 毎週ショートショートnote参加作品

    410字程度の掌編集。たらはかにさん(https://note.com/tarahakani)が毎週実施しておられる「ショートショートnote(https://www.ptns-sp.com/our-products/shortshortnote/)」を使ったお題企画に参加したものです。

最近の記事

Don’t cry,my hero.

 幼なじみのナナちゃんは、小さい頃から「女の子らしさ」とは無縁の子だった。髪はいつもショートカット。おままごとは嫌い、サッカーが大好き。スカートは絶対履かない。  お遊戯会で「アンパンマン体操」を踊った時は、他の女の子がみんなメロンパンナやドキンちゃんのお面を作る中、一人だけアンパンマンのお面を作った。お絵かきが下手なナナちゃんのアンパンマンは、紫色の顔に黄色のほっぺをして、まるでナスのおばけみたいだったけど、ナナちゃんはちっとも気にせず、誰よりも元気に踊っていた。  そん

    • ふうちゃんのこと

      ※注∶この記事には、ペットの死やペットロスに関する内容が記載されています。 「禍福は糾える縄の如し」。  2023年末、これほど強くこの言葉を実感した一年はそうそうなかったように思う。  趣味の俳句でけっこう大きな賞をいただいた。婚活には失敗した。職場ではでかい不祥事の火消しで3ヶ月が吹っ飛び、売上は県下トップを独走し駆け抜けた。年末はほぼ毎日残業で、年内に消化すべきだった残務が山積みで新年を迎える。  SNSの俳句界隈では、年末のこの時期、「○年自句十選」というものがタ

      • 怪盗

        「しかしこのご時世に『犯行予告』とはな。馬鹿にしやがって」 「まあまあ、落ち着いてくださいよ先輩。確かに、今どき変装が得意で神出鬼没の怪盗、なんて、冗談にも程がありますよねぇ」 「まさか都内で三件も被害が出てるとはな。警察のメンツ丸つぶれだ」  私の背後で、二人の男が話し込んでいる。どうやら、この二人は刑事であるらしい。「先輩」と呼ばれた低い声の男は、四十路の半ばといったところか。もう一人は若いが、歳の割にしっかりした口調が印象的だ。 「以前、神戸を騒がせたこともあるらし

        • 「初めての」

           今日もまた、クラスメイトの女の子たちが「あの日」の話をしている。  「あの日」というのはもちろん、月に一度やって来る、女の子特有の「例の一週間」のことだ。  例えば、女の子の一人が、朝から浮かない顔をしているとする。どうしたの、と問うと、彼女はひそひそとこう言うのだ。 「今日『あの日』でさ。お腹痛いんだ……」  そんな時は、できる限り痛ましそうな顔をして、「大変だね」とか「辛いよね、アレ」とか言わなければいけない。私たちはそれでわかり合える。少なくとも、そういうことにできる

        Don’t cry,my hero.

        マガジン

        • ショートショート(オリジナル)
          10本
        • 毎週ショートショートnote参加作品
          9本

        記事

          4分18秒の冒険

          ◇ 「だからさあ、頼むよ、ハトリちゃん。出よ? せっかく当たったんだからさあ」  ササキ・アラタは大げさに私を拝んだ。  私のデスクの上に、一枚のハガキがある。 「『シング・フォー・ザ・ドリーム』出場決定のお知らせ」  それは、出場者が歌唱力を競う、歌手志望者の登竜門として有名なテレビ番組だった。その番組に、どうやらこの私が、出場する権利を得たらしい。 「バカ言わないでよ、何勝手なことしてくれてんの?」  私はアラタを睨み付けた。  アラタは会社の同期で、長年の付き合いだが、

          4分18秒の冒険

          ショートショート王様【毎週ショートショートnote】

          偉大なるショートショート王様  梅雨晴れの侯、王様におかれましては、益々ご盛栄のこととお慶び申し上げます。  さて、我ら王国民は、来る七の月に開催されるロングロング王国との親善試合に向け、日々鍛錬を重ねております。  相手国はその名の通り、大河の如き超長編を連綿と編み続けてきた歴史ある大国。国の威信を賭けた戦いに、皆高揚しております。  我らはこれまで、偉大なる王様の下、さながら千夜一夜物語の賢姫の如く、数多の掌編を紡いで参りました。コメディ、ホラー、ほろりと泣ける恋

          ショートショート王様【毎週ショートショートnote】

          PAAGO WORKS パーゴワークス SWING スイング L レビュー

          私、普段はこのアカウントでショートショートや短編小説をアップしているのですが、実はバードウォッチングと山歩きが趣味です。 先日買ったサブバッグがとっても良かったので、レビュー記事を書いてみました。 目次1.購入のきっかけ軽くて防水のサブバッグが欲しい! 今まで山に行く時は、サコッシュやボディバッグにスマホ・カメラ・行動食などを入れて歩いていました。しかし、しばらく続けるうちに、 ・サコッシュはスリムだけど容量がイマイチ… ・ボディバッグは首から双眼鏡を提げると邪魔! ・

          PAAGO WORKS パーゴワークス SWING スイング L レビュー

          可愛くない女

          『女の子がやってはいけない一番悲しいことは、男性のために頭の悪いふりをすることです』  あるハリウッド女優の有名な言葉だ。  私は今まさに、その「一番悲しいこと」をやっている。目の前の、この男の子に。 「ハル君って、映画、詳しいんだね。私、そんなの全然知らなかったよ」  サークルの飲み会で、私は彼に言った。  ポイントは、相手の目をじっと見つめること。お店の間接照明が、潤んだ瞳を効果的に演出してくれる。  ハル君は頬を赤らめた。たぶん、お酒のせいじゃない。 「いやそんな、

          可愛くない女

          結婚式ゾンビ(毎週ショートショートnote)

          「哲学的ゾンビ」。たとえ大粒の涙を流していても、「悲しみ」という感情を持たない存在。 今、私の隣にいる彼は、そんな得体の知れない何かに見える。 ブライダルサロンで、彼はにこにことプランの説明を聞いているけれど、その笑顔はどこか不自然だ。 コーディネーターが席を立った隙に、私は思い切って尋ねた。 「……ねえ、トモくん……最近仕事、ないんじゃない?」 彼の表情がぎくりと固まった。 「部屋からタイプの音、しないから……ずっと前からだよね?」 彼はうつむいて唇を噛んだ。

          結婚式ゾンビ(毎週ショートショートnote)

          みんなで動かない(毎週ショートショートnote)

          今回は410文字に収められそうになく、潔く諦めました😅結果、800字程度の掌編になりました。よかったら読んでやってください! ↓ ↓ ↓ 数発の銃声がサルーンに響き渡り、私たちはその場に凍り付いた。 「動くなよ、どいつも」 名うての大悪党、オスカー・“ブル”・ドーソンは、銃を構えたまま、私たちを睨め上げるように見回した。 計画は完璧なはずだった。村で悪逆の限りを尽くすドーソンを倒そうと、男達が決起したのが三日前。腰巾着の保安官を縛り上げ、根城へなだれ込んだ私たちは、取

          みんなで動かない(毎週ショートショートnote)

          ポケット大増殖(毎週ショートショートnote)

          pocket ━━[名] 所持金・収入 (ジーニアス英和辞典) 最近、収入が増えた。政府が始めた「所得倍増計画」の恩恵だ。長い不景気の末、政府はやっと「庶民にカネが回らなければ、少子化も消費の冷え込みも解消しない」と気づいたらしい。おかげで、僕たちの生活はずいぶんと楽になった。 今日は給料日。財布はずっしりと重たい。街へ繰り出せば、花金の歓楽街は、浮かれた人々でいっぱいだ。 その時、道を行く僕の肩に、誰かがぶつかった。 「あっ、すみません」 若い男が、こちらへ頭を下げ

          ポケット大増殖(毎週ショートショートnote)

          神様時計(毎週ショートショートnote)

          我が家には、代々伝わる「神様時計」というものがある。深い色の木目と、ローマ数字の文字盤がレトロな柱時計だ。 普通の時計と違うのは、文字盤の十二時の上に、小さな神棚を思わせる開き戸がついていること。そして、時報が鳴るたび、そこから鳩時計のハトのように、小さなお稲荷様の像が出てくるのだ。 僕は小さい頃から、毎日このお稲荷様を拝むよう躾けられてきた。大人になり、実家の店を継いだ今でも、欠かすことなく続けている。そのお陰かどうかは知らないが、時代と共に商店街が寂れても、近所に大きな

          神様時計(毎週ショートショートnote)

          ぴえん充電(毎週ショートショートnote)

          「番組タイトルはこうです。 『ぴえん充電させてください!』 看板は、人気タレントの入海トチローさんです」 僕は今、企画会議で春の新番組のプレゼンを行っている。 重役達は、皆渋い顔。テレビ離れが叫ばれて久しい昨今、視聴率は業界の死活問題なのだ。 しかし、臆してはいけない。僕は意気込んでスライドを切り替えた。 「入海さんには、バイクで全国を回ってもらい、出会った人に、最近あった『ぴえん』なエピソードを紹介してもらいます。入海さんはフランクで温かいお人柄、そのコメントは、人々の

          ぴえん充電(毎週ショートショートnote)

          エンドレス(ちくま800字文学賞応募作品)

          「PDCAって、ご存じですか」 男は僕に尋ねた。 「ええ、まあ」 それは、サラリーマンの僕には馴染み深い言葉だった。 PLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(評価)、ACTION(改善)。 日々の業務においてこれを実践し、円滑に遂行する。ビジネスの基本だ。 しかし、目の前の男の言う「PDCA」は、ちょっと違うらしい。 「簡単にご説明しますね。まず、PROMISE(契約)。貴方と私の間で交わすものです。次にDECLARE(宣言)。神に対し、転生を宣言していただ

          エンドレス(ちくま800字文学賞応募作品)

          犬泥棒(ちくま800字文学賞応募作品)

           犬は防犯に役立つ。そう思う者は多いだろう。犬の使命とは、飼い主を守ることだ。怪しい者には吠え、勇敢に飛びかかる。  俺は泥棒だ。普通、泥棒は犬のいる家を避ける。だが、俺は違う。俺は、どんな犬でも手懐けることができるのだ。  その夜、俺はとある豪邸の前に立っていた。立派な門柱の隅に、小さな逆三角の印がある。仲間がつけた「犬がいる」というサインだ。玄関の防犯カメラは、明らかにダミー。俺は、屋敷を囲む石塀を悠々と乗り越えた。  降り立った庭は広かった。片隅に古ぼけた犬小屋が

          犬泥棒(ちくま800字文学賞応募作品)

          密着取材(ちくま800字文学賞応募作品)

          アカデミー賞受賞監督・西園寺怜子に密着し、ドキュメンタリー番組を作る。その企画は、怜子が新作映画の制作を発表した日から始まった。 私は番組のプロデューサーとして、当初から怜子と接していた。 怜子は、世間のイメージそのままの、気難しい職人のような女だった。 自分にも他人にも厳しく、演技の指導には一切手を抜かない。スタッフや俳優と口論になることも珍しくなかった。 「私は悪役なのよ。人間、追い詰められなきゃ出てこない表情がある。張り詰めた弦が切れる時、キンって鳴る。私が撮りたい

          密着取材(ちくま800字文学賞応募作品)