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葬送のフリーレンを全巻読んで考えさせられた話(今年一番推したい漫画)

Kindleのセールだったので、葬送のフリーレンをまるっと全巻買いました。
あまりに面白くて1日で全部読みました。
アニメの方はすでに4周ほど履修させていただいております。

そのうえでの感想を述べていこうかなと思います。
一部ネタバレも含まれるので、ご注意ください。





1.どこで連載しているか

まず、葬送のフリーレンは、週刊少年サンデー(小学館)で連載しているらしく、アニメに出会うまで全く知らない作品でした。
何を隠そう私は少年ジャンプ民族なので、ONE PIECE、呪術廻戦、僕のヒーローアカデミアなどは追いかけているものの、サンデーは全くの射程外でした。

というのも、正直小学館のクリエイターに対する態度が非常に悪いので、そもそもあまり好きではなく、今後もきっと好きにはならないと思っています。
私は漫画が大好きで、漫画に育てられたと言っても過言ではないので、漫画家を大切にしない会社をどうしても好きになれないのです。
以下のニュース記事はほんの一部で、小学館は過去に何度も問題を起こしているため、本質的にそういう会社なのだと認識しています。


そんな会社からでも素晴らしい作品は生まれます。
漫画家さん自体は素晴らしいので。

例えば犬夜叉、名探偵コナン、銀の匙などがそうです。
コナンと犬夜叉については、私はアニメ勢でしたが、子供の頃に面白く見させていただいておりました。

ただ、ここ最近はあまりヒット作に恵まれなかったようで、サンデーの存在自体を忘れかけておりました。

そんなときに超新星のように現れたのが「葬送のフリーレン」でした。



2.アニメのクオリティが半端ない

私はアニメで初めてこの作品を知った人間です。
アニメを全話見た後で「えっ!?これサンデーやったん!?」と思ったくらい何も知りませんでした。
ヤングジャンプかなと思っていたくらいです。

それにしてもアニメの作画が素晴らしいことこの上ない!
アニメにめちゃくちゃお金がかかっているのがすぐわかるくらいのクオリティです。

私は絵が死ぬほど下手なので、絵が素晴らしい作品を見ると2倍感動します。
ゆえに、葬送のフリーレンはガッツリ心を持っていかれました。



3.ストーリーの始まりが面白すぎる

そのうえで、一話目からすでに面白すぎるストーリー展開。
今までになかった斬新な始まり方でした。

普通の冒険ファンタジーは、主人公の幼少期または主人公が冒険の旅に出た直後あたりから始まるものです。
あのONE PIECEですらルフィが航海を始めた日から物語が始まります。

しかし、葬送のフリーレンは、魔王を討伐して王都に帰るところから始まります。
第1話のタイトルも「冒険の終わり」で、最初から話が終わっとるやないかと思って驚きました。

終わりが始まりの物語ってなかなか無いので、その時点で心を鷲掴みです。
この時点で子供向けではない作品だなと感じていましたが、全話・全巻見た後もやはり「大人向け」だと思っています。

漫画大好き民族なら共感してくれると思うのですが、漫画って終わった瞬間に猛烈な虚無感に襲われるじゃないですか。
幽遊白書が終わった時、ドラゴンボールが終わった時、スラムダンクが終わった時、ハイキューが終わった時、約束のネバーランドが終わった時、鬼滅の刃が終わった時、銀魂が終わったと見せかけて続いてまた終わった時……

その作品が素晴らしいものであればあるほど、終わったときに悲しいのです。

学園モノだと尚更そうで、読者の多くは同級生になったつもりで読んでいるので、自分だけ強制的に卒業させられた感じがして、どうやってこれから生きていけばいいのか途方に暮れるくらい虚無感に襲われるのです。

自分だけ歳をとって、いつの間にか主人公を追い越し、何なら主人公の親や先生まで追い越して、おっさんの階段を登っていくのです。

皆さんもそうでしょう?
サザエさんのアナゴさんをもう追い越してるでしょ?

アナゴさん
アナゴさんは京都大学卒の27歳


大好きな漫画やアニメが終わるたびに、漫画やアニメの世界に行きたい(サザエさんの世界を除く。)とどれだけ願っても、絶対に叶わないことなのだと思い知らされます。

分別のある大人ならすぐに切り替えて、次の日に満員電車に揺られながら出勤できるのでしょうけど、私は比較的辛いと感じ続けるタイプです。
虚無感が数日から数週間続きます。
自分だけ現実世界に取り残された感がずっと残ります。


そんな私にとって、葬送のフリーレンのストーリー展開はコロンブスの卵くらい良い発想の転換で、終わりから始まるなんて最高じゃないか!と思いました。

ここからはネタバレになるんですが、第1巻の話で超重要なことなのであえて書きましょう。

葬送のフリーレンは、勇者一行として魔王を討伐したパーティの魔法使いである「エルフ」のフリーレンが主人公です。
この物語の世界ではエルフは半永久的に寿命が続くようで、すでに1000年以上生きている状態です。

そして、魔王を討伐したパーティとの旅は、10年もあったのですが、エルフの感覚ではそれは一瞬で、あっという間の出来事でしかありません。
ゆえにフリーレンは、勇者一行との旅に対してほとんど思い入れもなく、討伐後に王都に帰った後もすんなりパーティを解散して、一人で旅を続けます。

次にパーティのメンバーに会いに来たのはなんと50年後です……

エルフにとって、50年はあっという間の感覚らしいのですが、人間からするととんでもなく長い時間です。
案の定勇者一行の人間たちも老人になっていて、見る影もありません。

フリーレンは、年老いたパーティの皆と小旅行的な冒険をして、またさよならをするのですが、そのあとすぐに勇者ヒンメルが亡くなります。
すでにご老人だったので全く驚きはなく、フリーレンや他のパーティメンバーも笑顔で送り出します。

しかし、最後のお別れのとき、ヒンメルの死がフリーレンに対して思いがけない影響を与えたようで、そこでやっと人を知ろうとする大切さを知るのです。

そこからやっと本格的に物語が始まっていきます。
いわば、フリーレンが人間(主にヒンメル)を知るための旅です。
ヒンメルたちと旅した10年間を辿って、大切な何かを感じる旅です。

これがまぁ面白い!

勇者一行が魔王を討伐した後の世界を、フリーレンの旅を通して丁寧に描いてくスタンスは本当に素晴らしいの一言です。



4.著者視点でみると極めて難しい作品

ただ、このストーリー展開はめちゃくちゃ難しいです。

魔王を討伐したという事実がすでにあるので、一番重要な結論部分が最初に描かれてしまっています。

そしてその過程には数々の伝説的な死闘があるはずですが、その死闘は、物語の中の現在である「魔王を討伐した時から数十年経った世界」でも語り継がれているのです。
フリーレンは、今回の旅を通じて、勇者ヒンメルたちとの冒険の思い出を辿っていきます。
そのため、過去の話と現在の話が頻繁に交錯するのです。

ということは、一つの物語の中で、複数の人間の複数の時系列が同時に存在していることになり、しかもそれは、キャラクターが増えるごとに増加していきます。
さらにいうと、その過去と現在を面白おかしく描かないといけません。

これから著者は、結論がすでにわかっている話を魅力的に描いた上で、かつ、現在と矛盾がないように描く必要があります。
何を言っているかわからないかもしれないのですが、著者視点で考えてみていただくと、この物語を描く難易度の高さがわかると思います。

時系列というものは基本的に不可逆的なので、一度描いてしまうとそれが固定されるのです。
つまり、描けば描くほど事実が積み上がって行ってしまって、物語の現在に影響を与えるのです。
私の感覚でいうと、連載そのものが、自分にどんどん足枷と重りを付けていく作業です。

通常の漫画は、基本となる主人公が一人いて、その人を中心とした未来だけを考えて描いて行けば良く、過去編を描くとしてもほんの一部分を切り取るだけでいいのでそこまで難易度は高いくないのですが、葬送のフリーレンの場合は、勇者一行(4人)の過去10年分、魔王軍の主要キャラクターの過去、各キャラクターの様々な生い立ち、勇者一行が魔王を討伐した後の数十年間分の過去や歴史、フリーレンが今まで生きてきた1000年分の過去、魔王討伐後フリーレンが勇者一行に会いに来るまでの50年間の過去、フリーレンが旅をしている現在、フリーレンが現在一緒に旅をしているメンバー(主に2名)の過去と現在、そして、これからフリーレンたちが経験していく様々な未来などをすべて矛盾なく描かないといけないのです。

どこかの時点で時系列がおかしくなったり、過去の事実として描かれていることと矛盾した現在が発生してしまったら、ストーリーが一気に崩壊します。

そう考えると、おそらく普通の頭脳では処理しきれないほどの事実量になります。
少なくとも、私の頭脳では完全に描き切る自信がありません。

HUNTER×HUNTERの冨樫先生は、休載が多いことで有名ですけども、その理由の一部には、時系列処理で矛盾がないストーリーを考えるのに時間かかるという点があります。
HUNTER×HUNTERも極めて難しいストーリーなので、おそらく最後まで完璧に描き切ることは人間の寿命的に不可能に近いでしょう。
それでも私は最後まで待ち続ける所存です。

葬送のフリーレンもそれに近い難易度の作品になると私は思っています。

作品が出版されてしまうとその時点で事実が確定するので、後々どんな影響が出るかをすべて計算してから描かないといけません。

それを週刊連載のペースで実現することはほぼ不可能だと思うので、定期的に休載を入れて、しっかりと考える時間が必要です。
場合によっては1~2年構想期間を置いて、2巻分くらい出版して、また1年くらい考察するなどの対応も必要でしょう。

それを小学館が許すかどうかはわかりませんが、本当に良い作品にしたいと思うなら、それくらい期間をかけないと描けない難易度だと思っています。

これまでの話とアニメが素晴らしいからこそ、期待も比例して大きくなっていますから、著者へのプレッシャーは想像すらできないほどです。

だからこそ、ゆっくり時間をかけて描いてくださいと私個人は思います。
自分の納得のいく形で、描き切っていただきたい。
それくらい素晴らしい作品です。



5.現時点までの話を読み終わった感想

2024年4月現在、葬送のフリーレンは13巻まで出ています。

Kindleまとめ買いは、現在実質24%オフになっています。


アニメでは7巻の途中までが放映済みです。


アニメと漫画を両方拝読・拝見させていただきましたが、お疲れ様でしたの一言です。
そして、素晴らしい作品を描いてくれてありがとうございますという気持ちで一杯です。

極めて難易度の高いストーリー展開も間に入っていたので、今後、これまでの事実と矛盾がない連載を続けることがどれだけ難しいのかを想像して、読者でしかない私ですら胃が痛む思いです。
主なストーリー展開は原作者である山田鐘人さんが考えているのだと思いますが、山田さんは2009年頃から漫画家をやっているはずなので、たぶん今は40代~50代で、私より年上でしょう。
まさしくプロの御業です。

様々な人生経験を積んできたからこそ描ける心理描写が光る作品だと感じますし、プロだからこそできるストーリー展開だと思います。
また、大人の視点で描く大人向けの漫画を少年誌で連載するという素晴らしい作品です。
もし自分が葬送のフリーレンを子供の頃に読んでいたとしたら、人生が変わっていただろうなと思います。

私は研究者気質なので、フリーレンの魔法に対する探究心にとても共感します。
その他のキャラクターが見せる魔法に対する真摯な姿勢も大好きです。

そして、こういう頭を使う難易度の高い作品がたまらなく好きなので、今後の人生の楽しみが一つ増えたなと思っています。

自分の人生を賭して、何を見て、何を学び、何を感じ、何を遺すのか。
そういうことを考えさせられる作品です。

30代以降の大人の皆さんにぜひ読んでほしいなと思っています。


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