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花の名をひとつ、覚えてみることにする


それは深みどり色の葉をもつ
楚々とした白い花。小粒な花です。
その花が、山肌の
なだらかな起伏に這うように
ほわほわと、密になって咲いています。
緑の上にできた星空。
私は思わず、足を止めました。



その日は、植物園にある花壇の
手入れをするボランティアに
初めて参加しました。

園芸員の方に案内されながら
参加者のみなさんと
園内を歩いている道中に、
その花を見つけたのでした。

「この花はバイカオウレンといって
春の訪れを、教えてくれるお花なんです。
ちょうど先ごろ見頃を迎えたんですよ。」

と、園芸員さん。
やや丸みを帯びたカタチの五つ花。
内側からすっとのびた繊細な蕊。
なんとも透明感のある、可憐な花です。


「ほんとうに可愛らしい花よね。
バイカオウレン、私も大好きなお花なの。」

声がしたほうを振り向くと、
一緒にボランティアに参加されていたご婦人が
にこやかに目を細めて
花を眺めていらっしゃいました。


「本当に綺麗ですね。
私、このお花は初めて見ました。」

「街中じゃあなかなか出会わない花だものね。
花が梅に似ているから梅花、
根っこが黄色いから黄連っていうの。」

「お詳しいですね。」

「お花の名前って調べてみると
由来も色々で、おもしろくって。
このボランティアに参加するようになって
草花のずかんをよく見ているの。
名前を知るだけで
足下に咲く
ただの植物だった花が、もっと
身近に感じられるようになるっていうか。
気にかけて見るようになるっていうか、ね。」


チャーミングな笑顔。
その目にはやさしい色がひろがっています。

考えてみると私は、
お花屋さんに並ぶような
目を引く花ばかり、ついついひいきして
野に咲く健気な花たちに
目が向いていなかったことに
気がつきました。

早春の風が、ふっと、流れます。
星のような花たちは
その風にやさしくふるえ、
日の光を反射させて
どこまでも白く、白く、瞬きます。



野の花を、出会った花を、ひとつずつ
覚えてみる春にしよう。

心の中で、ひとり
ちいさな約束をしました。



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