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「 もうひとつの居場所 」の物語


「 逃げ出してしまいたい 」




今、そんな想いを抱いている人がいたら
ぜひ手に取ってみて欲しい本がある。

どこか懐かしく、少し切なく、とびきり温かい、
「もうひとつの居場所」を描いた物語。

雲を紡ぐ

主人公は高校生の女の子、美緒。いじめが原因で不登校になってしまう。その繊細さゆえ、うまく気持ちを言葉に出来ず、家族ともすれ違いが続く毎日。心の支えは赤いショールと父の実家のある岩手の、美しい風景を撮った写真だけ。しかしある日、母に大切なショールを捨ててられ居ても立っても居られなくなった美緒は、一人、岩手へと向かう。


特に、単行本120頁から122頁の
おじいちゃんの言葉、とても好き。

岩手の瑞々しく美しい自然と
糸を紡ぐ職人たちの芯通った心、
親子、夫婦の関係の再構築。
読み進めるにつれて
心が洗われていくような感覚になる。
美緒の持つ繊細さと同じように
繊細な感性を持つ人、
ちょっと生きづらいな、と思う人に。

ポプラの秋

父が急死した時、千秋はまだ小学校にあがったばかりだった。母と千秋は知らない町の、大きなポプラのあるアパートへ引っ越すことにする。
大家のおばあさんはちょっと不気味。だけど、少しずつ親しくなると、おばあさんは千秋に不思議な秘密を教えてくれた。アパートで過ごした、短くも濃い時間。それは大人になっても千秋の中でかけがえのない時間だった。


作品全体の空気感がなんとも心地よくて。
その世界観に導かれるようにして
さらさらと読めてしまう。
それでいていつの間にか
心をきゅっと掴まれてしまう、
そんな魅力を秘めた作品。

純喫茶トルンカ / しあわせの香り

美味しい珈琲と落ち着いた時間を味わいに、下町のレトロな喫茶店に集まる常連さん。彼らはそれぞれに、心の傷を抱えている。それでも一杯の珈琲と周りの人たちの言葉に、前を向くきっかけを掴み、人生を歩んでゆく。

純喫茶トルンカが第一作、
しあわせの香りが第二作。

苦味が、珈琲の複雑な旨みを生んでいるように
ほろ苦い経験こそ、味わい深い人生を創る。
そう、教えてくれる作品。

私はとくに「しあわせの香り」の
「午後のショパン」という章がお気に入り。


***

逃げ出したくて
でもそんな勇気はなくて
悔しくて、もどかしくて、
こっそり泣いた。

そんな時私を支えてくれたのは
本だった。
逃げる場所なんて知らない私を
本はいろんな世界へ連れていってくれた。

自分の心が求めていた世界と出逢えた時の
トクトクトクと速く脈打つ胸の高鳴り。
頁をめくるたびに惹き付けられる感覚と
読み終えたとき、胸に漂う心地よい余韻。



私は、お店を開きたい。
いや、開く。ぜったいに。
素敵な素敵な一冊に出逢えるお店。

家でも、学校でも、会社でもない、

“もうひとつの居場所”を探す人たちのために。



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