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セキュリティ・クリアランスとは

機密の技術情報が日本から外国に流れると、大量破壊兵器の開発に転用されたり、我が国の企業や大学の競争力が阻害されたり、様々な問題が生じます。
最近の事件では、今年4月3日、電子機器メーカーに勤務していた中国人エンジニアがスマート農業の情報を不正に持ち出していた、という報道がありました。このエンジニアは中国共産党員で人民解放軍と接点があったことも判明しており、中国にある企業の知人に情報を送っていたということです。しかし、既に出国済みで今後の捜査は難しくなっています。

近年、とくに米国では、中国による情報スパイ事件が多発し、安全保障上重要な技術の流出防止が課題となっています。もちろん、その背景には、技術をめぐる米中の覇権争いが熾烈を極めている状況があります。
日本でも、高市・経済安全保障担当大臣のもとに有識者会議が設けられ、セキュリティ・クリアランス制度創設に向けて検討作業が進んでいます。

「セキュリティ・クリアランス」とは、政府が、個人に対し秘密情報を取り扱う適性を認定すること、あるいは適性があると認定された個人に付与される資格のことを言います。このような制度としては、特定秘密保護法に基づく行政機関職員に対する適性評価制度があります。同法は、「特定秘密」を取り扱う業務に従事する者を、適性評価によって漏洩するおそれがないと認定された者に限定しています。
軍事に用いられる可能性の高い技術を「機微技術」と言いますが、日本では特定秘密に該当しない機微技術の情報保全が不十分で、機微技術に関する国際共同研究に参加できないことも指摘されています。このような背景もあり、現在議論されているのは、適性評価の対象とされていない研究者に対するセキュリティ・クリアランス制度です。

米国では、機密情報を取り扱うことができるのは、セキュリティ・クリアランスを保有する米国市民に限定されています。現在、約400万人のセキュリティ・クリアランス保有者がおり、1年あたり約100万人が新規取得・更新しています。
連邦政府職員がセキュリティ・クリアランスを取得する場合、面談、友人・同僚・隣人等への照会が行われ、ポリグラフ検査(嘘発見機を用いた検査)を実施することもあります。また、ソーシャルメディアの情報なども活用して審査されています。

セキュリティ・クリアランス制度を設けるには、罰則規定など慎重な検討を要する事項もあります。制度設計によっては、研究環境や研究成果の公開を制限してしまう可能性もあり、対象とする技術範囲も課題となります。
科学技術研究に対する制限を最小限にしながらも、安全保障に重点を置いたセキュリティ・クリアランス制度を実現することが、日本が機密情報保護に対する国際的な信用を得るためにも必要でしょう。

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