司法試験・予備試験の戦略(ストラテジー)~①条文の文言を「」で抜き出すことのメリットとデメリットを比較せよ~

こんにちは、あるいはこんばんは。弁護士の寺岡です。
さて、タイトルのとおり。結論から言えば、

条文の文言は「」で抜き出すべき。

まず、民法答案でよく見る要件先出しの答案の例。

Aは、Bに対し債務不履行責任に基づく損害賠償請求(民法415条1項本文)をすると考えられる。かかる請求の要件は、①債務不履行、②損害、③因果関係、帰責性(同項ただし書)である。(以下、「α答案」)

そもそも私は要件先出し不要派ゆえに、こういう答案は好きではないのだが、そのことは後日記事にするつもりである。が、今回はそこがテーマではない。

α答案は、条文上の文言軽視と言ってよい。上記要件のうち、文言として実際にあるのは「債務」「履行」「損害」くらいしかないからである。

では、文言を「」で忠実に抜き出してみよう。すると、こうなる。

…要件は、①「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」、②「これによって生じた損害」、③「債務者の責めに帰することができない事由によるもの」(同項ただし書)でないこと、である。(以下、「β答案」)

これは丁寧。

ただし、ご覧のとおり、端的に言って面倒くさい。さらに言えば、実際上、採点されたときの点数にどう影響するのかも不明。
”「」で抜き出さないと条文を引用したことにはならない”
とはどこにも書いてないからである。

が、試験委員は、私なんかよりも何年も実務家あるいは学者として、物凄くたくさんの法律文書を読んできているはず。そんな採点者にとっては、脳内に

条文の文言は「」で示されているはずだ


という経験則がいわば勝手に出来上がってしまっている。つまり、「」で引用されることが、彼らにとっての”原則”になっていると考えられる。こういう答案は、彼らにとっては読みやすい。逆に法律を勉強したことない方にとっては、読みにくさもあろう。

そうすると、条文の文言に「」がなかったり、条文の文言でもないのに「」が出てきたりすると彼らにとっての”例外”になる。

そして、何より、条文の文言を大切にしていることが読み手に伝わる。これが最大のメリットではなかろうか。
採点者は、当該答案からのみ受験生の力を測ることになる。
α答案を見ると、

ただ要件を暗記しているだけなのかな?

と感じてしまう。ダメではないが、条文に逐一当たっていないのではないか?という疑念はある。
一方、β答案を見ると、この文言をただただ暗記しているわけではなかろうから、現場できちんと条文から書き写してきた、つまり、まさに今六法を見ながら書いているであろうことが推認される。条文の文言を大切にしていることがうかがえる。

もちろん、結局は中身次第であるから、β答案であっても当てはめが全然出来ていないなら点数は伸びない。しかし、この部分だけの比較ではβ答案の方が印象はいいだろう(点数に影響するかは不明だが)。

まとめると、条文の文言を「」で抜き出すことにつき、

メリット
・読み手に伝わりやすい
・試験委員に”原則”の答案として読んでもらえる
・条文の文言を大切にしているという印象を与えられる

デメリット
・面倒くさい
・字数が増える(ただし抜き出し方や論じ方次第で工夫可能)
・「」の有無で点数の上下に直接の影響があるわけではなさそう

ということになる。上記の条文の文言を「」で抜き出し引用するメリットとデメリットを比較考量すると、メリットが上回るように思う。
ちなみに体感だが、ひと昔前(新司法試験が始まった平成18年からの10年くらい)の答案例は、あまり「」がないようにも思える。一方、近年は「」付きの答案を見かける頻度が多くなった。おそらくどこかで転換期があったのではないだろうか。

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