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共通事業所ベースでは実質賃金0.9%減〜2024年3月の毎月勤労統計

 昨日(9日)、「毎月勤労統計」(厚生労働省)の2024年3月分の速報値が公表されました。昨日の日経夕刊は1面で実質賃金の前年同月比マイナスが24ヵ月連続で最長になったと報じ、本日の朝刊でも、今後、インフレ率が高まることが見込まれる中、実質賃金上昇率がプラスに転じることの難しさを伝えています。
 実質賃金のマイナスもさることながら、現金給与総額(名目賃金)の前年同月比上昇率が2月の1.4%から3月は0.6 %へ急縮小している点も気になるところです(結果、実質賃金の下落率も拡大)。ただ、共通事業所ベースだと最近は2%程度の堅調な推移となっています。


日銀は共通事業所ベースに注目

 冒頭の日経の記事でも、以下の通り、共通事業所ベースの数値に言及しています。

賃上げは一定程度は進んでいる。振れが少ない共通事業所ベースの数値でみると、基本給の動きを反映する所定内給与は2.2%上昇した。この数値は植田氏も講演で引用することで知られる。

 総裁が講演で引用しているだけでなく、日本銀行の展望レポート(経済・物価情勢の展望)でも賃金動向の把握には共通事業所ベースの数値が使われています。例えば、最新の4月30日に公表された展望レポートの23ページから24ページにかけての図版では、「2016/1Q以降は共通事業所ベース」という注釈がついています。

ブレが大きい就業形態計の名目賃金上昇率

 共通事業所ベースは、名前の通り、今回も前年同月も調査対象にしている事業所に限って、賃金、労働時間などの変化率を算出しています。
 毎月勤労統計で注目度が高い、就業形態計(一般労働者+パートタイム労働者)の名目賃金上昇率は、様々な要因でブレます。サンプル調査であるため、今年の調査対象は前年同月の調査対象と完全に合致はしないことも理由の一つです。詳しくは下記のnoteをご覧ください。

 そのため、私のnoteでは、一般労働者の所定内給与増加率とパートタイム労働者の時間あたり所定外給与(時給)増加率と共通事業所ベースでみた就業形態計の名目賃金上昇率に毎月注目しています。

共通事業所ベースだと名目賃金上昇率は2%前後

 下の図は就業形態計の名目賃金上昇率について、全サンプル(報道で真っ先に書かれるやつ)と共通事業所ベースを比較したものです。
 共通事業所ベースは2023年10月に2.6%を記録した後、2024年2月が1.9%だった以外は2%以上で推移しています。2024年3月は2.2%で、全サンプルより1.6ポイントも高いです。結果、実質賃金の下落率は0.9%減となります。

 労働時間の影響を受けやすいパートタイム労働者を除いた、一般労働者の名目賃金上昇率で同様の比較をすると、両者の差は縮まるものの最近は全サンプルの方が下振れしています。2024年3月は共通事業所ベースが2.2%に対して、全サンプルは0.8%でした。

パート時給増加率は5%乗せ

 いつものように、一般労働者の所定内給与増加率とパートタイム労働者の時給増加率を確認しましょう。
 日経の記事でも言及してますが、パートタイム労働者の時給増加率は5%に乗せました。年平均でみると2020年の3.9%を上回る伸びになっています。
 一方、一般労働者の所定内給与増加率は2024年3月は1.9%でした。1%台後半の推移が続いています。ちなみに、共通事業所ベースでみると一般労働者の所定内給与増加率は2023年9月以降、2%超えを続けており、2024年3月は2.3%でした。
 残念ながらこれでも物価上昇率には届きませんが、賃金上昇率は意外と高くなっているのではないでしょうか?

なぞの労働時間減少

 今月の結果を見ていて、現時点で残された謎が一つあります。
 総実労働時間の減少率が急に拡大していることです(下の表の赤字部分)。パートタイム労働者比率が上昇すると労働時間が減少する就業形態計だけでなく、一般労働者でも3月の総実労働時間の減少率が急拡大しているのです。

 総実労働時間は、所定内と所定外(いわゆる残業)に分けられますが、所定内労働時間の減少率も急拡大しています。就業形態計では▲2.6%、一般労働者は▲2.5%です。出勤日数も就業形態計で▲0.3日、一般労働者で▲0.5日となっており、出勤日数が減ったことが影響していると思われます。ただし、パートタイム労働者は出勤日数が前年同月と変わりなく、総実労働時間の減少幅も▲2.0%と最も小さいです。
 また、所定内労働時間の減少は共通事業所ベースでも同程度観察されます(就業形態計は▲1.9%、一般労働者は▲2.1%、パートタイム労働者は▲1.2%)
 一般労働者は、パートタイム労働者ではない労働者全員なので、必ずしも正社員ではありません。パートタイム労働者の定義も「1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い者」となっていますが、何時間以内という明確な基準はないようです(以前、学生から質問されて厚生労働省に聞いたらそう説明されました)。ですので、一般労働者の中で比較的労働時間の短い人が3月に増えた(共通事業所ベースでも)可能性はありますが、どうでしょうかね?それとも、今年の3月、休日多かったですか?

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