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”リベンジ消費”どこまで期待できるの?

 このところ”リベンジ消費”という言葉をよく耳にします。コロナ禍の行動制限などで抑制されていた個人消費がいよいよ動き出すというものです。コロナ禍で給付された1人10万円の多くが貯蓄に回っていたものの、その取り崩しも始まるのではないかとの期待もあります。

 本日、日経電子版にアップされたNQN穂坂デスクの以下の記事でもリベンジ消費が取り上げられています。ちなみに、この記事は6月下旬にQUICK端末に流れ、7月10日に日経ベリタスに掲載されたものだそうです。私もコメントを使っていただきました。

家計可処分所得・家計貯蓄率四半期速報に見る平均消費性向
 "リベンジ消費”がどれだけ進んだかが確認できるのが、GDP統計ベースでみた貯蓄率の動向です。言い方を変えると平均消費性向(=1ー貯蓄率)で、自由に使えるおカネ(可処分所得)に対して、どれだけ消費が行なわれたかを示したものです。GDP統計ベースの貯蓄率や平均消費性向の正式な値は、毎年末に公表される「年次推計」で明らかになりますが、内閣府は参考系列として「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期速報」を公表しています。5月中旬に成長率の速報が公表された2022年1~3月期については7月中下旬に公表予定のようです。2021年10~12月期までの平均消費性向の推移は以下のグラフの通りです。

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 コロナ禍が始まった2020年春前後からの個人消費は、複雑な動きとなっています。まず、2019年10~12月期の平均消費性向の急低下は、2019年10月の消費税率引き上げの影響が出ています。コロナが無かったら2022年1月には平均消費性向が持ち直したかと思われますが横ばいにとどまり、緊急事態宣言が発令された2020年4~6月には78.1%まで急落します。この時、全国民に1人10万円が給付されて可処分所得が大きく増えた(前期比10%増)ことで分母が大きくなったことも平均消費性向の急落につながりました。その後、平均消費性向は90%程度で推移しており、コロナ前の水準に回復できずにいます。この間、毎月使い残されたおカネが蓄積されており、”リベンジ消費”の原資になるのではないかと期待されているわけです。

2022年4~6月期は個人消費の盛り上がりに期待
 さらに、2021年10~12月期まで平均消費性向が90%にとどまっていたのは、感染拡大を防ぐための様々な行動制限も影響しています。今年のゴールデンウイークは3年ぶりに緊急事態宣言等がなかったこともあり、2022年4~6月期には個人消費が盛り上がるのではないかと期待されています。日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」の最新の集計(7月12日公表)では2022年4~6月期の実質GDP成長率は前期比年率3.18%と見込まれていますが、この原動力は前期比1%台半ばの伸びが期待される個人消費となっています。2022年4~6月期の個人消費の1次速報が判明するのは8月15日、平均消費性向(貯蓄率)がわかるのは10月中下旬とまだ先ですが、注目していきたいと思います。

”リベンジ消費”を見通すうえで気になる、平均消費性向の長期的推移
 さて、2022年7~9月期以降の中長期の”リベンジ消費”を見通すうえで、私が気になっているのが2014年1~3月期を境に、GDPベースの平均消費性向が低下傾向に転じたのではないかというものです。そもそも、GDP統計ベースの平均消費性向が上昇トレンドにありました。高齢化が進み、年金など毎月の所得だけでは個人消費を賄えず貯蓄を取り崩す家計、言い換えれば平均消費性向が100%を超える家計が家計全体に占めるシェアが年々上昇しているためです。このため、日本もいずれは平均消費性向が100%以上(貯蓄率がマイナス)になるのではないかとのレポートが盛んにリリースされていました。特に平均消費性向が急上昇(貯蓄率が急低下)した2000年、2001年には盛んでした(ただし、この時の急上昇には統計上の理由がありました。下記リンクのレポートをご参照ください)。

 冒頭にご覧いただいた平均消費性向のグラフをご覧ください。GDP統計ベースの平均消費性向は、2014年1~3月期の103.1%(つまり貯蓄率はマイナス)から緩やかに低下しています。2014年1~3月期は消費税率が8%に引き上げられる直前の駆け込み消費があったと考えられ、その反動も含まれますが、それにしても長期の低迷です。この間、可処分所得は緩やかながら増加傾向にあったため、平均消費性向の低下は個人消費の伸び悩みが主因です。さらに、2019年10月には消費税率が10%に引き上げられましたが、平均消費性向を見る限り、その前の駆け込み消費ははっきり観察できず、前述したように2019年10~12月期の反動減が目立つ形になっています。

家計調査の平均消費性向でも確認できる消費性向の低下傾向
 2014年以降の消費性向の動きを「家計調査」(総務省)でも確認してみましょう。家計調査ベースの平均消費性向は、GDP統計ベースと概念が違う部分があったり、新聞等でよく取り上げられるのが勤労者世帯のみだったりするのですが、可処分所得の大きさや世帯主の年齢別の推移がわかるのが便利です。下の図で示したように、家計調査で見た平均消費性向も2014年を直近のピークとして低下を続けています。

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 この傾向は可処分所得の大きさの違いグループで見ても大きく変わりません。強いて言えば、可処分所得が少ない世帯(それだけ貯蓄をする余裕が小さいと考えられる)の平均消費性向の低下が始まったのが2019年からという違いだけです。
 世帯主の年齢階層別で見たのが下記の図です。年齢階層の分け方が2015年から変わったので、2015年から2019年の動きを見ています。どの年齢階層でも平均消費性向が低下していますが、低下幅がとりわけ大きいのが60代前半と60代後半、そして34歳以下の階層です。60代前半や後半は、企業の継続雇用や再就職などで年金以外の収入を得ている層なので多数派といえるか微妙ですが、34歳以下の動きは気になるところです。これから経済の中心になっていく世代で節約ムードのようなものが広がっているとすると、”リベンジ消費”の行方も必ずしも楽観できないかもしれません。

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