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縮小するまちづくりと教育の関係性はどのようになっているのか?

【はじめに】
 超高齢化社会では、多くの研究者や専門家が指摘するように、有権者の大半はシニア層なので福祉政策の充実など高齢者が優遇される社会となり、場合によっては若者と高齢者の世代間の衝突があるだろうと言われてきました(例えば大野2008)。

 しかし、私の住む秋田県五城目町の2020年の総人口に対する65歳以上の割合(高齢化率)は47.3%で、全国平均の28.7%よりも18.7も高い五城目町はその超高齢化社会ですが、そんな世代間の衝突を私は肌で感じることはなく、最も人口が少ない層である子どもに焦点をあてた施策が次々と打たれていることに驚きながら生活しています。そしてそんな五城目町からの官民問わず様々な情報発信が近年増えていることからか、「五城目町では子どもたちの教育に対して熱心に政策や取組み行われていますが、何故それがシニア層に受け入れられているのでしょうか?」と問いかけられることがよくあります。また、最近地域づくりが活発なまちにおいては『教育』に力を入れている場所(例えば神山町や海士町など)が多いと感じる人が増えているからか、「地域活性化には、どうして教育とまちづくりがつながってくるのでしょうね?」という議論も多くみられるようになりました。

 本記事では、当方の研究内容である縮小するステージにある持続可能なまちづくり(主に都市を対象)と、実際に秋田県五城目町に住みながら私が体感していることをふまえて、何故まちづくりが活発なところは教育に熱心に取り組むのか答えていくことに挑むと共に、まちづくりにおいての教育の位置づけ・役割について考えてみたいと思います。
 
【これまでのまちづくりの流れの変遷】
 近年まちづくりの分野では、サステイナビリティ・レジリエンス・ウェルビーイングのような社会の規範や方向性を示す概念に関するものから、教育や人づくりと言った「人」に焦点をあてたもの、文化風習・食・ライフスタイルなど「住む人の暮らし」に着目したものが多くなってきているなと感じています。これは、これまでの学術論文の傾向から感じてきたと同時に、私の所属研究室のゼミに出ていても日々感じていることです。そして、この流れは都市でも農山村でも人が住んでいるところにおいては同じ現象だなと感じています。

 これまでの人口が増加する環境下でのまちづくりは、(特に都市側では)増加する人口に対していかに早急に住宅を供給し、必要な都市機能(公共交通・基礎インフラ・公共施設など)を効果的に整備していくかということに主眼が置かれていました。そのため行政や公的機関が主導し、トップダウンでまちづくりを行われている体制が構築されていきました。また、人が多くなればなるほどルールや規制を動員して町の開発の秩序を保つ必要がでてくるため、都市側は拘束力のある規制や努力目標とされる地区条例も増えて複雑化します。よって、都市計画分野では専門が細分化されていくと同時に内容も高度化し、どんどんとまちづくりに対するアプローチはアカデミアも行政でも縦割りで分断しがちなものになってきたのが、これまでの状況でした。
 一方で、これからのまちづくりを考えた時、人口や人がまとまって住むエリアが縮小していくことをふまえると、この高度に複雑化し縦割りで分断したまちづくり制度・体制では対応できない課題が多くなってきているのが現状です。また、まちが縮小していくフェーズに入るにあたって、これまでのように都市を人口の予測に従いなるべく効果的・効率的に都市空間を整備していくというより、既に整備された都市はそれぞれにもう特徴があり個性もあるので、その都市にこれまで住んできた人の暮らしに合わせ、都市を小さくしながら持続可能なカタチに修正していく必要があります。
 よって、これまでのトップダウンで公的機関が主導するまちづくりではなく、アカデミアや行政の人たちに加え、暮らしている人々みんなも含めて、まちをどのように持続したいのか考えるフェーズに入った私たちは、全員をつなぐ合言葉が必要となってきていて、それが近年のまちのサステイナビリティ・レジリエンス・ウェルビーイングといった、全ての人たちを横でつなぐ規範や方向性を表す概念に注目が集まり、人々の関心を惹きつけているのではないかと思っています。また、これまでのまちづくりではトップダウンな都市計画が主流だったものが、住民参加型の都市計画をしていた時代をへて、その後住民が主体となり積極的にまちづくりに関与し、今度は行政が「参加する」立場になるという流れが現在でき始めているとの指摘もあります(小柴2022)。つまり、住民にまちづくりのオーナーシップがあり、住民による暮らしをより良くしようという活動が活発な地域であればあるほど、行政・アカデミア・住民の連携がシームレスで、既存の様々なまちのシステムがそのまちにあうカタチに整えられていく動きがあるように感じています。
 またもう少し見方を変えると、先ほど述べたようなみんなの合言葉を冠にまちの今後を議論しているところと、住民の目に見えるところで生活に根ざして修復されているまちづくりと、双方が交わるところでまちづくりの制度・計画などが更新されている流れにあるのではないかとも考えています。よって、縮小するフェーズでのまちづくりは、これまでの都市の拡大期に見られていたような割と全国的に統一されてたまちづくりの施策・計画から、各々の個性を活かしつつ調整していくまちづくりへと変遷してくと考えています。なので、日本の都市風景はどこも結構似通っていると言われてきたこれまでの批判(?! 例:駅前空間はどこの地方都市に行っても一緒など)から一歩も二歩も出て、縮小していく過程で個性際立つまちが今後は沢山で出てくるのではという期待もあります。
 

【まちづくりと教育はどのように関連しているのか?】
 前置きが長くなってしまいましたが、では、まちづくりと教育はどのように関連しているのでしょうか?教育というと小学校や中学校などの公教育のことを指していると捉えられがちですが、本来教育はもっと幅広い意味を持ち、社会教育という言葉で表現もあるように住民全体が学び合うことで地域とつながるための紐帯としての役割も担い(荻野2022)、教育は公教育=フォーマル教育だけでなく、インフォーマル教育やノンフォーマル教育と言った教育も含まれます(Haim 2007)。よって、教育の役割は住民自身の学びだけでなく、学び合いからコミュニティの活動が豊かになり関係基盤の形成を促し、地域の社会関係資本の醸成につながるとの指摘もありました(萩野2022)。
 確かに上記の指摘はそうだなぁと思いつつイメージをもう少しクリアするために、ひとまず教育を広く捉えた上で縮小していくまちの最先端である秋田で私自身が思うことは、教育は(単によい大学や高収入な仕事に就くためといった、もはや個人的な領域に留まらず)町のこれからの未来を考えていくための土台であり、これが豊かな基盤であること(=関係基盤)や広くひろがること(=社会関係資本)で、その地域の教育の可能性がより高まっていく(=地域の豊かさと教育の質が相互に関係しあう)ではないかと考えています。
 
 私の住む五城目町の話で考えてみると、まちに暮らす人たちが日々会話を交わし、自分たちが得意とすることで沢山のまちを豊かにするアクティビティが生まれています。そして、住む人たちが知恵を出す・考える作業に必要となってくるのが知りたい・学びたい・考えていることを整理したいという欲求です。五城目町は大人も子どももこのような学びへの欲求が高いと感じていて、住民の自主的な勉強会やワークショップ、大人も子どもも一緒に取り組む学び合いが活発です。そのため、小学校や中学校といった公教育に対する眼差しも質が高いだけでなく、町民自身が町のことを学ぶ機会をつくろう・知恵を伝えていこうという動きも活発です。そのため住民と学校や教育委員会ななどとの連携も自然で重層的だなと感じています。このような状況をみていくと、教育というのは地域を発展させるための土台として機能するのだなと体感として日々感じることができます。
 
 もっとイメージを分かりやすく伝えるために、私の具体的な事例で話すと、私自身は五城目町に引っ越してからの方が、自分のこれまでの職歴や研究の内容などを話す機会が格段に増えたと感じています。町の人たちの知りたい・学びたいという真っ直ぐな気持ちを感じながら沢山のディスカッションをさせてもらっていますが、サステイナビリティやウェルビーイングとは何なのか?都市政策・都市計画で今多く語られていることはどんなことなのか?地域の人たちと会話する機会が多く、頻繁に大学のゼミをやっているような感覚で、町からは多くの視点や考え方をもらいました。それが五城目町での生涯学習講座「みんなの学校」での私の講座や、様々な講演で話す内容に活かされています。また町内は国内外からの訪問者も多く、ここでは常に名刺は携帯して直ちにお渡しできるようにしているし、FacebookなどSNSにてお互いのプロフィールや考えていることを見せ合うことも頻繁です。常に同業種・異業種交流がある中で、タイミングを合わせて研究や仕事の発展に必要な方をご紹介頂く…という展開も多く起きています。私は自分の専門分野と視点を拓くための情報を常にインプットして整理しつつ、人に会いながらアプトプットする作業を繰り返し、大学というフォーマルな研究機関に在籍しつつも、地域の中から頂く学びの質の高さには時折圧倒されるくらいです。これは、地域に住む人々の多くが常に学びのアンテナを高く持ち深く洞察し、様々な分野へのリテラシーが高いことが影響しています。そして、こんな日々の学びから生まれてくる具体的な地域の社会活動やビジネスは非常に完成度が高いです。更には町内の学校の公教育は、そんな大人の働き方や生き方を日々の授業に積極的に取り入れ、学校教育の質だけでなく、その先の未来までも自由に描けるようなカリキュラムが、公教育の中ですら地域の中から生まれる学びの循環ができてきています。
 
【さいごに】
 このような学び循環の流れの中で考えると、地方創生や地域活性化の文脈でよく言われる「人づくり」「関係づくり」に対して、教育は地域に広く重要な役割を果たしていると言えます。五城目町は「世界一子どもが育つまち」というスローガンを掲げていますが、これは子どもだけに焦点をあてたまちづくりをしていくというメッセージなのではなく、子どもがよく育つということは大人も子どものように伸び伸びと育つまちであるということであり、地域の「人づくり」に直結します。そして子供が「安心して」育つまちというのは人同士の関係性(=社会関係資本)や自然との関係性も豊かにつくっていこうという方向性も含まれていると日々町で生活しながら感じています。
 
 まちづくりと教育はどのように関連しているのか?という問いに答えることを目的に、現在のまちづくりの議論のターニングポイントもふまえながら思考を巡らしてみましたが、これから都市も含めてまちが縮小していく時代において、それぞれの町が各々の町らしく、そこに住む人々がより心身ともに豊かに暮らすまちづくりにつながるよう、私自身も研究を進めていきたいと思っています。
 

【参考文献】
大野英敏 (2008) シュリンキング・ニッポン 縮小する都市の未来戦略 鹿島出版会
小柴直樹 (2022) 人をつなぐ 街を創る 東京・世田谷の街づくり報告 共栄書房
荻野亮吾 (2022) 地域社会のつくり方 社会関係資本の情勢に向けた教育学からのアプローチ 勁草書房
Haim Eshach (2007) Bridging In-school and Out-of-school Learning: Formal, Non-Formal, and Informal Education, Journal of Science Education and Technology, Vol. 16, No. 2, April 2007, DOI: 10.1007/s10956-006-9027-1

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