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「誰一人取り残されない」教育に向けた不登校対策。小学校スクールサポーターも募集中!

 戸田市教育委員会 戸田市立教育センター所長の杉森と申します。
 これまで、戸田市教育委員会や埼玉県教育委員会の指導主事、前職では市内小学校の管理職を務め、現在は教育相談や特別支援教育を所掌する教育センターを統括しています。
 今回は、令和4年度に戸田市が特に力を入れている不登校児童生徒を支援する総合的な構想である「戸田型オルタナティブ・プラン」について紹介いたします。

1. なぜ不登校対策?

 不登校が全国的な課題になっていることは、すでに多くのメディアでも取り上げられているところかと思います。
 令和2年度の文部科学省による調査では、日本の小中学校において、不登校の児童生徒を含む「長期欠席者」の数が、過去最多である約29万人(287,747人)に上ることが明らかになりました。
 そのうち、不登校児童生徒数は約20万人(196,127人)であり,不登校児童生徒数は8年連続で増加し,過去最多となっています。
 その要因は多岐に渡りますが、中でも大きな課題として捉えていることが、どの機関ともつながっておらず、相談や支援を受けていない子が3割以上いることです。
(出典)「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」,令和3年10月13日,文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf

 平成28年度に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法)が公布・施行されたことなどにより、学びの機会を多様にし、一人一人に学びの場を提供することが求められています。
 そのような中、戸田市では、学校復帰のみを目指すのではなく、児童生徒の社会的自立を促すことを目標として、「誰一人取り残されない」教育を実現するため、不登校対策に重点を置いた取組を進めています。

参考)「不登校に関する調査研究協力者会議(令和3年度)報告書(概要)」令和4年6月10日別添1

 「不登校」と一言で言っても、様々な背景や要因があり、何か1つの手を打てば全ての不登校児童生徒に効果が出る、「魔法の杖」のようなものがある訳ではありません
 このため、本市では、不登校やその傾向がある子供達も含め、一人一人のニーズに応じた「多様な学びの場」の選択肢を用意していくこととしています。

2.戸田型オルタナティブ・プランって?

 オルタナティブ・プランの目標は「誰一人取り残されない教育の実現」です。
 この「オルタナティブ」には、「代替の」「新たな」という意味があり、「こども達に新たな居場所を」という願いをこのプランに込めています。

 小さなサインを「科学の視点」で見つけ出し、不登校や長期欠席の「未然防止」「早期発見・早期対応」「適切な支援」を目指します。
 このプランは、次の大きく3本の柱で構成しています。

 一つ目は、「不登校を『支援』する」ための、戸田型校内サポートルーム「ぱれっとルーム」等の設置事業です。学びの選択肢を多様にする取組です。
 二つ目は、「不登校を『科学』する」、不登校対策ラボラトリー「ぱれっとラボ」設置事業です。データを活用して不登校の予兆を捉えたり、児童生徒のSOSに早期に気付けるようにしたりする取組です。
 三つ目は「不登校を『理解』する」ための社会に開かれたネットワーク構築事業です。不登校については、周りにいる大人の理解も重要です。不登校について正しい理解を広めるための取組です。

 この後のセクションでは、このオルタナティブ・プランに沿った取組を順次説明していきます。

3. 昨年度までの取組は?

 これまでも、戸田市では、全中学校にさわやか相談室を設置し、市費の相談員「さわやか相談員」や「ボランティア相談員」、さらにはスクールカウンセラー等を配置するなど、生徒に寄り添いながら、心の悩みを共有したり、不登校の未然防止を行ったりしてきました。

 また、校外の学びの場として、教育支援センター「すてっぷ」による支援を行ってきました。
 本市の「すてっぷ」の特徴は民間企業に業務委託を行っていることです。フリースクールなどを運営していて、専門的な知見やノウハウをもっている民間企業の力を得て、児童生徒への支援を行っています。
 学校には行くことができていないけれど「すてっぷ」なら行けるという児童生徒もおり、大きな役割を果たしていると感じています。

 さらに、児童生徒の多様なニーズに応えられるよう、各小学校や市の教育センターに心理士を配置し、相談体制の充実を図っています。さらに、SNS相談も市独自で実施しており、LINEやtwitterで相談を受けられるようにし、専門のカウンセラーが対応しています。

4. 戸田型校内サポートルーム「ぱれっとルーム」の設置

 そして、今年度、戸田市内の小学校3校に戸田型校内サポートルーム「ぱれっとルーム」を設置いたしました。

 教室に行きたくてもいけない児童が安心できる居場所、気持ちが落ち着かない児童のクールダウンのための居場所、そんなところが「ぱれっとルーム」です。

 設置したどの学校も毎日3~4名の利用者がおり、活用が進んでいます。設置して約半年の時点ではありますが、昨年度まで不登校であった児童が登校できていたり、ぱれっとルームで過ごしつつ少しずつ学級の授業に出られたりしている児童がいることから、早々に設置の効果が出ています。
 また、オンラインで在籍学級の授業に参加するなど、活用の幅も広がってきています。

5.県立戸田翔陽高校内生徒支援教室「いっぽ」の設置

 戸田市では、学校外の支援の選択肢も増やしています。前述の「すてっぷ」の他に、埼玉県教育委員会と連携し、県立の高等学校内に市内の生徒支援教室を設置しています。その名も「いっぽ」。学校に行きたくても行けない生徒の新たな一歩・きっかけとなるよう、願いが込められています。

 スクールカウンセラーとの相談は5月から実施し、9月からは市内の中学校の教員も関わり学習支援が始まりました。
 この「いっぽ」も生徒の学びの選択肢として、効果的に活用されることを願っています。

6. メタバースを活用した学習支援・教育相談

 さらに、学校内でも学校外でもない支援の場として、認定NPO法人カタリバと連携し、オンライン上の教育支援センターを活用することとしました。
 NPO法人カタリバとは個人情報の保護を含め、連携内容について協定を結び、8月中に準備が整ったところですので、これから実際に児童生徒の支援を始めていきます。

 カタリバの強みは、オンラインの教育相談や学習支援ができるだけでなく、個別の支援計画に基づき、児童生徒一人一人を伴走してくれるメンターがつくことです。
 room-Kに参加する児童生徒とは、面談や訪問等により学校とのつながりを切らないようにすることや、カタリバとの定期的な情報共有による児童生徒理解を大事にしながら進めていきます。

7. ぱれっとラボ

 オルタナティブ・プランの2本目の柱は、データを活用した不登校対策の支援です。
 「不登校を『科学』する」をモットーに、データを活用して児童生徒のSOSに早期に気付けるようにしたいと考えています。

 一例としては、学校生活に関するアンケートを従来の紙のアンケートからデジタル化し、生徒はタブレットで回答(もちろん家でも回答可能)、最短で即日集計されたものが学校に返却される仕組みです。
 心配な要素がある生徒にはフラグをつけて返却されることから、教員の気付きの助けにもなります。
 また、データで蓄積することから、経年で追っていくことも可能となります。

 これは一部分の取組であり、教育総合データベースの取組にも関連してきますので、過日投稿した内容に詳細は譲ることとします。

8. 不登校について考える会

 最後に、3つ目の柱のネットワーク構築事業です。
 一言で言うと、不登校についての理解、これを広めたいと考えています。

 不登校、というととてもマイナスなイメージに捉えられがちです。
 この多様性の時代、学校での学びが合わない、選択しないという児童生徒も一定数いることは国の資料でも報告がありますし、経験則でもイメージできるところかと思います。
 先に述べた教育機会確保法の施行により、多様な児童生徒への多様な選択肢を用意することが求められています。

 大事なことは、児童生徒が学びの場を選択できることにあると考えます。
 学校での学びはとても重要な要素を含んでおり、学校で学んでほしいという思いはあります。
 しかし、学校に行かないことで、児童生徒たちの学びの機会まで失われてしまうのはとても残念なことだと思います。なぜなら、我々の目指すところは児童生徒が学校で学習することのみではなく、児童生徒が社会的に自立していくところにあるからです。

 子供が学校や社会に合わせるのではなく、学校や社会が子供のニーズに合わせて変わっていくべきなのではないでしょうか。そのための手立てや選択肢の一つとして、これまで紹介してきたような取組があります。

 そんな不登校についての前向きな考えを児童生徒自身だけでなく、身近にいる大人も持つことができたら、不登校になっている児童生徒の見方も少し変わってくるように思います。
 そのような願いをもち、今回開催するのは「戸田市 不登校について考える会 ~一人ひとりを大切に~」です。

 講師に認定NPO法人カタリバの今村 久美代表理事をお招きして実施するほか、不登校の経験がありつつ、現在高校生としてあるいは社会人として活躍している方からも話を伺います。
 フリースクールやサポート校などの協力も得て、進路のことや学校外の学びの場についても個別に相談する場を設けます。

9. 今後の展望は?

 ここまで、随分と長く書いてしまいました。最後にお伝えしたいことは、この事業に込めている思いです。

 児童生徒は未来を創る宝です。一人ひとりが大切な宝です。
 その大事な児童生徒が誰一人取り残されないような教育を実現することが我々の使命だと思っています。
 色々な学びや学び方があっていいと思います。様々な経験や環境が人を育てます。
 ただ、どんな形であっても、児童生徒にとって、「社会との関係が切れないように」「人とのつながりが切れないように」「学びを届けられるように」したいというのが私達の願いです。

 色々な事情があって不登校を選んだ児童生徒も含めて、戸田市の児童生徒全員が学びの機会を得て、それぞれの特長を生かして社会で活躍できるように、これからも支援をしていきたいと考えています。

10. ぱれっとルームで働く小学校スクールサポーターを募集中!

 4.で紹介したぱれっとルームについては、成果や対象者数の増加傾向を踏まえ、全校拡大に向けて準備を進めているところです。
 そしてまさに今、ここで働く新規のスクールサポーターを9名、募集中です。

 週3~4日で1日6時間、子供たちの安心できる居場所づくりに携わってみたいという方、是非以下リンクより詳細をご確認の上、応募いただけると幸いです!


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