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私の好きなゲーム攻略本『ドルアーガの塔のすべてがわかる本』

あけましておめでとうございます(4月)。
なかなかnoteに新記事を書けておりません。
そんな中、HDDを漁っていたところ、過去に書いた原稿が出てきました。たぶん某研究所さんに寄稿するつもりで書いたものと思いますが、特にやりとりした記憶もないので、きっと書いたまま投稿せず放置していたものと思われます。
読み返してみると、けっこうまとまっている原稿だったので、せっかくですしここに公開してみることにしました。

1983年に発売されたファミリーコンピュータは、当時の子供たちの間に大ブームを巻き起こしました。
子供たちは「ゲームをクリアする、先に進む」ことに夢中になり、やがてそれは「友達とスコアや進捗を競う」というコミュニケーションの一助となっていきました。
早い話が、ゲームでもみんな「俺の方がすごいー!!」と勝ち誇りたかったのです。

市場が広がり、タイトルも増えていくと、ついには「今後発売予定のタイトルを知っている」という知識すら、友達に自慢し優越感に浸れる材料となったものです。僕もその知識を得たいが為に、当時デパート勤めをしていた叔母に頼み込んで、わざわざおもちゃ売り場の店頭に貼り出されていた発売スケジュールを、メモして教えてもらっていたほどでした。

そうした「友達に自慢し優越感に浸るための知識」の中心は、やがて「裏技」に移行していきました。『ロードランナー』(ハドソン)の透明レンガのようなバグから、『ゼビウス』(ナムコ)の隠しコマンド、果ては『エキサイトバイク』(任天堂)の「F-1カー出現!」と言い張った表示の乱れまで、さまざまな裏技が発生方法とともに流布されました。
それを「知っている」「試した」「成功した」という経験は、それを知らない友達に対する強力な自慢要素となり、その未知の領域をひけらかすことは何よりの悦楽だったのです。

そんな「裏技ブーム」真っ只中に、鳴り物入りでファミコンに登場したタイトルが、『ドルアーガの塔』(ナムコ)でした。

※画像はニンテンドー3DSバーチャルコンソール版

なにせ全60階構成で、そのほとんどの階に最低ひとつは「裏技」が存在するシロモノ。その一点で飛びついた子供も、当時は多かったと思います。さらに、エンディングで「裏ドルアーガ」の存在も明かされ、実質的な謎はさらに2倍にも増幅されました。
ただ、アーケード版では全くのノーヒントの中、試行錯誤と情報交換で解き明かした偉業が聞かれたのに対し、ファミコン版では発売と同時に「攻略本」が多数出版され、攻略本を見ながら遊ぶことが標準的なプレイスタイルとなりました。
ともかく、友達よりも「知っている」「試した」「成功した」ことが多いほど、畏敬の念を集められた時代。みんなこぞって攻略本を購入し、それでもなお手強いゲームに挑んでいきました。


僕は当時、『ドルアーガの塔』は持っていませんでしたが、友達のM君が持っており、ちょくちょく借りて遊んでいました。
そして、借り物であるはずのゲームを進めるのに、自腹で攻略本を買いました。それが『ドルアーガの塔のすべてがわかる本』(アスキー出版局、現:KADOKAWA)でした。

この本を選んだ理由は、とにかく「安い」こと。同時期に勁文社が「ゲーム必勝法シリーズ」として豆本を多数出版していましたが、ドルアーガの攻略本は380円。対して、『ドルアーガの塔のすべてがわかる本』は最安値の300円です。1/144のガンプラと同じ価格というのは、子供にとって至極明快な判断基準でした。


ただ、最も安価な攻略本でありながらも、内容はフルカラー。1ページ内にフロアマップや攻略法が要点をまとめて詰め込まれ、写真やイラストもふんだんに盛り込まれたわかりやすい構成でした。
さらに、最下段には攻略にまったく関係のない「格言」や「クイズ」が掲載されるなど、バラエティ豊かで密度の濃い構成でした。


また、この本には「東府屋ファミ坊」や「水野店長」といった執筆者陣が、イラストで掲載されておりました。しかし、この当時はまだ『ファミコン通信(現:ファミ通)』は創刊されておらず、パソコン雑誌『ログイン』のコーナーのひとつとして連載されておりました。そのため、この時点ではまったく馴染みのない方々でしたが、それでも活字がひたすら並ぶよりはキャッチーな作りであり、子供にとっては「わからないなりに親しみやすい」と解釈されたものです。


そして何より、僕は冒頭の2ページ見開きに書かれた、本作のストーリーに強く惹かれました。

本作の背景にある、王国の敗戦と主人公たちの隷属、天に届く塔の建造、天の怒りによる塔の崩壊とドルアーガの復活、そして先んじて遣わされたカイが捉えられ、それを救いに行くギル――という一連の描写は、子供にとって初めて神話に触れたのと同じくらいの衝撃を、僕にもたらしました。
子供の僕は、『ドルアーガの塔』の開発者が『ゼビウス』と同じ遠藤雅伸氏であることや、その『ゼビウス』のバックボーンとして、遠藤氏が小説「ファードラウト」を書いたことなど、まったく知る由もありませんでした。そのため、ゲームの背景にここまで練り込まれた物語が存在することが、まさにカルチャーショックでした。
それらもあいまって、この本が『ドルアーガの塔』の世界を好きになるきっかけでもあったのです。


なお「裏ドルアーガ」に関しては、本書は序盤のヒントを掲載するに留まり、具体的な解法には触れていません。しかし、空白のある文に、選択肢にある言葉を当てはめ、正しい出し方を解き明かす「虫食い問題」形式で、出し方がユニークに示唆されています。
その選択肢にも、まったくゲームと関係のないキーワードが盛り込まれているのが、当時の「ログインらしさ」と言えましょう。


この『ドルアーガの塔のすべてがわかる本』の助力を得て、僕は無事に『ドルアーガの塔』をクリアできました。
そして、それ以上に『ドルアーガの塔』という作品の魅力に取り憑かれ、今に至ります。ファミコン版はゲームスタートの際、スタート地点が必ず最下段の中央になります(アーケード版は毎回変わります)が、それすらも「敵の本拠地に真正面から乗り込むギル」と、脳内設定を決めつけるほど入れ込みました。

最初に買った攻略本が違っていれば、もっと異なるハマり方をしたかもしれませんし、結果的に人生の大部分を捧げることもなかったかもしれません。
そんなきっかけとなったのが、この攻略本なのです。

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