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あなたがハンバーグで私が生姜焼きであるなら

「俺に出来ないのはアイロンだけだな」
そうドヤる夫に、
「アイロンだけ、だと…?」
とキレたのは何年前か、いや、キレた覚えはないな、心の中で噴火しただけかもしれない。

ここ最近、『名もなき家事論争』というのはとてもよく見かける。
誰ぞ言い出したか、名もなき家事。
名もなき歌、名もなき絵、名もなき料理に、名もなきバラン。いやバランは名前だ。
お弁当で、ハンバーグと卵焼きを隔てたりしてるあいつだ、つまり、名もなき家事とはそういうことだよ、人知れずせっせと働いているあいつだよ。


シャンプーが勝手に満タンになってると思うなよ、ペットボトルのラベルが勝手に剥がれてゴミ箱に収まってると思うなよ、洗濯物が勝手にタンスに向かうと思うなよ、掃除機のフィルターが……もういいですか?いいですね、聞き飽きてますね。


ところで、夫がドヤるのは、一人暮らしの経験が長く、料理も洗濯も掃除も出来るし、私が外出しても確かに全く手がかからない。
ただし、アイロンは出来ないから、やってから外出してねということです。
ついでに言うと、出張する時のワイシャツも自分では畳めないので、出張するときは、鞄の隣にソッとハンガーにかかったままのワイシャツが置いてある。
なぜ、ワイシャツ関連だけは極端に自信がないのだね?

で、つい最近「ワイシャツぐらい畳めるでしょう?今時、出張準備を奥さんにしてもらう人っているの?」と聞いたら「え、会社の人、みんなやってもらってるよ」と言うではないか。

小学生かよ!みんなって誰と誰だよ!
というわけで、具体的な名前を出してもらったら、「家庭崩壊寸前やって」と言ってたAさんちだった。(あと、具体的な名前が出たのは1人だった)
崩壊寸前なのに、出張準備はしてもらえるんかい!とずっこけた。
そういう小さなことを当たり前にやらせてるから崩壊寸前なんじゃねぇのかい?
と言ってみたら「まさかそんなことでー!?」と笑っていた。

いや、そういうとこだぞ?


無邪気か!
と思う。
この世の中は、ものすごいスピードで進んでいるのだ。
今更生き方を変えろとは言わない。
正直なところ、私も、一から説明するのは面倒くさい。
「洗剤はアマゾンのこれで買うんが安い」とか「排水溝はこっちのスポンジで洗うんやで」とか「洗濯するときは、部屋干しコースのボタンも押してくれ」とか。
「ワイシャツのたたみかた」なんて説明いる?


まぁ私が快適に過ごしたいから決めたルールも多いし、もう好きにやるから放って置いて欲しいとも思う。
しかし、時代は令和だ。
外での発言は気をつけておけよ?

ただ知っておいてくれ。
世の中にはバランがある。
腹を満たすこともない、大した彩りにもなっていない。
無くても困らないのかもしれない。
だけどバランは、健気に弁当箱を仕切ってる。
きっとあなたは、バランが入っていなくても気づかないでしょう。


「24時間戦えますか?」の歌を歌える世代の人だ。
ジャパニーズビジネスマンの先頭を切って歩んでいくよう教育されてきた。
実際、這いつくばってでも進んだ道もあったし、泥水を啜るような経験なんかもしたはずなのだ。

ハンバーグであれ!生姜焼きであれ!
大黒柱たるもの、その弁当の代表格であれ!
そうやって生きてきた。
家族の腹を満たしているのは間違いなく俺だ、という揺るがない自信を持っている。
今更、バランの気持ちに寄り添えと言われたとて、混乱するのも無理はない。
そして、今更、彩りのプチトマトの役目も果たせない、つまりアイロンは出来ませぬと言い切るのもまぁ仕方ないやもしれん。
クリーニング屋さんという、割と簡単な解決策もあるしな。


つまりだ。
私は夫がハンバーグであることについて感謝をしているし、自分がバランであったりプチトマトであったりと、人知れず弁当箱を整えていることに苦痛をそれほど感じていない。
まぁ時々、イラついたりもするのだけれど。
これは、私もその世代を生きてきたからなんだろうと思うし、なにせ自由にやってるタイプのバランであるからとも思っている。
弁当だけじゃなく、工作にも参加するタイプ。私の居場所は私が決める。(カッコよく言ったがちょっと意味はわからない)

しかし。
あなたがハンバーグで私が生姜焼きであるのなら話は別になってくる。
フルタイム共働き夫婦や、子育て世代が家事について揉めるのもとてもよくわかる。


「ちょっとあなた、自分のソースは自分で処理して!レタス敷くとか!」
「私は汁が垂れないよう、最初からご飯の上に乗る工夫をしているのに!」
「卵焼き(子供)のお迎え、たまにはあなたが行ってよ!」
「お前、ハンバーグだぞ俺は!!ハンバーグが卵焼きを迎えに行ったらデミグラス部長がなんというか!」
「私だって生姜焼きよ!!玉ねぎ先輩がいっつも私をフォローしてくれるけど、これ以上迷惑かけられない!」

落ち着け、多分デミグラス部長はそんなに悪い奴じゃないし、玉ねぎ先輩ステキ!というのはさておき。

どちらがどれだけ我慢してるか。
どちらがどれだけ頑張っているか。
そういうのがあからさまな家庭はもちろんあるに違いない。
「お前をギタギタのそぼろにしてやろうか!?」というような叫びは、最近SNSでよく見かける。(そこまで物騒かは知らない)

どちらもとても美味しいのに。
家族のために美味しくありたいだけなのに。

メインが燦然と輝くのは、弁当の中のバランスが整っているからだと思う。
ハンバーグや生姜焼きだけが、白米の横にドンっとあるだけなのは、彩りが足りない。
その彩りを担ったり、弁当の中を仕切ったりすることが家事だとすれば。
やっぱり、共に彩りについて考え、どちらか一方だけに負担がいかないよう考えなければ、弁当、もとい家族はきっと味気ないものになるのだろう。

いつか知るのは、あの日の弁当が美味かったこと。

なんて。
いいえ、今も、毎日美味しいということを知っておかなきゃいけない。

あなたがハンバーグな時、ついでにバランを用意して。
私が生姜焼きの時、プチトマトを磨いておいておくからね。
あと、ブロッコリーにマヨネーズかけておくの、忘れないでね。
あ、今日は和風ハンバーグ出勤なのね?じゃあ卵焼きにネギ、持たせておく!
私今日、奮発して弁当カップ買っておいたから、今度自分で使ってみて、部下の大根おろし連れて行きたいって言ってたでしょ?
そうそう、卵焼きが早めに迎えに来てねって言ってたよー!

おつかれさま。
今日も美味しいお弁当でありますように。



……で。
これ、家事の話なの、弁当の話なの?
はい。
ただの、役に立たない妄想話です。





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