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記事一覧
ツーベンリッヒは嘘をつく
スカーバッカス、通称『スカバ』
生徒たちが、連日「もう飲んだ?」と囁き合う。
「私、昨日行ったんだけど、お店が開いてなかった」
「え、私は先週ついに入れたよ」
「そうなんだぁ。私、あの味が忘れられないのにもう行けないのかなー?」
どうやら、その日によって、入れる客と入れない客がいるらしい。
「まっすぐ家に帰りなさい」と生徒たちに指導している手前、そのスカバが一体どんな店なのか、気になって仕方
桃源枕 ⑤ 桃子の話
「松阪牛がお腹いっぱい食べたいの」
試しに目覚めた安西くんに言ってみた。
彼は、恍惚とした表情で
「まだ、松阪牛食べ放題ができるほど、僕、夢のコントロールができていません」
とそう言ってから、私の頬に手を伸ばした。
安西くんの夢の中で、私は幾度か彼に抱かれてしまっている。
当然といえば当然の馴れ馴れしさであるが、いいか安西、現実ではまだ、私たちは恋仲になっていないし、何より「好きだ」と告白され
桃源枕 ④ PEACHの話
「松阪牛が食べたい、って言うのは復讐か何かなの?」
モニタリングを終えた桃子が、眉根を寄せながら言う。
例えばワタシが松阪牛一族の末裔であるならば、復讐と言っても間違いはないのかもしれないが、ワタシと牛に関係性は全くないし、松阪牛のおかげで命を繋いだ覚えもないので、これを復讐と呼ぶには全く相応しくないのだが、大きな流れとして捉えれば、これは復讐になるのかもしれない。
モニターの向こうに、3台
ことだまり 《ひと色展》
泣いているの?
え、どうして?
そう答えたけれど、顎からしたたる水滴に自分自身が一番驚いた
私、泣いてるの?
そう聞いたら、彼女はほんの少し首を傾げながら静かに微笑んだ
泣いてはいけなかった
泣くとオオカミがその匂いを嗅ぎつけて食べにくるから
兄弟が1人、また1人と食べられて行くのを、私はずっと時計の中から見ていた
助けて、お母さん助けて!
そう叫んでいる兄弟を助けることができなかった
ど
パーフェクトレモン 《ミムコさんノトコレ応募 フィクション作品》
「お、塩レモン」
冷蔵庫に顔を突っ込んだ夫が嬉しそうに言う。
「国産レモン売ってたからね」
ふふんと誇らしげに答えると
「パーフェクトレモン」
夫が、塩レモンのガラス容器を持ち上げて言った。
「あのね、レモンって完璧なのよ」
力強くそう言われてもピンと来ない。
「じゃあ聞くけど、レモンでホラーとか考えられる? 爽やかでしかないでしょう?」
いやいや爽やかなんてたくさんありますよ、おろし
ロスト・リアリティ《白》#あなぴり企画
さわきゆりさんによる《前半》
透き通るような白い肩を、金に近い栗色の髪が滑り落ちてくる。
フェイシアはゆっくりと両腕を上げ、頭の後ろで指を組んだ。
スカイブルーの背景紙に、ささやかな細い影。黒のベアワンピースをまとった背中が、健吾と僕のカメラの前に凛と立つ。
ライトを浴びて輝く腕は、まるで真珠のように艶やかだ。
「すげえ……」
健吾が、ため息混じりに小さく呟いた。
肩甲骨まで伸びた
ルージュの伝言 《夏ピリカグランプリ》
「ルージュの伝言って知ってる?」
さっきまで全然違う話で笑っていたウタが、唐突に言った。
「松任谷由実の?」
「それ。彼の家で実際やってきた」
ウタは、ふふと笑いながら冷めたコーヒーを啜ると
「これでお別れ、スッキリ!」
そう言って両手のひらを合わせて、幸せ!みたいな顔をした。
「え、何、ケンカ?ケーヤンと?」
「ケーヤン、ふふ」
「中学からずっとそう呼んでるから!それより、ルージュの伝言っ