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才木浩人がすごかったんだよ【5/12 対ベイスターズ戦○】

才木浩人が先発する日は、なるべくプレーボール前から試合を見ていたい。1球目を投げる前からじっくり見たいものがあるからだ。
マウンドの前帽子を脱ぎ、目をつぶって一礼。肘のトミー・ジョン手術をして、投げられない時期を経て戻ってきた才木は、投げる前にこうして感謝の気持ちを表すようになった。マウンドでは豪快、それ以外では飄々としたイメージの才木だけど、きっと本当は1つ1つのことを大事にできる丁寧な人なんだと思う。そして球場で才木のこの所作を見るたび、なんだか客席で見ている僕まで「応援がんばろう」という気持ちになれる。

ベイスターズの球団歌「熱き星たちよ」がスタジアムに流れるラッキー7になっても、才木はマウンドに立っている。グラウンドでチアやマスコットがダンスをしているなか、才木は再びマウンドで一礼をした。目をつぶってじっとしている様は、まるで精神統一しているようにも見える。明るい曲がスタジアムに流れる中、マウンドの周りだけ違う時間が流れているようにも思えた。

ベイスターズの反撃が始まった。先頭の宮﨑敏郎にヒットを許し、続く牧秀悟には四球を与えた。ゆっくり、自分の時間を大事にしながら、横浜に帰ってきた背番号25が打席に入る。

「昨日の試合は昨日のこと。もう終わったことなのだから」

頭ではそう思っていても、昨日の放物線と地鳴りのような歓声はそう簡単に僕の記憶から消えてくれない。筒香嘉智にかける期待。思い。希望。スタジアムに響く声は歓声というより、衝撃波のようだった。

才木が筒香に投じた2球目。打球がセカンド正面に飛んだ。才木の力が勝り、打球が上がらなかった。1番欲しかったダブルプレー。今度は3塁側から大きな歓声が聞こえた。
続く打者もセカンドゴロに打ち取り、才木はグラブを大事そうに何度も叩いた。

「がんばれがんばれ才木!がんばれがんばれ才木!」

レフトスタンドからの大応援を背に、才木は9回を投げきった。128球を投げて、1点も取られなかった。わずか1点のリードを、たった1人で守り切った。最後までストレートの強さは変わらなかった。最終回でも球速は150kmを超えていた。ベイスターズ打線もまっすぐを狙っていたように見えたけど、才木がそれを上回った。7点差をひっくり返せる打線に、才木は勝ったんだ。

帰り道、関内駅は混雑していてホームに入るまでに列ができていた。僕の後ろにベイスターズのユニフォームを着た2人組がいる。今日の試合のことを話しているのが聞こえてきた。

「今日は才木くんが良かったな~」
「ありゃちょっと打てないわ」

そうだよね、そうだよね。才木浩人、すごかったよ。


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