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歴史はその切り取り方で、現実外交に正負どちらにも働く〜オペラ「アニオー姫」に思う

 来年2023年は日越外交樹立50周年記念だ。その記念作品として創作オペラ「アニオー姫」の制作発表がこのほど行われた。ベトナム国立交響楽団の音楽監督である本名徹次氏や漆画家の安藤彩英子氏など、私の知人の多くが本プロジェクトに参加する。

 「アニオー姫」は17世紀初頭、日本が鎖国する以前、朱印船貿易華やかなころ、長崎の商人・荒木宗太郎と広南阮氏の「アニオー姫」との恋物語で実話をもとにしている。長崎では輿入れの行列が壮麗だったことから、おくんち祭りの出し物の一つとなっている。また「アニオー」とはベトナム語でA Nương(阿娘)が訛ったもの、夫を呼称するAnh ơiが誤って伝わったものなど諸説ある。

 40周年の際には東遊運動を提唱したファン・ボイ・チャウと浅羽佐喜太郎との友情物語がテレビドラマになった。東遊運動そのものは日本政府が日仏協約の締結する一方ベトナム人留学生を追放したので、日越にとっては本来負の歴史だ。それを歴史の切り取り方によっては日越友好の歴史に変貌する。

 中国との間では南京大虐殺、韓国との間では慰安婦、徴用工問題が両国の歴史として強調される。南ベトナム政権時代には日本との戦後賠償で200万人餓死問題が取り上げられた。歴史はその取り上げ方、切り取り方によって負にも正にも働く。歴史の扱いは現状における両国関係によって定まる、極めて現代的な課題なのだと思い知らされる。

日本ベトナム友好協会東京都連ニュース「ハノイからの手紙」2022年1月号掲載

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