#17 「RH5」(涙腺崩壊5秒前)
5・4・3・2・1・・・
いかん、また崩壊した。
涙が、いや鼻水も、そして嗚咽も止まらない。
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3人目を産んでから、私の涙腺はおかしくなった。
特定の歌を聴くと、思いっ切り号泣してしまう。
今まで、本や漫画やドラマや映画で泣いたことはあっても、歌ではそんなに泣かないタイプだったのに。
今、私が聴いて思いっきり泣いてしまうのは「脳にくる歌」である。
「そもそも脳にくる歌って何だ?」
これを説明する言葉は、非常に抽象的な表現になってしまい、難しい。
なので、世間的に泣ける歌を「心にくる歌」と表現し、それと比較すれば分かりやすいかもしれない。
①の例は、失恋したときに失恋相手にまつわる曲を聴いたときなど。
これについてはわりと経験がある人も多いのではないか。いわゆる「思い出の曲」である。
②は、自分の知らない感情を見つけ出すような曲を聴いたときなど。
自分の中にあった既存の感情を超える「初見の感情」が突如として姿を現し、ガツンと脳を揺らす。これが私を泣かせる歌なのである。
その衝撃を例えるなら、小学生で初めてB'zの『LOVE PHANTOM』を聴いたとき、もしくは中学生で椎名林檎の『本能』を聴いたときくらいの衝撃。
そしてこのような「脳にくる歌」に出会うと、だいたい5秒ほどでブワーーーっと涙が出てきてしまう。
たびたび出てくるこの現象を私は「RH5(アールエイチファイブ)」(涙腺崩壊5秒前)と勝手に名付けた。
ちなみにこの症状(もはや発作)は6年前から発症しはじめた。
6年前は3人目を出産した直後。
単純に女性ホルモンのバランスがおかしくなってしまったのが原因なのだろうか。
もしくはアラフォーになり、私の脳が勝手に「感情をむき出しにする回路」を作ってしまったのだろうか。
いまだに答えが見つからず、謎は深まるばかりだ。
念のためリサーチしたところ、音楽を聴いて泣くのは、「過去の悲しいや嬉しいや感動の感情を引っ張ってくるから」ということが、やはり主な理由らしい。
でも私のRH5は、これじゃないんだよなあ。
であれば、単純にRH5は私自身の「個性」か「性癖」みたいなものになる。ここまで書いておいて何だが、原因も解決策も見当たらないのであれば、今回私は自分の怪しい性癖についてカミングアウトしただけになってしまう。
いや、本音をいうと「こんな個性をもっている人はきっと私以外にもいるんじゃないか」と仲間を探したい気持ちで、ここまで綴っている。
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「今日は疲れたなぁ」
往復5時間かかる仕事の帰り道、ひとりイヤホンでAmazon musicを聴きながら車を走らせていた。
長時間の運転疲れには、推しの曲を聴くのが一番!と自分を奮い立たせる。
しかし、イヤホンでランダムに推しの曲を聴いていたら、かなりまずいことが起こった。
先日うっかり「お気に入り登録」をした曲が、RH5に該当していた。
そしてランダム再生の中に、その曲が紛れ込んでいたのである。
イントロで気づいたが、運転中のためスマホの操作はできない。
時は19時過ぎ。外はすっかり暗い。
そしてこともあろうに、そこは規定速度が80kmの高速道路上。
歌が流れた。私には黙って聴く選択肢しかない。
私の脳のカウントダウンが始まる。
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だめだだめだだめだ。
泣いたら前がみえなくなる。事故って死んじゃう。
ギリギリの理性がなんとか感情を抑え込み、(こんなときだけ)我が子3人の顔が頭に浮かんだ。
そして私は文字通り「命がけ」で涙を堪えながら20分間、歪んだ顔で都市高速を走るハメになった。
南無三。
全国のRH5持ちの方、運転中の選曲はぜひ慎重に。
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