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【感想】 映画『サンシーロの陰で』【ヨコハマ・フットボール映画祭】

『サンシーロの陰で』

みなさん、映画見てますか?え、サッカーを見てるのでそんな暇はない?あんなホラーよりも怖いディフェンスラインなのに?開始2分で負けることがわかっちゃうポンコツサスペンスなのに?ともかく、サッカーは見ていて、映画を見る時間はないというみなさま、ご安心ください。この世の中にはサッカーと映画を同時に見れる「サッカー映画」というジャンルがあることをご存じでしょうか。そして、そんなサッカー映画だけを集めた「ヨコハマ・フットボール映画祭」というイベントがあるんですよ。

今回の記事は、ヨコハマ・フットボール映画祭の実行委員から「おい、tkq、映画を見てなんか感想を書け。横浜FCよりジェフの順位が下なんだから当然やるよな?」という熱い恫喝オファーをいただき、書かせてもらうことになりました。

ヨコハマ・フットボール映画祭とは?

そもそも、ヨコハマ・フットボール映画祭って何?という人も多いかと思います。平たく言えば、「サッカーに関するナイスな映画をチョイスしてお前らサッカーファンに見せるぜ」というイベントなわけです。もう10年以上続いているイベントで、日本で継続して行われている唯一のサッカー映画祭じゃないでしょうか(唯一じゃなかったらごめんなさい)。

今年は、6月4日(土)から10日(金)に開催されるそうです。上映ラインナップを見ても、ほぼほぼ日本で上映されることがないマニアックな映画ばかりなので、映画好き・サッカー好きとしてはたまらないものがありますよね。詳しい上映スケジュールや場所は上記リンクをご覧ください。

ポーツマスのドキュメンタリーとか誰が見るんですか(※2021年上映)


『サンシーロの陰で』

そんな立派な団体から脅迫オファーを受けたら書かざるを得ません。というわけで、この映画祭で上映される『サンシーロの陰で』というめちゃくちゃ不穏なタイトルの映画について書くことにしました。

あらすじ

『サンシーロの陰で』というタイトルでインテルが題材ということで、最初はインテルのお家騒動を描くドキュメンタリーかと思ったんですよね。02-03シーズンにレコバとバティとヴィエリとクレスポとモルフェオとマルティンスとヴェントゥーラをなぜ揃えたのか?正気か?とか。あるいは、14-15シーズンの冬の移籍でポドルスキとシャキリを同時獲得したのはなぜか?正気か?とか。そういうインテルの面白マーケット戦記を描いてくれると思ったんですが、全然違ったわけです。また、経理担当者が見たら卒倒しそうなモラッティ時代の財務諸表をつぶさに見返すという実録経済ドキュメンタリーでもありません。

ただ、内容の陰惨さでは、この『サンシーロの陰で』も負けてないかもしれません。スウェーデンの16歳の天才サッカー選手マルティン・ベングソンがインテルに青田買いされるというストーリーで、実際にあった出来事を基にしています。

「インテル」と「青田買い」。この2つのワードの組み合わせ、嫌な予感しかしませんよね。なぜインテルと青田買いが最悪の組み合わせであるかということは、ある程度イタリアサッカーの知識がある人ならわかるかと思います。

なにしろ、インテルでは若い選手が本当に育ちません。初代ファイヤーエムブレムのジェイガン並に育たないんですよ。ここ最近でユースからトップに上がって定着した選手はかなり少なく、現状のチームでもフェデリコ・ディマルコくらい。歴史的に見てもユースから昇格してチームの屋台骨となった例は非常に少なく、まさに「インテルナツィオナーレ」という国際的な名称に相応しい不作っぷりですね。勝利を常に要求されるメガクラブでは、ユース上がりの選手が主力になりづらいのは常ではありますが、その中でもインテルはその腰の定まらないクラブ方針もあって、ユースから上がってくる選手が突出して少ない印象です。

なので、マルティンがインテルにこんな感じで入団写真撮ってる時でも、私の心の中のとうもろこし農家が涙を流しながら「この土地で作物が育つことはない」と断言してきて、我々の不安はグングンズイズイ高まってきてしまうわけなのですよね。

まだワクワクです

さて、入団してユースに入ったマルティンなんですが、まあ、それは典型的なイジメを受けるわけですよ。おそろしく雑に管理されてる寮に適当に放り込まれた上に、特にサポートもありません。そもそもイタリア語がわからないということで、普通にハブられます。イタリア人は陽気なイメージですが、やはりユースでの生き残りがかかっていると陰湿にならざるを得ないですよね。当然、私生活で馬鹿にするだけでなく、試合でパスも回ってこなくなります。この時に俺は「あ!これサッカー漫画でやったやつだ!」と進研ゼミのアレみたいな状態になりました。

割とハードなイジメを受けます

それでも、マルティンはがんばるわけです。言葉の通じない環境、親しみのないチームメイトの中でも結果を出し、友人ができたり、恋人ができたりしながら、のし上がろうとします。ただ、世界有数のビッグクラブであるインテルのプレッシャーはすさまじいものがあり、次第に消耗していくマルティン。そして、最後に彼が決断するのは。彼の表情が物語るラストシーンは、ヨコハマ・フットボール映画祭でご覧ください。

マルティーーーン!!!


感想

まず、サッカー映像として非常にレベルが高かったですね。一昔前のサッカー映画だと、肝心のサッカーの場面がトンチンカンだったり、明らかにレベルが低かったりでずっこけてしまうのですが、『サンシーロの陰で』のサッカーシーンはかなりいい感じに仕上がっています。ドリブルは滑らかだし、フリーランを仕掛けたのに無視されてパスをもらえないシーンとかは非常にリアルです。特に、練習中にブチ切れたマルティンが無謀なタックルを仕掛ける場面があるのですが、「これは確実にレッド」「VARしても無駄」とお墨付きが出せるくらいの迫力がありました。

また、青春映画自体としてもクオリティが高い。若者が異国の地で悪戦苦闘するという典型的な物語ではあるのですが、実在するプロサッカークラブという条件を思う存分に使って、かなりリアリティのある出来に仕上がっています。俳優も実によく、特に主演のマルティンを演じるエリク・エンゲの若年アスリート独特の危うい感じの演技はかなり引き込まれるものがありました。周りの配役もいいですね。友人になる同じく少数派のアメリカ人GKを演じるアルフレッド・イーノックは力強く頼りになりますし、イジメ主導役のイタリア人を演じるジャンルカ・ディ・ジェンナーロがとてもよかったです。チャラくて性格の悪いイタリア人は、全人類が大好物です。

テーマも、現代サッカー界の問題を炙り出していてすごくいいんじゃないでしょうか。現在、当たり前のように10代の選手がビッグクラブに移籍していて、彼らはもう10歳の頃から目をつけられています。ほんの子供に過ぎない彼らがマークされ、大人になるかならないかの時点で高値で売り買いされ、そして「競争」の名のもとにふるいをかけられて人生をめちゃくちゃにされていく状況はノーマルなのでしょうか?そんな過酷な状況で若い才能が潰されていくよりも、ジェフユナイテッド千葉で夢を叶えた方がよいのでは?そう思ってしまいますよね。

というわけで、『サンシーロの陰で』は映画館で流してもいいんじゃないの?というくらい出来が良く、サッカー好きじゃない人にもオススメできる良作でした。普通にデートに耐えうるサッカー映画というのがなかなかないので、気になる異性を誘ってもいいと思いますお前らに誘える異性がいるならな。

その他にもめちゃくちゃ世界規模の兄弟喧嘩を描いた『アディダスVSプーマ』、メキシコサッカーダメオヤジ映画である『バモス!ドミンゴ』など気になる映画が目白押し。梅雨の遊びは室内に限る。外でずぶ濡れになることなく、フットボールの世界に浸ってはどうでしょうか。

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