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ゲームクリエイターの頭の中はどうなっているか?

想いをつたえられるのは
言葉だけじゃないよ……。

FF7 ティファ

いきなりだけど、あなたの好きなゲームのことを僕に説明してみて欲しい。あなたはどんな風に説明するだろうか。そのとき、あなたの頭の中には何が思い浮かんでいるだろうか?

ゲームの映像が思い浮かんでいる?その映像はどれくらい鮮明だろうか?画面に映るUIや背景の端まで思い出せるだろうか?

あるいはゲームの特徴を説明する言葉が思い浮かんでいる?その言葉はどれくらい本質を捉えた言葉だろうか?もっと正確な言葉があるのでは?

何を知りたかったのかと言うと、あなたが視覚思考者なのか言語思考者なのかだ。「ビジュアルシンカーの脳」という本によると、世の中には言葉を使って考える言語思考者と、イメージを使って考えると視覚思考者がいるらしい。

現代社会ではとかく言語化が持て囃されている。学校教育ではテストのたびに言語化の力が問われ、就職活動では面接やエントリーシートで言語化を前提とされる。

しかし我々ゲームクリエイターというお仕事はどうだろうか。ゲームをつくるために必要なのは、ゲーム画面を鮮明にイメージする視覚思考の方な気がしてくる。

実際のところはどうなのだろう。この記事では「ビジュアルシンカーの脳」という本と、X(旧Twitter)で行ったアンケートをもとに、ゲームクリエイターの頭の中について自分なりに分析してみようと思う。


1.導入

この記事の背景

  • 「ビジュアルシンカーの脳」という本を読んだ。

  • X(旧Twitter)でゲームクリエイターの人たちと交流するなかで、ビジュアルシンカー的な思考をする人が多いように感じた。

  • そこでゲーム関連の人たちを対象に、言語で考えるかイメージで考えるかというアンケートをとってみた。

この記事の目的

  • 「ビジュアルシンカーの脳」の内容をもとに、ゲームクリエイターの思考を分析してみる。

  • いろいろな思考特性があること、そこに優劣は無いことを示して、思考の多様性の重要さを知ってもらう。

2.ビジュアルシンカーの脳

書いてあること

  • 世の中には言葉を使って考える言語思考者と、イメージを使って考えると視覚思考者がいる。両者は、ものを考えるときに活性化する脳の部位が違うらしい。

  • 視覚思考者はさらに、具体的なイメージに強い物体視覚思考者と抽象的なパターンに強い空間視覚思考者に分かれる。

  • 実際はハッキリどれかに分類されるというわけではなく、多くの人がこの中のグラーデーションのどこかに位置する。

  • 言語思考と視覚思考それぞれに向き不向きがあるが、現代の学校教育は言語思考者向きの内容になっていて視覚思考者は落ちこぼれになりやすい。

  • Apple社のジョブズとウォズニアックのような、言語思考者と視覚思考者のコラボレーションは高いパフォーマンスを発揮する。

  • 天才と呼ばれる人は、極端な言語思考者や極端や資格思考者など、グラーデーションの極地にいる場合が多い。

  • そういった人たちは、変人と呼ばれていたり、現代で言う発達障害の傾向が見られるが、それらは脳の多様性の1つであり、優劣の対象となるものではない。

  • その他、視覚思考者の活躍の事例や、動物の思考、これからの教育について、などなど。

簡単な感想

  • ゲームデザインの勉強のために脳に関する本をよく読むが、その中でも本書は興味深いテーマで文章も読みやすく、とても面白い本だった。

  • 自分はおそらく言語思考寄りの人間なのだが(自己分析については後述)、ゲームクリエイターはこの本で紹介される視覚思考者寄りの仕事のように思った。

  • しかしチームプレイであることも多く、言語化が求めれる機会もたくさんあるので、ゲーム業界で働く人はどちらのタイプが多いのか興味がわいた。

3.アンケート結果と自己分析

アンケートをとってみた

  • ちょうど良いことに以前書いた記事に関連して言語化に関する話題が出ていたので、X(Twitter)でアンケートをとってみた。

  • こちらがその結果である。ご協力いただいた皆様、ありがとうございます。

  • 厳密に言語思考者か視覚思考者かを問うアンケートになっているわけではないが、やはりゲームクリエイターはイメージ(視覚)で考える人が多いようだ。

自己分析

  • アンケートの結果から言うと少数派になるが、僕は自分のことを言語思考寄りの人間だと思っている。

  • とはいえゲームについて考えるときは必要に応じてゲーム画面を思い浮かべるので、アンケートの回答としてはイメージで考えるに該当するかも知れない。

  • 「必要に応じて」と書いたのは、僕は何かを考えるとき無意識にイメージが思い浮かぶことはほとんど無いからだ。頑張って思い浮かべてもかなり不鮮明である(なので絵が下手だ)。

  • その代わりに言語化で困ったことはほとんど無い。頭の中の思考過程は常に言語化されているので、言葉で説明するのはまさに朝飯前だ。

  • ちなみに「ビジュアルシンカーの脳」には視覚空間型思考判定テストという、18の質問に答えて思考のタイプを診断するテストが乗っている。「はい」の数が多いほど視覚思考寄りだ。質問の内容は書かないが(ぜひ本を買って読んでいただきたい)、僕は明確に「はい」と言えるのは4つほどだった。

4.ゲームクリエイターの思考

言語思考タイプの考え方

  • 実際の事例(といっても僕だが)を参考に、言語思考タイプのゲームクリエイターの考え方を分析してみる。

  • 言語思考タイプのゲームクリエイターは言語を使って思考するので、コンセプトやテーマといった抽象的な概念を考えるのが得意だ。

  • 扱う概念を言葉として思い浮かべて、それをもっと厳密な(意味する範囲の狭い)別の言葉に分解して具体的にしていく。

  • コンセプトやテーマといった大きな概念から始まって、ゲームサイクル、メカニクス、データと細かな概念になっていく。

  • 最も小さくて具体的な概念にたどり着いたら、ようやくゲーム画面やゲームプレイの様子がイメージできる。

  • 場合によってはイメージにする前に、言葉のままで他の人に相談することもある。

言語思考タイプがぶつかる壁

  • 意識しないとゲーム画面を思い浮かべるのが後回しになりがちなので、実際に画面に載せたときに画面に上手く収まらなかったり、わかりにくかったりすることがある。

  • ビジュアルを思い浮かべるのが苦手なので、ラフスケッチや仮モデルから完成品を想像するのが難しい。

  • 空間把握能力が低いがちなので、空間設計やオブジェクトの配置に苦労する(置いてみないとわからない)。

  • 思考に言語を使うので、名前を知らないもの(あるいは名前のないもの)について考えるのが難しい。微妙な感情やゲームの細かな仕様には名前がついてないことが多いので困る(頭の中で勝手に名前つけがち)。

視覚思考タイプの考え方

  • 視覚思考タイプの考え方は、X(旧Twitter)でのアンケートに関連したポストや「ビジュアルシンカーの脳」の記述をもとに分析してみる。

  • 視覚思考タイプのゲームクリエイターはイメージを使って思考するので、実際のゲーム画面やゲームプレイの映像を思い浮かべるのが得意だ。

  • 頭の中では、ある瞬間のゲームプレイが既に完成していて、それを具現化していくようなイメージでゲームをつくっていく。

  • イメージから新たなイメージを連想し、そうやってゲームの全体像が形作られていく。

  • チームでの情報共有やプロモーションのために、必要であれば頭の中のイメージを言語化する。イメージを言葉に変換しているので、情報が欠損するようなもどかしさを感じる。

視覚思考タイプがぶつかる壁

  • 頭の中のイメージを他人に伝えるときに、上手く言語化できない場合がある。

  • イメージを言語に変換して喋っているので、会議や口頭での相談の際にテンポが落ちる。

  • イメージにしにくい抽象的な概念を扱うのが苦手で、コンセプトやテーマを解釈するのに時間がかかる。

5.言語思考と視覚思考のコラボレーション

コラボレーションの重要性

  • 「ビジュアルシンカーの脳」では異なる思考特性を持つ人々によるコラボレーションの重要性が説かれている。

  • 僕自身も、ゲーム業界で10年ほど働いてきたなかで多様な考え方の人が集まっている(そしてそれが歓迎されている)プロジェクトの方が素敵だなと思う感覚がある。

  • そこで「ビジュアルシンカーの脳」を参考にしつつ、ゲーム開発における言語思考と視覚思考のシナジーを考えてみる。

抽象と具体

  • 僕はつねづね、クリエイティブや課題解決のためには抽象と具体の両方の視点を柔軟に行き来することが大事だと考えている。

  • そう考えると、言語思考は抽象的な思考に強く、視覚思考は具体的な思考に強いように思う。

  • ゲーム開発では、抽象的なテーマやコンセプトから具体的なゲーム画面を完成させていく必要がある。そのためには優れた言語思考者と視覚思考者が揃い、その中間の思考を持つ人達が両者を橋渡しするようなチームが理想的なように思える。

独創性と共感性

  • 言語思考者は言葉から言葉を連想し、視覚思考者はイメージからイメージを連想する。

  • 言葉から言葉の連想は、意味や論理に縛られて独創的な飛躍を起こしにくい。そもそも言葉の数には限りがあるので、言語思考の独創性には限界があるように思う。

  • 対してイメージからイメージの連想はとても自由だ。意味に縛られず、色、形、配置、パターン、様々な要素で飛躍していく。したがって視覚思考者は独創性の高いアイデアを出すのが得意だと言えるだろう。

  • しかしこういった独創的なアイデアは、場合によっては人に共感されない可能性があるだろう。そこで言語思考者のターンが回ってくる。言葉は人類の基本的なコミュケーション手段であり、共感を得るための強力な武器になる。

6.まとめ

記事の要約

  • 世の中には言葉を使って考える言語思考者と、イメージを使って考えると視覚思考者がいる。

  • アンケートの結果、ゲーム業界は視覚思考寄りの人が多そうである。

  • 言語思考のゲームクリエイターはテーマやコンセプトといった抽象的な概念から考えるのが得意。

  • 言語思考と視覚思考にはそれぞれ向き不向きがあり、両者のコラボレーションが重要である。

言いたいこと

  • ゲームのメインとなる出力は映像なので、ゲームクリエイターはイメージで思考する能力が大事。

  • そういう意味で視覚思考者の人はゲームクリエイターに向いていると思う。羨ましい。

  • しかし言語思考のゲームクリエイターにも、抽象化と言語化という武器がある。

  • ゲーム業界は、いろいろな思考を持つ人がコラボレーションして面白いものを作っていく世界であってほしい。

  • 「ビジュアルシンカーの脳」とっても面白いし、自分と考えが合わない人に少し優しくなれる本なので、みんな読もう!

参考資料


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