見出し画像

【コラム】米大統領選はまだ終わっていない:一般投票結果への不満からホワイトハウス請願制度を濫用することの愚

[Last updated: 2020/12/14]

はじめに

ホワイトハウスの請願署名サイトに2020/11/6付で『2020年度大統領選挙のリコールとやり直しを求める』(Recall and Redo Presidential Election 2020)という請願が出されているが,実際の内容は本文が求める行動とは裏腹の内容になっている。請願作成者が,作成の目的を「問題や政策について連邦政府の見解の表明若しくは説明を求める」ことを主眼としてるため,「2020年度大統領選挙のリコールとやり直しを求めることについて連邦政府の見解の表明若しくは説明を求める」(Ask the federal government to Take or explain a position on the Recall and Redo of Presidential Election 2020)内容となってしまっているのだ。

画像1

即ち本文の内容と目的が乖離している。

この請願サイト『We The People』はオバマ政権時代に制作されたもので,2017年8月以降,ホワイトハウス側は請願に対する回答を行っていない。これは,2017年時点でトランプ政権の方針としてサイトの廃止が決まっていたからだ。オバマ政権が行ったものを「UNDO(なかったことに)する」トランプ政権の基本方針に則ったものだ。

過去の実績

こうした事情を知らずに,ちょうど2年前の年末に,ハワイ在住の沖縄系アメリカ人の男性が沖縄の米軍基地建設に反対し工事の一時中止を求める請願を作成した。この請願は時限的なもので,沖縄でこの問題に関する住民投票が行われるまでの間,工事の一時中止をトランプ大統領に要請するという道理に適った請願だった。

この請願は国内外で多くの支持を集め,沖縄に所縁のある著名人たちの助けもあって最終的に請願成立の期限までに20万票を集めた。

最初の10日間で目標の10万票を達成できていたので,ホワイトハウス側は規定により60日以内に何らかの回答を公式にすることを義務付けられている筈だったが,2年が経過した今も回答はない。

制度の仕組み

この請願サイトの仕組みは,請願公開から30日以内に10万票の署名を集められた場合,ホワイトハウス側から何らかの公式回答を得られ,更に請願サイトに公開されるようになるというもの。裏を返せば,目標に達しないと回答を得られないことは勿論,サイトに請願が公開されなくなる(※リンクURLからアクセスは可能だが署名はできなくなる)。 

ところが,トランプ政権以降は2017年8月を最後に,ホワイトハウス側は回答することを止めている。2017年1年で回答のあった請願は7件のみ。トランプ政権の基本方針に則り,オバマ政権が始めたものが当に「なきもの」とされている(UNDOされている)ということの証左だ。それでも,サイトを利用する者は後を絶たない。そして作成される請願の内容の劣化が著しい。

辺野古移設反対署名の第一弾が数値目標を達成したことに自信を得た請願作成者は,2019年2月,『沖縄の民主主義とサンゴ礁を守れ』と題して署名の第二弾を開始した。奮闘の結果,19,429名の賛同をいただいたが,期限内に目標の10万票に達しなかったため,規定に従い請願サイトから非公開となり,署名継続も不可となった。

正当な手続きを経て慎重に作成した請願でもこうなる。だが,第二弾の請願の発案に関わった者として誇りを持って言えるのは,いずれも米国の主権を尊重し,米国が自ら決めるべきことという神聖不可侵な領域には決して踏み込まなかったことだ。ところが,今回の「大統領選リコール」署名には,そうした矜持や抑制がまったくみられない。

他国の国政選挙に関わることの意味

今回の請願の作成者が日本人であるか否かは,規定上問題ではない。請願作成をシミュレートした時に判明したが,作成者がアメリカ人でなければならないという規定は存在しないからだ。


問題は,国家主権にかかわる国政選挙,それも国家の指導者を選ぶ大統領選挙について,参政権も選挙権もない日本人がこぞって,政治的意図のある請願署名に賛同しこれを推進する役割を担っていることだ。

これは内政干渉である。

他国の大統領選挙について,特定の候補者の支持を表明したりその陣営の内容をリツイートしたり日本語に翻訳することは問題ではないと思う。問題は,その表明や翻訳を逆方向に行い英語で発信することだ。つまり,選挙に影響を及ぼすような挙動を米国の有権者に示すことは,日本の公選法でいえば『選挙運動』を行っていることになる。米国民を含む全世界3億人が利用するSNS上でこれを行う事は、立派な『選挙運動』なのである。

今回の「大統領選リコール」署名を支持拡散している右派や保守派は日々,外国人参政権に反対し,外国人は日本の政治に口を出すな,関わるな,と主張している。今回の行動は,連中がもっとも嫌う外国人の国内政治への干渉という禁忌に触れている。己の自己矛盾を恥ずべき行為である。

一部の日本人の支援者によるこの「干渉」を,政治倫理に欠ける一部のアメリカの有権者は歓迎するかもしれないが,内政干渉であることに変わりはない。各国の憲法上の神聖不可侵な権利である投票権を濫用する行為である。米CIAが中米や東欧各国で行ってきた非合法な選挙支援活動となんら変わらないのである。その深刻さを日本人の支援者らは認識すべきだろう。

大統領選はまだ終わっていない

尚,厳正な憲法上の手続きに則って行われるアメリカの大統領選は,今回一般投票で確認された選挙人数(electoral votes)だけでなく,12月に行われる選挙人団(electoral college)による選挙人(electors)の投票によって初めて結果が確定する。選挙票は大統領を選出する公式な手続きではなく,「選挙人を選出する公式な手続き」なのである。

前回2016年の選挙では,この選挙人数の数でトランプ候補がクリントン候補に大幅に勝ったが(232人対306人)、今回2020年の選挙では,バイデン候補が大差で現職のトランプ候補に勝っている(290人対214人)。

画像2

激戦州3州を残して既に290の圧倒的多数の選挙人数を確保しており,仮にトランプ候補が残りの激戦州3州(ジョージア、ノースカロライナ、アラスカ)を全勝しても,過半数の270には遠く及ばないとみられている(+40選挙人でもトランプ候補の獲得人数は254人)。故に,AP通信を情報源とするとTIME紙はバイデン候補を勝者とみなし,11/8(現地時間11/7)にバイデン陣営側により勝利宣言がなされた。

選挙人には『誠実な選挙人』("faithful elector")と『不誠実な選挙人』("faithless elector")の二種類がある。「誠実な選挙人」とは,選挙人投票で支持された候補を支持して忠実に投票する選挙人をいう。「不誠実な選挙人」は自由に投票し,ときには選挙人投票で支持されなかった候補に投票することもある。つまり,正式に大統領候補となった者以外に投票することもある。尚,この分類は公式に振り分けられたものではない。

しかしこのVOXの記事によると,『不誠実な選挙人』が枠外の(rogue)投票を行ったとしても,大勢には影響がなく,選出された選挙人数を確保した候補が順当に大統領に選出されるのが慣例であるという。つまりこの慣例が打破されるか否かが今後の選挙戦の焦点となる。慣例通りであれば,順当にバイデン候補が次期大統領に選出される。

じつは『不誠実な選挙人』の問題は各州によってすでに対応がなされている。法律により一般投票の結果に忠実でない投票を行う選挙人を罰する規定を設けている州が多いのだ。

中でも今回の選挙で接戦州となったアイオワ州(トランプ候補が勝利)は,誠実でない投票を行うことを表明した選挙人を罷免し代わりの選挙人を立てることが法律で可能とされている。これは連邦最高裁の判例に基づく法令で「一般投票結果に誠実でない(誓約どおりに投票しない)選挙人を法で罰せることは合憲」と判断されたためだ。

BuzzFeedによると,バイデン候補が勝利したスイング州であるウィスコンシンやネバダの選挙人(共和党支持)は,勝利した党の選挙人が選出されるため投票権を失ったが,各州においてバイデン候補が「大差」で勝利したことは間違いないと確信する。

したがって,多くの民主党の選挙人がこの勝利を疑問視しないかぎり,選挙人団投票で大統領の選出が覆る可能性は低いだろうと考えられている。

だが,大統領選はまだ終わっていない。一般投票は,公式な選出プロセスの一環に過ぎずそれのみで完結してはいない。内政干渉する愚を犯してまで他国の国政選挙それも首班選挙に抗議するのならば,せめてすべてのプロセスが完了してからではどうなのか。

大統領就任は1月だが,その前に12月の初めに選挙人団による投票が行われる。そこでは,わずかな可能性だが『不誠実な選挙人』によって一般投票の結果が覆る可能性だってある。せめてその公式な選出プロセスすべてを見届けた上で,「どこ」で不正が行われたかを問題視すべきではないか。

もし,一般投票プロセスのどこかの過程に問題があったのなら,それは選挙人団も投票行動の考慮に入れる筈なのだから。その選挙人の自由意志(『不誠実な選挙人』の行動)を尊重してこそ、真に自由で公正な選挙を求める姿勢といえるのではないだろうか。

【補足】ホワイトハウスMLからの解除方法

それでも今回の請願に署名したい人に注意点を一つ。

署名する時に下記の☑️を外しておかないと、ホワイトハウスのML(メーリングリスト)に登録され、ひっきりなしに情報メールが届くようになる。

画像3

☑️を外し忘れた人や登録を解除したい人は、次の手順に従えば解除できる⤵️

署名後届いたメールの最下部で”Unsubscribe”をクリックし、

画像4

次の画面で一番上の選択肢を選び”Submit”をクリックする。

画像5

前回の辺野古移設反対請願の推進時にはこのことを周知することを失念し多くの方がメーリングリストに登録されたことと思う。申し訳ない。決してスパムではないので上記手順に従っていただければ解除は可能だ。

尚,内政干渉に当たる「選挙運動」に加担するのであれば相応のリスクがあることも承知しておいてほしい。次期政権下でどのような処遇になるかを。

当然ながら,署名はUNDO(なかったことに)はできない。署名した事実は残り「米国の国政選挙に不法に関与しようとした外国人」という記録はメール・IPアドレスともに残る。今後入国が難しくなったりビザの取得などに影響が出た場合は,過去の行動がデータベースで照会されたからだと思うしかない。

noteをご覧くださりありがとうございます。基本的に「戦う」ためのnoteですが、私にとって何よりも大切な「戦い」は私たち夫婦のガンとの戦いです。皆さまのサポートが私たちの支えとなります。よろしくお願いいたします。